メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年10月29日~11月5日

善と悪―倫理学への招待
善と悪―倫理学への招待大庭 健

岩波書店 2006-10
売り上げランキング : 1013


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

物事の善悪を判断する基準とは何か。そもそも存在するのか。時代や社会によって全く答えが違ってくるこの問いかけを糸口に、倫理学者が道徳や倫理の考え方の基本を解説した。いかに背景が違えど、我々の誰もが他人に対して何者かとして存在する一方で、誰もが他人とは取って代われない単独者であるという事実は変わらない。深みのある解説だが専門用語をほとんど使わずに豊富な事例を挙げており、理解しやすい。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

働くみんなのモティベーション論
働くみんなのモティベーション論金井 壽宏

NTT出版 2006-10-13
売り上げランキング : 95


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発する
あなたがリーダーに生まれ変わるとき―リーダーシップの潜在能力を開発するジョン・マクスウェル 宮本喜一

ダイヤモンド社 2006-09
売り上げランキング : 127


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

実践EQ 人と組織を活かす鉄則―「共鳴」で高業績チームをつくる
実践EQ 人と組織を活かす鉄則―「共鳴」で高業績チームをつくるリチャード ボヤツィス アニー マッキー Richard Boyatzis

日本経済新聞社 2006-09
売り上げランキング : 152


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

無形資産価値経営―コンテクスト・イノベーションの原理と実践
無形資産価値経営―コンテクスト・イノベーションの原理と実践寺本 義也 原田 保

生産性出版 2006-09
売り上げランキング : 362


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

三年ほど前、取材先の企業で人事担当者が「社員に『やらされ感』が強まっている」と漏らした。今も覚えているのは、創造性に富んだイメージの強い優良企業二社で、同じような言葉を続けて聞いたからだ。

理由も似ていた。業績向上で会社は大きくなるが、業務効率は落とせない。効率を高めるために業務を細分化するため、個々の社員には自分の仕事の意義がつかみづらくなる。このため、仕事に対して受動的になりやすいのだという。

上場企業の九月中間決算の発表が続いている。過去最高の利益を上げる企業も多いが、社員の意識がどうなっているのかが気になる。増える仕事に追われて受け身になる社員が増えているとすれば、内からの衰退が始まりかねない。

資源がなく、人口も減り始めた日本。企業が絶え間ない革新で競争力を高めるには、いかに社員のやる気を高めて潜在能力を引き出すかが、これまで以上に重要な課題になる。人事評価・賃金制度を含め、ヒトの生かし方を見直すときだろう。

●意欲の調整巧みに
金井壽宏『働くみんなのモティベーション論』(NTT出版・二〇〇六年)はそのヒントになる。著者は読者に、モチベーション(やる気、意欲)を自分で調整するための持論を確立しようと提唱する。誰でも仕事へのやる気が出たり、出なかったりの波を経験するだろう。いつもやる気満々では身がもたない。職業を問わず、優れた業績を残す人々はその波を巧みにコントロールしているという。

モチベーションを外発的、内発的に分けて論じた章では、外発的報酬のマイナス面も指摘する。いわゆるアメとムチで社員を操縦しようとすれば、社員同士の人間関係が悪化したり、社員が与えられた課題以外に挑戦しなくなったりする。成果主義賃金の副作用と読み替えられるだろう。ただ著者は外からの刺激を頭から否定せず、内からわき出る意欲との組み合わせが重要だと指摘する。

会社員なら、仕事への意欲は上司によって左右されると感じる人が多いだろう。ジョン・C・マクスウェル『あなたがリーダーに生まれ変わるとき』(宮本喜一訳、ダイヤモンド社・二〇〇六年)は部下をもった人に一読を薦めたい。人材育成について著者は、部下に「自分は価値ある存在だ」と感じさせることや、激励の重要性を強調する。

激励など当たり前のようだが、複数の人にパズルを解かせる実験にはギクリとする。ウソの成績を教えると、良かったと言われた人は次に成績が上がり、悪かったと言われた人は下がるという。リーダーの褒め方次第で部下の意欲が左右され、その部下もいずれはリーダーになる。影響は後々まで及ぶ。

●ストレス克服策も
優れたリーダーでも仕事のストレスや家庭の問題などで疲弊し、失格の危機に陥ることがある。リチャード・ボヤツィス、アニー・マッキー『実践EQ 人と組織を活かす鉄則』(田中健彦訳、日本経済新聞社・二〇〇六年)は、実例を基にリーダー転落の要因を分析し、再生への処方せんを示す。能力の高い人物ほど仕事の負荷が過重になりやすく、「自己犠牲症候群」にかかる危険性があると警告する。

ユニリーバの会長からロイター会長に転じたナイル・フィッツジェラルド氏も登場する。ユニリーバの洗濯関連商品部門で責任者だったとき、洗剤の品質問題などで苦境に陥った。しかし、死が目前に迫った親友の言葉で目覚め、自分を取り戻す決意をしたという。リーダーは生身の人間でありながら、弱みを見せにくい立場にある。こうした研究は貴重だ。

寺本義也、原田保『無形資産価値経営』(生産性出版・二〇〇六年)は知識社会時代の組織変革を扱っている。価値創造のためには経営理念や人材などの転換が必要だと説き、松下電器産業やネットベンチャーのはてな、品川女子学院など多様な事例を挙げる。人的資産が競争力の源泉になる時代に、リーダーシップを発揮すべきなのは経営トップや特定階層のリーダーに限らないと指摘している。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

主君「押込」の構造―近世大名と家臣団
主君「押込」の構造―近世大名と家臣団笠谷 和比古

講談社 2006-10-11
売り上げランキング : 8736


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

伊達騒動の発端になった伊達綱宗の隠居、八代将軍吉宗の対抗馬でもあった尾張徳川家の宗春の隠居……江戸期にたびたび起こった家臣による主君の強制的隠居事件の背景にはどんな社会的合意があったのか。その君臣秩序の構造に迫った画期的論考。初版刊行から十八年、改訂増補して文庫化した。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

「日本の祭り」はここを見る
「日本の祭り」はここを見る八幡 和郎 西村 正裕

祥伝社 2006-10
売り上げランキング : 66496


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

京都の祇園祭や徳島の阿波踊り、青森のねぶたなど百万人以上が集まる祭りから、素朴な村祭りのようなものまで、日本には大小三十万以上の祭りがあり、年中行われているという。本書は神事や伝統芸能の継承などの切り口で、全国の祭りを紹介。観光ガイドとしても便利だ。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

ルビコン―共和政ローマ崩壊への物語
ルビコン―共和政ローマ崩壊への物語トム ホランド Tom Holland 小林 朋則

中央公論新社 2006-09
売り上げランキング : 829

おすすめ平均 star
star珠玉の一冊
star時間を忘れさせる
star塩野七生より面白い!!!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

本書の舞台は二千年前の地中海世界。約五百年間続いた共和政ローマが崩壊し、帝政ローマに移行する古代史の大きな転換点を描いた歴史ノンフィクションだ。タイトルの「ルビコン」は紀元前四九年、ガリア(主に現在のフランス)を征服したカエサルがライバルの実力者ポンペイウスとの対決を決心し、本国イタリアとの境界をなすルビコン川を渡った故事にちなむ。

著者は英BBCラジオの放送作家で、ギリシャ・ローマ古典作品をもとにした番組の脚色を担当。『プルターク英雄伝』や雄弁家キケロの著作を自在に援用し、カエサル、ポンペイウス、アウグストゥスら世界史の教科書でおなじみの登場人物が織りなすドラマをよみがえらせる。

全編を通じて強い印象を与えるのは、共和政ローマの政治世界には暴力、裏切り、買収、ねたみ、愛欲にかかわるスキャンダルなどあらゆる否定的な要素が渦巻いていたことだ。相次ぐ国内の反乱を捕虜の虐殺で終わらせた独裁官スッラ、並外れた財力と権謀術数をもとに政界の頂点、執政官まで上り詰めたクラッスス。共和政の息の根を止めたカエサル顔負けの役者がそろう。

共和政ローマが理想とした「自由」という価値は、平和や平等という観念と共存するものではなかった。自由と民主主義を掲げた超大国が世界を席巻する現代を分析する、貴重な視座を提供してくれる。小林朋則訳。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

リスク社会を見る目
リスク社会を見る目酒井 泰弘

岩波書店 2006-09
売り上げランキング : 37462

おすすめ平均 star
star経済学者が見る目線

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「リスク」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)するようになってからどれぐらい時間が経(た)つだろう。今日、平均的な日常生活を送るうえで、リスクという概念をまったく考えなくてもよい日はほとんど一日たりともない。私たちはまさにリスク社会を生きているといっても過言ではないだろう。

しかし、現実にリスクといった場合、どのような種類があり、どういった影響を受けているのか、そしてその帰結としてリスクとどう向き合っていったらよいのかを私たちはつい見落としがちである。

本書は私たちが視聴するNHKの大河ドラマや血液型、大相撲でごくたまに目にする三者による優勝決定戦、巴(ともえ)戦などの身近なケースを題材に、そうしたケースのなかに潜むリスクと影響を考えることで、私たちが身近なリスクとどう付き合っていったらよいのかを説いている。

リスクというととかくマイナス面を考えてしまいがちだが、リスクなしの人生はあり得ないし、またあったとしても無味乾燥で面白くない。リスクはクスリと同様でプラスマイナスの両面があり、プラス面をうまく引き出せばかえって人生を豊かにするというのが著者の主張である。

著者の思いが強すぎる分、ところどころ文章が冗長になっているのが残念。もっともそうした点を割り引いても、私たちはリスク社会と複眼的に向き合うべきだという著者のメッセージは十分伝わってくる。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

投資事業組合とは何か
投資事業組合とは何か田中 慎一 保田隆明

ダイヤモンド社 2006-09-01
売り上げランキング : 700

おすすめ平均 star
starLPSを中心にした投資事業組合の解説本
starわかりやすく、読みやすい

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

投資事業組合への風当たりが強まっている。ライブドア事件で粉飾決算の道具に使われたことなどが背景にある。「なんだか怪しい」と思われがちな投資事業組合についてわかりやすく説明し誤解を取り払おうというのが本書だ。

摘発された「村上ファンド」など投資ファンドも投資事業組合であり、投資ファンドについての本はたくさん出ている。その中で本書がひと味違うのは、著者の一人が投資事業組合の「怪しい」部分を身をもって熟知している点だ。ライブドア事件に巻き込まれた監査法人のパートナーを務め、そのときの体験を前作『ライブドア監査人の告白』にまとめた経歴の持ち主なのだ。

投資事業組合について「日本経済に多大な貢献をしてきた重要なプレーヤーの一つ」との立場から、その種類や仕組みを解説する。ライブドア事件など個別事例も取り上げ、著者なりの問題意識も提示している。例えば、福井俊彦日銀総裁の村上ファンドへの出資問題。出資の際に使われた投資事業組合が福井総裁専用の匿名組合だったことから、「匿名組合悪玉論」に拍車がかかった。これについて「スキームそのものに違法性はまったくない」とし、「あくまで福井さん自身の倫理上の問題」と指摘する。

「投資事業組合が悪いわけではない」とのメッセージを発しているとはいえ、本書は基本的には解説書・実用書。一般のサラリーマンでもサラッと読める内容だ。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

MANDALA 光の旅―釈迦如来
MANDALA 光の旅―釈迦如来nanaco

日本放送出版協会 2006-09
売り上げランキング : 76211


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

髪の毛一筋ほどの太さの筆で描かれた「釈迦如来曼荼羅(まんだら)」をクローズアップ技法を駆使して撮影した。著者は細野晴臣やCoccoらミュージシャンのCDジャケット撮影を中心に活動する写真家。一枚のマンダラが、光のあて方で虹のように多彩な金色に変わる。カメラは極限まで細部に近づき、マンダラの諸相を際だたせようと試みる。仏たちの優雅な所作とほほ笑みが、その努力に報いているようだ。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

ドキュメンタリー映画は語る―作家インタビューの軌跡
ドキュメンタリー映画は語る―作家インタビューの軌跡山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局

未来社 2006-10
売り上げランキング : 172711


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

映画新聞合本〈3〉第85号→第156号+第18号
映画新聞 (編集)

映画批評と映画ジャーナリズムの衰退が嘆かれて久しい。好況をうけ雑誌にネットに映画記事はあふれているが、大半は宣伝のために一方的に流される「情報」だ。情報量に反比例して「言説」はやせ続けている。

そんな折、映画を巡る言説の力を感じさせる本を見つけた。山形国際ドキュメンタリー映画祭東京事務局編『ドキュメンタリー映画は語る』(未来社)というインタビュー集だ。同映画祭が一九九二年から年二回発行してきた機関誌「Documentary Box」に掲載した記事を収録している。

語り手は二十六人。亀井文夫(生前の講演記録)から、岩波映画出身の土本典昭、黒木和雄らを経て、原一男、佐藤真、森達也まで。さらに実験映画の鈴木志郎康や松本俊夫、ドキュメンタリーと劇映画を往還する是枝裕和や河瀬直美、スタッフとして現場を支えた松村禎三、たむらまさき……。

折々の特集上映などを機に取材したもので、必ずしも体系的とはいえないが、十七年続く映画祭の蓄積は大きく、日本のドキュメンタリー映画の厚みを感じさせる人選だ。さらに興味深いのは映画祭スタッフが務める聞き手が「ドキュメンタリーとは何か」という問題意識を共有していること。それが作り手の問題意識とも響き合い、生々しい対話が成立しているのだ。

例えば従軍して中国戦線を撮った瀬川順一について問われた土本が「キャメラマンとして、どうしても撮れないという肉体がある」という瀬川の言葉を引き、「体の中に染み込んだ知性」と評価する。原はテレビの「やらせ」を問われ「カメラがそこにある限り自然の人間の姿だけ撮るなんてありえない」と断言する。いずれもドキュメンタリーの本質を突く強烈な言葉だ。

八九年、九一年の同映画祭でデイリーニュースを編集したのは大阪で自主上映活動をしていた「映画新聞」(九九年に休刊)のスタッフだったが、九二年以降の同紙を集めた『映画新聞合本3』(ブレーンセンター)も刊行された。ここにも見る側(批評家、編集者)と作る側(監督、スタッフ)が肉声で語り合うような緊迫感がある。

映画祭や上映運動は見る側と作る側の双方を引き込む“磁場”を作る。そこに言説が生まれるのである。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

金融商品取引法入門
金融商品取引法入門黒沼 悦郎

日本経済新聞社 2006-08
売り上げランキング : 3294

おすすめ平均 star
star概観するにはすごくいいです。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

今年の六月、証券取引法が大幅に改正され、金融商品取引法としてその主要部分は来夏に施行される運びとなった。本書は新しく生まれ変わった金融商品取引法を、柱となる重要項目を中心に、法律の専門知識のない読者でもわかるように基本から丁寧に解説した。最終章では残された検討課題に触れると共に、今後どういう制度設計が望ましいのかに関する著者自身の考え方も示している。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

情報と通信の文化史
情報と通信の文化史星名 定雄

法政大学出版局 2006-10
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

人間はどのように情報を伝達してきたのか。古代から現代にいたる通信技術の通史が本書である。古代の狼煙(のろし)から古代ペルシアの駅制、江戸時代の飛脚、そして現代にいたるまで、人類は常に通信技術を洗練させてきており、権力はそれを活用してきた。十八年がかりでそうした全体像を調べ上げた労作。興味深い逸話を豊富に盛り込んだ歴史読み物として楽しめる。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

麦わら帽とノートパソコン
麦わら帽とノートパソコン宮内 勝典

講談社 2006-09
売り上げランキング : 219783


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

世界を旅してきた作家のエッセー集。一九九六年から今年まで新聞や雑誌に発表してきた随筆やインタビューを収める。その間、著者にとって最も強烈な出来事だったのは二〇〇一年の同時テロだろう。その後まもなく書かれた文章には「多様な文化、多様な民族がやっかいなことを抱えながらも、なんとか共生していけるかどうか、未来はそこにかかっている」とある。自らの体験を踏まえ、特定の価値観に固執せず相対的にとらえる大切さを説く姿勢は一貫している。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか―日本人の暮らしと身近な植物
蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか―日本人の暮らしと身近な植物稲垣 栄洋 三上 修

草思社 2006-10-26
売り上げランキング : 995


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

「桃太郎はどうして桃から生まれたのか」「竹の花は不吉の兆し」などの身近な話題を入り口に、農学の専門家である著者が、植物の奥深い世界に案内する。例えば「松はなぜめでたいか」の章では、寒さに強いことから不老長寿のシンボルとされるという答えを出した後の展開に、この本の本領がある。松などの針葉樹は機能の進化した広葉樹に生育の場を奪われ、逆に機能の効率の悪さが極寒の地で生き延びる理由になったという。平易な語り口で謎を解き、植物を一層身近にしてくれる。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

図解 アメリカ発明史―ふしぎで楽しい特許の歴史
図解 アメリカ発明史―ふしぎで楽しい特許の歴史スティーヴン・ヴァン ダルケン Stephen van Dulken 松浦 俊輔

青土社 2006-10
売り上げランキング : 3183


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

著者は英国図書館の特許専門の司書。生活に関係が深い米国生まれの発明品を取り上げ、発明の経緯やもたらした影響などを、豊富な図面とイラストを交え解説した。自動車の実用化初期段階で、ガソリン自動車の最初の競争相手は電気自動車だった。豊胸材でシリコンが広く使われる前は、スポンジが主流だった。他に、ボウリングのピン配置装置やジーンズの漂白処理、圧力鍋など。近現代の米国の経済や文化の発展が、多くの発明品に支えられていたことがよく分かる。松浦俊輔訳。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

官のシステム
官のシステム大森 彌

東京大学出版会 2006-09
売り上げランキング : 215


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

中央省庁の官僚制の仕組みは複雑で、微細に亘る雑多な情報を積み上げ初めて正確にその実態を解明できる。一方、民主主義的決定が官僚制によって実行される以上、そのダイナミズムは社会一般の重要な関心事となる。両者のせめぎ合いの中で、官僚制に関する解説や説明は、えてして専門的で、一般からは理解し難いものになるか、改革や汚職、不祥事といったその時々の出来事に関する理解を促すのを目的としたものになりがちである。

そうした中、本書は例外的に、緻密(ちみつ)なリサーチに基づきながらも一般の読者にも「官のシステム」の明確なイメージを伝える一冊である。

著者は「官のシステムの核心は人事システムである」と喝破し、官僚制内で人がどう組織されているかに焦点を絞る。職場での机の配置を表現した「大部屋主義」という言葉を鍵に、省庁における集団主義的決定のあり方、職務区分の柔軟性や上下関係を説明する。そこから職階制の実施がなぜ「立ち枯れた」のか、定員削減や地方分権改革において粘り強い抵抗が存在するのか等の多岐にわたる論点がわかりやすく導かれる。

著者が欧米の「個室主義」と対比する形で、官民共通によく見られる日本独自の組織化の方法を「大部屋主義」と表現し始めてから二十年たつが、この概念はいまだに古びていない。日本の官僚制は安定的で堅牢(けんろう)な組織を持つ典型とされる。この本質は二十年来の改革や環境変化を持ってしても揺るがなかった。

官僚組織の変動に関する知見や、法案作成過程から政官関係の特徴をあぶり出している点は専門書としても読みごたえがある。著者は三十年近く、地域や地方自治体を実際に回り、国や地方自治体の職員と接しながら研究を進めてきた。本書で展開される洞察に富んだ観察や分析はそうした研究姿勢があって初めて可能になった。

距離を保ちつつ観察し、官僚制を血の通った人間集団としてとらえることでようやく私たちの眼前に中央省庁や地方自治体の抱える問題を解決するための現実的な出発点が示されることになる。 (東京大学出版会・二、六〇〇円)

おおもり・わたる 40年生まれ。東京大学名誉教授。専門は行政学。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

帰ってきた黄金バット
帰ってきた黄金バット釉木 淑乃

集英社 2006-09
売り上げランキング : 217522

おすすめ平均 star
star音楽が自動的に頭に浮かぶ人なら

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

一九七〇年、日本でも無名の劇団「東京キッドブラザース」が片道切符を手に米ニューヨークに渡った。ミュージカル仕立ての芝居「黄金バット」はオフ・オフ=ブロードウェイの小劇場「カフェ・ラ・ママ」で絶賛され、オフ・ブロードウェイに進出。五カ月のロングランを記録する。

日本の演劇史上、後にも先にも例のないこの「偉業」はいかにしてなし遂げられたのか。元劇団メンバーやニューヨークの関係者を訪ね、それぞれの思いを書き留めたルポルタージュ風「私小説」だ。

というのも当時の劇団員で、後にエッセイスト・作家になった永倉万治は八歳上の実の兄。二〇〇〇年に急逝した兄の青春をたどる鎮魂の旅でもあった。「芝居をするってどういうことなんだろう。演劇の魅力って何なんだろう。素朴な疑問が出発点だった」

演劇の世界に特別な関心があったわけではない。兄が在籍した一時期だけ「キッド熱」に浮かされたものの、今回の執筆を思い立つまで「過去は忘れ去っていた」。だが、ラ・ママの創始者で反骨の演劇人エレン・スチュアートや、世界を放浪しながらセットデザイナーとして活躍する元キッドのメンバーと出会い、舞台の魔力を実感する。

同時に「兄がなぜキッドをやめたのか、やっと理由がわかった」と言う。「団員はあの五カ月ですべてを燃焼し尽くした。続けることなど不可能だった」

東由多加という強烈な個性を持つリーダーと衝突し、帰国後に退団する者も多かった。そうした一人から、この本の出版後まもなく手紙が届いた。「ようやく東さんの墓参りに行く気になりました、とあって。何よりうれしかった」

数年前から戯曲を書こうと試みている。「自分の本が板にのったら、その時、本当の芝居の面白さがわかる気がする」。(集英社・一、八〇〇円)

(ゆうき・よしの)1955年埼玉県生まれ。青山学院高等部卒。91年『予感』ですばる文学賞受賞。他の著書に『カーニバル』『ケンタウロス座』など。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

都市の暮らしの民俗学〈1〉都市とふるさと
都市の暮らしの民俗学〈1〉都市とふるさと新谷 尚紀 岩本 通弥

吉川弘文館 2006-09
売り上げランキング : 140106


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

都市の暮らしの民俗学〈2〉都市の光と闇
都市の暮らしの民俗学〈2〉都市の光と闇新谷 尚紀 岩本 通弥

吉川弘文館 2006-10
売り上げランキング : 142849


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

都市生活はどのような変化、変遷をたどって現代に至っているかを探った『都市の暮らしの民俗学』(全三巻、吉川弘文館)の刊行が始まった。既刊の第一巻「都市とふるさと」では近現代の都市と地方の関係について論じている。第二巻「都市の光と闇」では盛り場など都市の非日常空間、第三巻「都市の生活リズム」では家庭を中心とした都市生活者の暮らしを取り上げる。

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

離婚なんてもったいない!
離婚なんてもったいない!岡野 あつこ

ゴマブックス 2006-10
売り上げランキング : 65963


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ゴマブックスは、ウェブ上の総合情報サイト「All About」の各分野のページでガイドを務める専門家による書籍シリーズ「All About Books」を創刊した。今後一年間で五十冊の刊行を目指す。既刊は、岡野あつこ著『離婚なんてもったいない!』(七百円)。続刊は和田隆昌著『特大地震、死ぬ場所生きる場所』などを予定している

■2006/11/05, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

給食の味はなぜ懐かしいのか?―五感の先端科学(サイエンス)
給食の味はなぜ懐かしいのか?―五感の先端科学(サイエンス)山下 柚実

中央公論新社 2006-07
売り上げランキング : 4369

おすすめ平均 star
star人間の持つ感覚の不思議な魅力

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

小学校の給食を出すレストランがおとなに人気を集めているという。みんなで楽しく食べた時の懐かしさがおいしさを感じさせているのである。五感の仕組みは想像以上に複雑だ。著者はその謎を明らかにすべく、丁寧な取材を重ねた。香りの出る映画や心地よい音を出す掃除機など五感を意識した商品が増えていることに驚く。茂木健一郎ら専門家へのインタビューも分かりやすい。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

二・二六事件とその時代―昭和期日本の構造
二・二六事件とその時代―昭和期日本の構造筒井 清忠

筑摩書房 2006-10
売り上げランキング : 6280


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

二・二六事件は近代日本の一大転換点とされる。本書は事件の背景にあった旧陸軍の派閥抗争を客観的に分析した。「統制派」と「皇道派」の対立を生んだ経緯やエリート養成システムの欠陥といった問題点を詳述。事件の後、対米開戦へと至った陸軍の構造的な問題を浮き彫りにする。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

新世界
新世界柳 広司

角川書店 2006-10
売り上げランキング : 25878


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

気鋭のミステリー作家の長編小説。一九四五年八月、原爆を開発するために天才科学者が集められた米ロスアラモスで、一人の男が撲殺される。開発責任者のオッペンハイマーに依頼され、科学者イザドア・ラビは事件の真相を探る。原爆という重いテーマを扱いつつ、上質のエンターテインメント作品に仕立てている。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来城 繁幸

光文社 2006-09-15
売り上げランキング : 104

おすすめ平均 star
star昭和的価値観の存在
star羊か狼かは既に決まっている
star「最近の若者は」と言う方はぜひ一読を!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

厚生労働省の調査によれば、大学を卒業して企業に就職した社員の三人に一人が三年以内に辞めている。人事担当者からは「わがまま」「我慢ができない」といった批判が強い。だが「若者の閉塞(へいそく)感を生んでいるのは年功序列の甘い汁を吸い続ける上司がいるから」と、中途半端な成果主義を痛烈に批判したのが本書だ。

著者は『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』で話題になった三十代の元富士通マン。現在は人事コンサルタントとして活躍しており、経験も交え若者の立場から“旧世代”に論戦を挑む。若者が三年で辞めるのは、企業が採用時に明確なキャリアプランを持つ人材を求めながら、入社後に待っているのは昔ながらの雑用だから。

しかも年功序列は半ば崩れ、「若いときの下積みの苦労は報われない」。昨今、三十代のうつ病が問題になっているが、彼らは先輩のように昇格できず一部の成功者を除いて賃金もポストも上がらない。ここでは成果主義が牙をむき「レールはいきなり切れていた」というわけだ。

著者は、年配者が既得権益を守るため三十代を使い捨て、若者を派遣やアルバイトでしか雇わないと怒る。「若者につけを回し、未来をリストラした」と。年配者にも言い分はあるし、気持ちが先走り過ぎ緻密(ちみつ)な論理構成に欠けるきらいもあるが、若い世代からの「告発」として一読に値する。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

夢と魅惑の全体主義
夢と魅惑の全体主義井上 章一

文藝春秋 2006-09
売り上げランキング : 7296

おすすめ平均 star
starしょせん流行をめぐる内輪もめ
star建築史からみたファシズム
star都市計画にたくすファシズム

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ヒトラー、ムッソリーニ、スターリン、毛沢東ら近代の独裁者たちは、建築の持つ力をどうとらえ、どう利用しようとしたか。一方で、戦前の「日本ファシズム」は、建築にどんな姿勢で臨んだか。本書では、「全体主義」という言葉でくくられるこれらの政治と建築の間の多様な関係を解き明かしていく。

ヒトラーについての著者の指摘は興味深い。よく言われるような画家志望ではなく、建築家志望だったという。ヒトラーは戦艦の建造よりも、四十万人収容の大スタジアムの建設を重視した。偉大な建築こそが民族の魂を揺さぶる、と考えていたからだ。大型ドームや凱旋(がいせん)門を含む大規模な都市計画は戦争で頓挫したが、ヒトラーは建築で民衆をとらえようとしていた。

ヒトラーが古典系建築を志向していたのに対し、ムッソリーニはモダンデザインの建築を受け入れた。新様式で新体制を見せつける。やはり、建築に、民衆に訴求する力を感じていたのだ。

ドイツとイタリアの相違には改めて驚くが、日本はさらに特異だ。戦前の「日本ファシズム」が生んだのは、貧相なバラック建築の群れだった。禁欲精神を見せ、鉄材は軍用に回した。天皇という精神的支柱のある日本には、民衆を動かすのに建築に頼る必要はなかったとの分析だ。

共通する芯を持った複数の政治史からあぶり出した建築の意義を対比する手法が、分かりやすさを増している。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ドル円相場の政治経済学―為替変動にみる日米関係
ドル円相場の政治経済学―為替変動にみる日米関係加野 忠

日本経済評論社 2006-09
売り上げランキング : 3154


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

通貨外交・為替政策に関して、存在が確実視される資料の公開を請求したが、資料は一切ないとの回答をもらった経緯がある――。そこで財務官経験者を中心に面談を重ねて空白部分を埋め、公開資料を精読しつつ、円とドルの歩みを検証したのが本書だ。

プラザ合意からルーブル合意を経てバブルに至る時期を記述した第三章。バブル崩壊後の一九九〇年代をたどる第四章が問題整理に役立つ。

銀行の市場部門に携わった経験が生きているのは、市場介入の時期、金額、効果を丹念にたどった部分だ。介入の経済的効果をも論じる。プラザ合意のような通貨調整が対外不均衡の是正に役立つかどうかについても、経済学者の所説をたどっている。

巨額介入は当局だけの責任ではない。為替に右往左往する産業界や政界からの願望が強いからだ。二〇〇三―〇四年の巨額な円売り介入は、デフレ下の円高というワナに陥ったことで、余儀なくされた面もある。介入は「限定的合理性」を持つと結論付けつつも、「限定的」であることに力点を置く。先進国のなかで例外的に頻繁かつ大規模な介入をするのは好ましくない。外貨準備はもっと圧縮し、外国為替特別会計の透明性を高めるべきである、というのだ。

健全な金融システムを築き、国内外をマネーが円滑に巡るようにして初めて、経済もショックを吸収しやすくなる。こんな地道な努力を訴える結論は妥当である。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

80年代フナバシストーリー
80年代フナバシストーリー北井 一夫

冬青社 2006-10
売り上げランキング : 118421


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

千葉県船橋市は東京周辺にある新興住宅地のひとつ。その町に居を構える著者が、1980年代に撮影した団地の写真集だ。当時、団地は決していいイメージで語られなかった、と著者は言う。団地での孤独死が社会問題となる今日も同じだろう。だが、団地で生まれ育ち、故郷と懐かしむ子供たちは必ずいる。敷地に咲いた桜や、2DKの室内にあふれる子供たちの笑顔は「望郷」の思いへとつながっている。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

進化する欧州中央銀行―ユーロ番人の素顔
進化する欧州中央銀行―ユーロ番人の素顔齋藤 淳

日本経済評論社 2006-09
売り上げランキング : 139975


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

一九九八年の欧州中央銀行(ECB)誕生から今日までの動きを通信社記者として同行の本部があるフランクフルトに駐在した著者が丹念に追っている。ユーロ現金の流通、物価上昇率の目安の設定、総裁の交代など、それぞれの節目で現れたユーロ圏各国間やECB内での対立と妥協、人々の当惑と順応などを生々しく描いている。昨今のユーロ高の奥深い背景が分かるとともに、将来の「アジア中央銀行」設立を考える際の参考にもなる。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

脱米潮流
脱米潮流毎日新聞取材外信部

毎日新聞社 2006-09
売り上げランキング : 29837

おすすめ平均 star
star世界秩序の行方は?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

二〇〇一年九月十一日の米同時多発テロ以降、米国は一国主義的な姿勢をますます強めるようになった。その米国とどう付き合っていくかは各国さまざまだ。毎日新聞は〇四年一月から〇六年三月にかけて「親米・反米・従米・嫌米」という企画を連載し、世界十九カ国からのぞいた米国像をルポした。それを加筆してまとめたのが本書である。本のタイトルが「脱米潮流」となったところに掲載後の世界の変化がうかがえる。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

連歌とは何か
連歌とは何か綿抜 豊昭

講談社 2006-10-11
売り上げランキング : 75573


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

和歌や俳句と異なり、連歌が人々の記憶から忘れ去られているのは、現在作る人がほとんどいないからだと著者は言う。しかし、残っている連歌を見ると、なぞなぞ、連想、恋歌、恨み言など様々な例があり、極めて創作的で味わい深いコミュニケーションの方法として、人々の暮らしに潤いを与えていたと想像がつく。連歌師の実態などにも言及しながら過去の日本人のなかなか高度な「会話術」の世界を味わわせてくれる。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

健康の社会史―養生、衛生から健康増進へ
健康の社会史―養生、衛生から健康増進へ新村 拓

法政大学出版局 2006-10
売り上げランキング : 1601


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

日本の医療史を専攻する著者が、時代に合わせて変化する健康の意味と本質を問い直した。江戸時代までは「養生」という言葉が広く使われ、天寿を全うするために普段の健康に気を使うことが奨励された。明治以降の近代国家になると、健康は個人の利益から公益へと意味を広げ、公益を逸脱する者への治療・隔離を強いる「衛生」思想が発達する。健康というプラスのイメージを持つ言葉の裏に、強制と排除の論理が育ってきた経緯を丁寧に解きほぐす。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ビザンツ歴史紀行
今谷 明 (著)

日本中世史の研究者である著者がイタリア、ギリシャ、トルコを巡り、紀行文を著した。とはいっても、訪れる場所を史学の目で見るのは著者の必然だ。イタリアのラヴェンナでは、同地が首府として機能していた五世紀に思いをはせ、イスタンブールでは、イスラム教のトルコ人がギリシャ正教会の建物を丁寧に扱い、残したことに感慨を覚える。ギリシャで日本の山岳信仰との共通点を見いだすなど、随所で日本史に照らしているのは、著者ならではの視点だ。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役
アメーバ経営―ひとりひとりの社員が主役稲盛 和夫

日本経済新聞社 2006-09
売り上げランキング : 57

おすすめ平均 star
starアメーバー経営の根底にあるもの
star分散した機能と能力の極大化
starユニークで示唆に富む経営手法です

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

アメーバ経営とは企業を小さな採算単位に分け、この単位に経営を委ねる分権経営の方式のことである。その手がかりとなるのが、採算(売り上げマイナス経費、つまり付加価値)である。本書はこのアメーバ経営の産みの親が、その方法と、それを支える基本的な考え方について述べたものである。とくに重要なのは、アメーバ経営の基本となる思想と経営哲学である。これは著者にしか語りえないものだ。

アメーバ経営は採算にこだわった方法だが、利益を目的とした経営手法ではない。著者の稲盛氏は、「従業員やその家族の生活を守り、その幸せを目指すこと」が会社の目的であるということを、本書の中で繰り返して強調している。松下幸之助や小倉昌男など日本の偉大な経営者の多くは、利益を会社の基本目的とは考えていない。不思議なのはこのような企業ほど、結果としての利益が大きいのである。

実際に今名前を挙げた経営者は、利益への強いこだわりを示していた。利益にはこだわるが、利益につき動かされないというのが経営の要諦(ようてい)なのかもしれない。

利益へのこのような姿勢が必要なのは経営者だけではない。アメーバ経営を支える現場リーダーも同じだ。本書で稲盛氏は現場に成果主義を導入することを戒めている。利益に動かされる制度になってしまう危険があるからである。

稲盛氏によれば、アメーバ経営の目的は、市場に直結した部門別採算制度の確立、経営者意識を持つ人材の育成、全員参加経営の実現の三つである。なかでもとくに重要なのは、人材の育成である。アメーバ経営にはうまく人材を育てるための工夫がさまざまに隠されている。本書からその工夫を読み取ってほしい。

本書を読めば、アメーバ経営はたんなる経営の手法ではないことがわかる。稲盛氏の思想を体現した経営の基本的な型だと考えるべきだろう。経営の不動の原点を求めようとしている経営者、よりよい経営をしたいと考えている経営者候補の方々に読んでいただきたい本である。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ベーシック アトラス 世界地図帳
ベーシック アトラス 世界地図帳平凡社

平凡社 2006-10-11
売り上げランキング : 46377


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

ベーシック アトラス 日本地図帳
ベーシック アトラス 日本地図帳平凡社

平凡社 2006-10-11
売り上げランキング : 115642


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

世界情勢が刻々と変化する一方、国内でも「平成の大合併」により自治体名が激しく変化している中、最新の情報を盛り込んだ『ベーシックアトラス 世界地図帳』『同 日本地図帳』(平凡社)が刊行された。世界地図帳は全地名に欧文を併記したほか、正式な縦横比の国旗も収録した。日本地図帳は市町村合併一覧のほか、全市町村の人口、面積一覧も付けた。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

男の縁―乙川優三郎自撰短篇集 武家篇
男の縁―乙川優三郎自撰短篇集 武家篇乙川 優三郎

講談社 2006-09
売り上げランキング : 104594

おすすめ平均 star
star作者の10年を思う
star何故?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

時雨の岡―乙川優三郎自撰短篇集 市井篇
時雨の岡―乙川優三郎自撰短篇集 市井篇乙川 優三郎

講談社 2006-09
売り上げランキング : 108248

おすすめ平均 star
star作者の10年を思う
star何故?

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

時代小説の名手として知られる乙川優三郎が作家デビュー十年を記念して、自ら選んだ短編を集めた「乙川優三郎 自撰短篇集」(講談社)が刊行された。庶民の暮らしをしっとりと描いた『市井篇 時雨の雨』には書き下ろし作品一編を含む八編、武士の矜恃(きょうじ)ある生き方をすがすがしく描いた『武家篇 男の縁』には単行本未収録の二編を含む八編を収めている。

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ぬけられますか 私漫画家 滝田ゆう
ぬけられますか    私漫画家 滝田ゆう校條 剛

河出書房新社 2006-10-11
売り上げランキング : 3765


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

酒と酒場を愛し、東京・下町の情緒を繊細な線に託して描いた漫画家、滝田ゆう(一九三一―九〇)の伝記を執筆した。滝田は七三年に駆け出し編集者だった著者が最初に担当した作家。「ギャグでも劇画でもなく、世間の機微を巧みに写し込んだ大人の漫画を描く人だった。その存在を今の世に復活させたかった」

タイトルの「ぬけられますか」は、滝田のふるさとである下町の花街「玉の井」に掲げてあった看板「ぬけられます」にちなむ。四五年三月の大空襲で灰となるこの地で育った滝田は初め、貸本漫画で活躍。六八年に戦前の玉の井を舞台にスタンドバーを経営する一家を描いた『寺島町奇譚』を雑誌「ガロ」に連載し、脚光を浴びる。

著者が滝田に出会ったのは、漫画家としての地位を確立した後のこと。当時の滝田は複数の連載を抱えながらも、学生運動の余韻が残る新宿・ゴールデン街のバーに夜な夜な繰り出していた。「連日連夜、店を挙げての大騒ぎ。当然、次の朝の落ち込みも激しかったが、その落差から陰影の濃い作品が生まれた」

『寺島町奇譚』『泥鰌庵閑話』など、滝田の代表作は実体験をもとにした私小説ならぬ「私漫画」。だが、巧みに設定や登場人物を事実とずらすなど「作品を自分から突き放してとらえていた。そこが安易なセンチメンタルさにおぼれない秘訣だったのかもしれない」と指摘する。

禁酒宣言のすぐ後に深酒を繰り返した滝田と同様、著者自身も三十年間の文芸編集者時代は「酒に飲まれ続け、自分で文章を書く気など起こらなかった」。文芸を離れたここ数年で深酒をやめ、できた時間を活用したのが本書。出版後に滝田の新たな逸話を次々と聞き、加筆したい気持ちがむくむくわいてきたという。「書くという欲望も、きりがないものですね」

■2006/10/29, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

Edit

 
Copyright (C) 2004-2006 Ambitious Kanda, All Rights Reserved.