メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年10月1日~10月8日

石油をめぐる世界紛争地図
石油をめぐる世界紛争地図トビー シェリー Toby Shelley 酒井 泰介

東洋経済新報社 2005-12
売り上げランキング : 1102

おすすめ平均 star
star情報量は多い

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石油の歴史―ロックフェラーから湾岸戦争後の世界まで
石油の歴史―ロックフェラーから湾岸戦争後の世界までエティエンヌ ダルモン ジャン カリエ Etienne Dalemont

白水社 2006-08
売り上げランキング : 237

おすすめ平均 star
star単なる歴史で面白くない

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石油の世紀―支配者たちの興亡〈上〉
ダニエル ヤーギン (著), 日高 義樹 (翻訳), 持田 直武 (翻訳)

石油の世紀―支配者たちの興亡〈下〉
ダニエル ヤーギン (著), 日高 義樹 (翻訳), 持田 直武 (翻訳)

石油最終争奪戦―世界を震撼させる「ピークオイル」の真実
石油最終争奪戦―世界を震撼させる「ピークオイル」の真実石井 吉徳

日刊工業新聞社 2006-07
売り上げランキング : 519


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知られていない! 原油価格高騰の謎
知られていない! 原油価格高騰の謎芥田 知至

技術評論社 2006-04-11
売り上げランキング : 505

おすすめ平均 star
star原油について平易な解説書
star石油知識入門書

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原油価格は今夏の最高値から二割以上下落し、落ち着いた気配をみせているが、冬場にかけ再び急騰する懸念は少なくない。二〇〇四年以降の原油高騰はある種の「石油危機」であることは間違いないが、その原因は一九七〇年代の二回の石油危機ほど単純明快ではない。新たな危機がもたらす世界の構造変化の全貌(ぜんぼう)もまだ見えてこない。

エネルギー資源をめぐる競争の激化が、世界に様々な摩擦と衝突を引き起こしている、という観点で石油問題を網羅的にとらえたのがトビー・シェリー著『石油をめぐる世界紛争地図』(酒井泰介訳、東洋経済新報社・二〇〇五年)である。こうした視点は、日本では「中国、インドとの資源獲得競争に負けるな」といった単純かつ短絡的な結論に結びつけられることが多いが、ベテランのジャーナリストである著者はまったく異なる問題意識を示す。

●産油国で貧困問題
そのひとつが、原油収入の増大に沸く産油国で広がる貧困、不平等だ。為政者が原油収入を自らの権力基盤の強化のために使えば、利権をめぐる闘争や経済格差の広がりによって社会の安定性は損なわれると著者は指摘する。中東産油国はもちろんサントメ・プリンシペ、チャド、モーリタニアなどアフリカの新興産油国など豊富な実例でその危うさを証明している。

「石油に依存する国家はこれまで、原油収入を持続的な経済成長に転換できていない」と著者は強調、「世界の石油と天然ガスがテロリストの足元に眠ることになる」と警告する。資源調達をめぐるリスクは、需要国側の競争よりも供給側の安定性にあることを示しているわけだ。

こうした問題意識に触発されると、本格的な石油の歴史を改めて学びたくなる。それにふさわしい新著がエティエンヌ・ダルモン、ジャン・カリエ著『石油の歴史』(三浦礼恒訳、白水社・二〇〇六年)である。一八五〇年代のドレークによる近代的な石油生産の開始から説き起こし、補遺まで含めれば昨年までの動きをカバーしている。新書判ではあるが、石油の通史としてはダニエル・ヤーギン著の『石油の世紀』に比肩する厚みがある。

これまで石油史の大半は『石油の世紀』を含め、アングロサクソン的視点で書かれてきた。本書の著者、ダルモン氏は仏石油大手トタルの社長も務めた人物で、フランスの石油政策などアングロサクソン的視点で欠落した部分が明らかにされているのが興味深い。

今回の原油高騰で、にわかに「ピークオイル」論が語られるようになった。世界の原油生産はすでにピークに達し、これから減退期に入るとの議論だ。シェルのアナリストで、かつて米国の原油生産が七〇年にピークを迎え、減少に転じることを予見したM・キング・ハバートが唱えた説である。このピークオイル論を中心に現状をとらえたのが、石井吉徳著『石油最終争奪戦』(日刊工業新聞社・二〇〇六年)だ。

●利用可能一部だけ
著者の述べる「蜜(みつ)の例え」が興味を引く。みつはあちこちの花に存在していても、人間が利用できるのはハチが巣に持ち帰ったものだけであり、石油も油田という「ハチの巣」のように便利に濃縮された状態のものしか利用できない、と著者は語る。地球上にはまだ豊富な埋蔵量があるといってもそれが効率的に活用できるかは別だ。

そうした観点で著者はエネルギーを生産するのにどれだけのエネルギーを投入したかを測る「EPR(エネルギー利益比率)」指標の重要性を強調しているのもうなずける。オイルサンドなど非在来型の石油資源が豊富にあるから大丈夫という主張への反論でもある。

石油の入門書として出された芥田知至著『知られていない原油価格高騰の謎』(技術評論社・二〇〇六年)は、金融系アナリストの著者らしい原油先物などマーケットやオイルマネーの解説がわかりやすく、斬新だ。また、ナフサなど石油の半製品備蓄が原油価格を安定させると主張する萩田穣著『原油高騰は回避できる!』(楽書館、二〇〇六年)も興味深い。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

ニコチン・ウォーズ
ニコチン・ウォーズクリストファー・バックリー 青木 純子

東京創元社 2006-09-30
売り上げランキング : 7456


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たばこ業界のロビイストで敏腕スポークスマン、ニックの自慢は巧みな話術。嫌煙家を煙に巻き、アルコールや銃を擁護する同志と毒舌をふるう。大量のニコチンパッドをはられ死にかけもするが――。たばこをめぐる圧力団体や業界の内情を風刺するコメディー小説。青木純子訳。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

国を誤りたもうことなかれ (新書)
近藤 道生 (著)

著者は海軍や旧大蔵省で要職を務め、戦時中から被占領期まで立場を変えながら一国が他国を占領する意味を「存分に味わわされた」。戦時の回想が中核だが視点は未来に向かう。多神教で原理主義とは無縁だった日本にしかできない世界への貢献として、紛争の仲介者となる道があると説く。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

好かれる方法 戦略的PRの発想
好かれる方法 戦略的PRの発想矢島 尚

新潮社 2006-09-15
売り上げランキング : 247

おすすめ平均 star
star踊らせる方が悪いのか踊らされる方が悪いのか
star「そうだったのか」の連続
star業務紹介

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昨年九月の総選挙で自民党が圧勝した一因に、PR戦略の妙が指摘されている。その戦略を担った企業のトップが、PRの意味と技術について語った。PRは宣伝と混同されがちだが、本来はもともと持っている魅力を伝えることで、「社会との関係を向上させて、良好なものにする行為」という。キシリトールの普及、タマちゃん騒動などの具体例を通じて、好感度アップの知恵とリスク管理の方法をつづっている。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

なぜ、あの会社は儲かるのか?
なぜ、あの会社は儲かるのか?山田 英夫 山根 節

日本経済新聞社 2006-08
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おすすめ平均 star
star「会計の使い方!!」
star戦略と会計のナイス・コラボレーション!
star戦略と会計を結びつけた画期的な書

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「会計のイロハを覚えたいが、入門書を途中で投げ出してしまう」。そんな読者に薦めたい一冊だ。会社経営の旬の話題を材料に、有名企業の経営戦略に即して会計のポイントを分かりやすく説明している。図表類も見やすく、飽きずに通読できるだろう。

例えばマイレージ・サービスやポイント制を取り上げた章では、全日本空輸や家電量販店などの実例を挙げながら、読者に「航空会社と小売業は何が違うか?」と問いかけている。

航空会社はコストのほとんどが固定費であり、マイレージを使う乗客が一人増えても増加する費用は少ない。一方、新たに商品を仕入れなければならない小売業は収益を圧迫する要因になりやすい。こうした解説の後で、変動費と固定費や損益分岐点の説明に移っていく。最初から損益分岐点の計算式が出てくると無味乾燥になりがちだ。読者の関心をそらさない工夫が随所に凝らされている。

M&A(企業の合併・買収)についても、日本電産の買収戦略や業績推移などを図表で示してから「のれん代」の解説につなげている。のれん代を巡る日米の会計基準の違いにも触れ、会計ルールも国の思惑のぶつかり合いで変わっていく、と述べる。

会計の知識がない人でも、本書を読めば企業業績や株価に関する日々のニュースへの関心が高まるだろう。経営の初歩を学びたい学生にも向いている。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

もっと長い橋、もっと丈夫なビル―未知の領域に挑んだ技術者たちの物語
もっと長い橋、もっと丈夫なビル―未知の領域に挑んだ技術者たちの物語ヘンリー ペトロスキー Henry Petroski 松浦 俊輔

朝日新聞社 2006-08
売り上げランキング : 4288


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超高層ビルや長大橋、巨大なダムといった建築・構造物の間近に立つと、言い知れぬ興奮を覚える。「よくこんなものを造ったな」とため息をつきたくなるような。自然の制約に対抗して、より高く、より長く、と挑んできた人間の意志を建造物の中から感じるからだろう。同じ人工物でも精密部品などから受けるのとは異なる感覚だ。

この本を読めば、居ながらにして海外の著名なモニュメントを訪ね、こうした興奮を疑似体験できそうだ。著者は建築土木史が専門の米国の大学教授。主に十九世紀以降の建造物を俎上(そじょう)に載せ、そこに具現化された技術の見どころを、設計者やエンジニアの人間くさいエピソードとともに紹介している。

全二十四章のうち、半数強は橋についての物語。初の鉄橋で世界遺産にも登録されている英国のアイアンブリッジや、米ニューヨークのブルックリン橋、ジブラルタル海峡にかける橋など未来の長大橋計画が取り上げられる。後半部分は、崩壊した世界貿易センタービルや、中国の三峡ダム、曲面を駆使した奇抜な外観で有名なスペイン・ビルバオ市のグッゲンハイム美術館などが登場する。

世界最長のつり橋である明石海峡大橋など、日本についての記述はない。本の性格上、写真や挿絵も、もう少し欲しかったところだが、専門的な知識に裏打ちされた冗舌な語りぶりはそれを補ってあまりある。松浦俊輔訳。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

マネーロンダリング
マネーロンダリング平尾 武史 村井 正美

講談社 2006-09-08
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おすすめ平均 star
starドラマチックな展開と想定外の結末にハラハラドキドキ

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麻薬問題に手を焼く米国は一九八〇年代に、犯罪で得た資金の出所や流れを分からなくして合法的なカネに偽装する「資金洗浄」(マネーロンダリング)を犯罪と位置づけ、一貫して規制と取り締まりを強めてきた。

組織犯罪やテロ情勢の深刻化を受け、日本政府もここ数年、国際社会から対策強化を迫られているが、体制の不備や摘発数の少なさから「マネーロンダリング天国」と指摘されているのが現状だ。

本書は公判での証言などを交え「ヤミ金融の帝王」と呼ばれた山口組系暴力団幹部の資金洗浄事件を丹念に追う。プライベートバンク、割引債、ペーパーカンパニー。こうした「道具」を使い、百億円もの資金が監視の網をくぐり抜けて香港へ送られる。読み進むにつれ、これまで実証されていなかった資金洗浄の手口が明らかになっていく。

初の大型マネーロンダリング事件としての立件後も、犯罪収益の没収や被害者への分配などをめぐる法律、制度の不備が相次いで発覚。対策の難しさが改めて浮き彫りになる一方、熱意とセンスのある何人かの腕利きがいれば難局を切り開けるという捜査の興味深さも感じさせる。

マネーロンダリング対策は日本の大きな課題である。本書も指摘する通り、山口組をはじめ暴力団組織内のカネの上納や隠匿、使途などはほとんど明らかになっていない。「犯罪組織の血液」である資金面からの切り込みが期待される。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

ポートレイト内なる静寂―アンリ・カルティエ=ブレッソン写真集
アンリ・カルティエ・ブレッソン (著)

『決定的瞬間』で知られる20世紀の巨匠は、肖像写真の名手でもあった。音も立てずに被写体に近づき、彼らが身構えるより早く「蚊がさすように」撮影したという。ジャコメッティ、サルトル、カミュら思想家・芸術家のほか、無名の人々の顔にも恐ろしいほど人生が見える。今年パリで開かれた回顧展の調査に基づき未発表を含む94点を収めた。写真は「マルク・シャガール、画家」。堀内花子、安原伸一朗訳。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

松岡正剛千夜千冊(8冊セット)
松岡 正剛 (著)

二〇〇〇年二月の第一回以来、四年半で連載千回を達成したウェブ上のコラム「松岡正剛の千夜千冊」が、全七巻(ほかに特別巻一巻)の全集『松岡正剛千夜千冊』として、十月十日、求龍堂から刊行される。

一晩に数百字ならと、松岡が校長を務めるISIS編集学校のウェブサイトで始めた連載が「千夜千冊」だ。松岡によると「書評ではなく、一冊の本に思いを自由に巡らせるエッセー」。小説、歴史、思想、科学、芸術、マンガなど分野は幅広い。一著者一冊などのルールを作り、自己の体験談や知識を交えた思考の跡をつづっている。

「苦行だった」と振り返りながらも達成した千冊目は、〇四年七月の『良寛全集』。書籍化の話が生じたときには、「原稿は完成しているから書籍化の手間は知れたもの」と関係者の誰もが考えていた。だが、そこから修羅の日々が始まった。第一夜から順に掲載するという案を松岡が拒み、大小のテーマを設けて編み直す道を選んだからだ。

テーマでくくると、改めて読む必要のある本が出てきた。思想を語るのにニーチェをまだ取り上げていない。ジェンダーをテーマに立てるには上野千鶴子を加える必要がある。「千夜ではなくなる」と周囲から言われつつもウェブ連載を再開。胃がんの手術という別の修羅をくぐりながら、〇六年五月の千百四十四夜、柳田国男『海上の道』で連載を再度完結した。

書籍化の作業から改めて分かったことがある。装丁の大切さだ。装丁は造本、フォント、レイアウトなど追求しがいのある要素だらけだ。さらに「ウェブの横書きの文章を縦書きに組み直すと、段落間の空きの取り方や句読点の位置が気になり始めた」(松岡)。同じテーマの文章を寄せたことから、話の間を有機的につなぐための直しも始め、文章の五割を書き換えた。

ウェブの「千夜千冊」は月間百五十万アクセスの人気サイト。リンクなどの利点もあるが、得られるものは「情報にすぎない」(松岡)。では、書籍から得られるものとは何か。全体を見渡した編集、美を尽くした装丁、物としての手触りが、読者の心に文章を刻み込む。ウェブ連載の書籍化が、改めて書籍の意義を教えてくれた。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

わたしが見たポル・ポト―キリングフィールズを駆けぬけた青春
わたしが見たポル・ポト―キリングフィールズを駆けぬけた青春馬渕 直城

集英社 2006-09
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おすすめ平均 star
star戦争と報道

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三十年以上にわたってカンボジアを取材してきた報道カメラマンによるノンフィクション。一九七五年には親米政権の崩壊をつぶさに取材し、七〇年代後半の大量虐殺を指揮したとされるポル・ポト元首相にも二度、インタビューしている。ポル・ポト政権下には従軍取材も許され、兵士の肉声も聞いた。米国や旧ソ連、中国、ベトナムなどの思惑が交錯し、戦乱が続いた同国の内実に迫った一冊だ。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

前川國男 現代との対話
前川國男 現代との対話松隈 洋

六耀社 2006-09-26
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上野の東京文化会館の設計で知られる建築家、前川国男の生誕百年を機に昨年開かれた記念展の連続セミナーやシンポジウムを収録した。建築史家の藤森照信、鈴木博之、建築家の槙文彦ら十四人が、フランスでモダニズムを学び、戦中戦後の日本を生きた近代建築の巨頭の仕事を検証する。戦争中、国粋主義に走った軌跡を丹念に追う藤森の論考が興味深い。前川の生涯が現代に投げかける問題をあぶり出している。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

浅井忠白書―馬渕礼子評論集〈1〉
浅井忠白書―馬渕礼子評論集〈1〉馬渕 礼子

短歌研究社 2006-07-19
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アララギ同人で土屋文明に師事した歌人の著者は、正岡子規を研究するうち画家、浅井忠との交流を知って浅井に深く傾倒する。足跡をたどり、子規、中村不折らとの交流を丹念に調べ二十年にわたって短歌誌に書き継いだ。それを一冊にまとめたのが本書である。子規が写実性をはぐくんだ背景にはたぐいまれな資質を持つ浅井の存在があり、二人の密接な交流によって様々な芸術が生み出された。近代をめぐる精神史ともなっている。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

スウェーデン―自律社会を生きる人びと
スウェーデン―自律社会を生きる人びと岡沢 憲芙 中間 真一

早稲田大学出版部 2006-08
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高福祉国家として知られるスウェーデンが、経済成長とゆとりある生活を両立する国として新たな注目を集めている。世界経済フォーラムが発表する国際競争力ランキングは三位(日本十二位)、にもかかわらず週五十時間以上働く人の割合は一・九%(同二八・一%)。これがなぜ可能なのかを人々の暮らしを通して検証したのが本書だ。八人の執筆陣が出産・育児、教育、労働、非営利組織(NPO)、医療、女性などの切り口で実態に迫っている。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

京都美術の新・古・今
京都美術の新・古・今太田垣 實

淡交社 2006-08
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教王護国寺の食堂を、現代人のポートレート写真や映像で構成した現代マンダラが飾る。日本の伝統美術を象徴する「秋草」を、長さ一・三メートルの弓なりの竹ひご千本で表現した美術家がいる。京都は伝統と先端の同居する町といわれるが、本書を読むと、両者が融和した事例の多さに驚く。著者は京都新聞で二十年以上にわたって美術記者を務め、京都の美術を丹念に見続けてきた。古きに敬意を表しながらも、新しい価値を生み続ける古都の素顔が見える一冊。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

ES細胞の最前線
ES細胞の最前線クリストファー・T・スコット 矢野 真千子

河出書房新社 2006-08-17
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おすすめ平均 star
starいま最も必要な情報をまとめた一般向け啓蒙書

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科学・技術が社会に入るには四つの壁がある。「科学的可能性」「技術的実現性」「経済性」そして「社会の受容」である。現在問題になっている科学・技術の事象、特に生物医学やそれらの医療への応用の多くは、「社会の壁」によって日の目を見ないでいる。本書のテーマである人のES細胞(胚(はい)性幹細胞)もその一つである。

人ES細胞は万能細胞とも呼ばれ、どのような細胞にも育ちうる能力を秘めている。これを医療に応用して、傷病によって失われた機能を回復しようというねらいをもった研究が各国で進められようとしている。

ただ、反対の声も強い。ES細胞をつくるには人の胚を使う。胚を生命の源とみる人たちはES細胞は人の命をもてあそび、技術が悪用される恐れもあると考える。米国では大統領選挙の際の論争の焦点のひとつになり、ブッシュ大統領はES細胞の研究や応用に公的資金を出さない、と言っている。

「しかし」と著者は言う。研究を規制することは、科学に欠かせないオープンな議論をできなくしてしまうのではないか。研究によって科学・技術のプラス面、マイナス面がわかることが多い。規制することによって、その道が閉ざされるのではないかと危惧する。

大学で生物学を修めた著者は、科学・技術のもつ意味や利害をわかりやすく伝えることに情熱を注いでいる。ES細胞研究の歴史や現在の疑問点、倫理論争、ES細胞を巡る政策などたくさんのことが書かれている。

著者はさらに述べる。「大切なのは事実を重んじる科学者の誠実さと高い倫理性だ」と。その意味では、昨年韓国であった“ES細胞スキャンダル”は残念だった。何よりも、科学者に対する信頼性を失わせたのだから。

ES細胞論争で気になることは、その応用によって恩恵をうける患者の声があまり聞こえないことだ。ES細胞は脊髄(せきずい)損傷で車いす生活をおくる人や、ある種の難病に苦しむ人を救うかもしれない。そうした人たちの声がもっと届くようにしたい、と思う。そのための知恵がいまこそ必要なのではないか。 (矢野真千子訳、河出書房新社・二、四〇〇円)

著者は米スタンフォード大の幹細胞と社会における生物医学倫理プログラムセンター所長。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

マイノリティーの拳
マイノリティーの拳林 壮一

新潮社 2006-09-14
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おすすめ平均 star
starボクシングを超えた名作
starThe Greatest nonfiction!

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華やかなスポットライトを浴び、巨額のファイトマネーを得るボクシングの世界チャンピオンだが、いつかリングを降りる日も来る。本書はチャンピオンの「その後」に迫った。

副題は「世界チャンピオンの光と闇」だが、闇の印象が強い。取り上げた五人が白い肌を持たないのも一因だ。キリスト教伝道師という第二の人生を見いだしたジョージ・フォアマンは例外的だ。ようやく抜け出したゲットーに逆戻りということも少なくない。

十年前に渡米し、取材を始めた著者にとって、「もう一度話を聞きたい相手は決まって不遇な人たちだった」。プロテストに合格しながらケガでリングに上がることができなかった自身の挫折経験が背景にある。「だまされやすく純粋」な彼らの人柄にもひかれた。

三つ寝室のあるアパートを裸電球一つでしのぐアイラン・バークレーは生きる手段を求め四十五歳でリングへ復帰する。ファイトマネーをめぐる法廷闘争の末、百二十万ドルを得たティム・ウィザスプーンは一年でその金を使い果たす。

自宅に泊まり食事をともにし、クリスマスには連絡を取り合う。「人に殴られた経験のある者でないとわからない痛み」を共有しながら経験を聞き出す。元チャンピオンの証言は著者との信頼関係に裏打ちされている。時には引退を勧めて議論になることもある。

プロモーター次第で勝敗も左右されるビジネスの世界。肌の色も不利に働き、強いだけでは生き残れない。それでも「(生まれ育った環境から)出て行くにはボクシングしかなかった」。はい上がろうとする彼らの「ストラグル(もがき)」に送る著者の共感が、重いトーンのこの本に差し込む希望の光だ。

次作は米国の公立高校での講師経験をもとに、崩壊家庭の現実に切り込む。希望は見つかるだろうか。(新潮社・一、四〇〇円)

(はやし・そういち)1969年埼玉県生まれ。東京経済大卒。週刊誌記者を経てノンフィクションライターに。著書に『メジャーリーグ・オブ・ドリームズ』。米国在住。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

風土記探訪事典
風土記探訪事典中村 啓信 飯泉 健司 谷口 雅博

東京堂出版 2006-09
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奈良時代に官命により編集された地方諸国の地誌である風土記を解説した『風土記探訪事典』(東京堂出版)が刊行された。現代に伝えられている常陸国、出雲国、肥前国、播磨国、豊後国の五国に加え、逸文となっている風土記に出てくる文化遺産などについて解説。歴史読み物としてのほか、いにしえに思いをはせる旅行ガイドとしても使えるようになっている。中村啓信ほか著。

■2006/10/08, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

女性の品格
女性の品格坂東 眞理子

PHP研究所 2006-09-16
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おすすめ平均 star
star女性陣よ、賢くなれ!!男性陣も同様だ!!
star男性にも読んでほしい

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働く女性は増えたが、単に「勝ち組女性」を目指すのは薄っぺらい。会社にどっぷりつかり、権力志向に陥るのも寂しい。本書では、女性官僚として初代男女共同参画局長を務めた著者が、働く女性に「凛(りん)として生きる」ための振る舞い方を助言する。権利を振りかざすな、こびを売り昇進するのではなく一目おかれるようになれ、など企業社会で心が汚れそうになったときに思い出したい生き方の「芯」が満載だ。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

「不利益分配」社会―個人と政治の新しい関係
「不利益分配」社会―個人と政治の新しい関係高瀬 淳一

筑摩書房 2006-08
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おすすめ平均 star
star分かりやすい「小泉政治」の仕組み

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前著『武器としての〈言葉政治〉』で注目を集めた著者による政治学の入門書。特に目新しい事実が盛り込まれているわけではないが、今回は「不利益分配」というキーワードを用いることで、私たちが日本の政治を巡って日ごろ感じるもやもやした状況を分かりやすく解説している。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

転生
転生仙川 環

小学館 2006-09-06
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おすすめ平均 star
star期待が大きすぎた
star表層的に生きる人々

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フリーライターの深沢岬は待ち合わせに訪れたホテルで、ベビーカーに乗った赤ん坊を目にする。「その子はあなたの娘だ」。携帯電話にかかってきた見知らぬ男の言葉に動揺するが、その子は報酬欲しさに提供した自分の卵子から生まれた子だった。主人公を取り巻く謎が深まっていく展開がスリリングな医療ミステリー。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

まっとうな経済学
まっとうな経済学ティム・ハーフォード 遠藤 真美

ランダムハウス講談社 2006-09-14
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スターバックスのカプチーノは決して安くない。カプチーノは決して複雑な商品ではなく、うまいカプチーノは不足していない。しつけの行き届いたスタッフを雇うのに、多くの資金は必要ない。

だが、である。数セントを節約するために、朝の八時半から安いコーヒーを探して、時間を無駄にしたくない。かくて、地下鉄の出口や交差点など、便利な場所にあるコーヒーショップに対する需要は非常に大きい。喫茶店にとって、立地は決定的な意味を持つ――。

本書第一章「誰がためにそのコーヒーはある」はこんな分析から始まる。ならば、誰が立地を支配しているのだろうか。次々と投げかけられる問いを追いかけていくうちに、読者であるあなたは経済学の世界に足を踏み入れている。

第二章は「スーパーマーケットが秘密にしておきたいこと」。モノの値段の決まり方の背後にある価格設定のメカニズムを、これまた分かりやすく解説している。こんな調子で全十章を読み進むうちに、「情報の非対称性」や「ゲームの理論」の輪郭をつかむことができる。国際分業の標準的な理解をもとに、グローバリゼーションの意味合いも感得できる。

分かりやすいのもそのはず。著者は英「フィナンシャル・タイムズ・マガジン」のコラムニストで、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)の主任エコノミスト・ライター。

ひからびた理論を振りかざすのではなく、街に出て腑(ふ)に落ちない出来事を探してきて、経済学のメスを入れる。ジャーナリズムと実務の世界をまたにかけるエコノミストが活躍するあたり、アダム・スミスを生んだ経済学の母国だけのことはある。経済学の分析手法をみんなが共有することで、無駄が省け、豊かさを実現できる。こんな願いが本書には込められている。

原題は「The Undercover Economist」。訳者は「覆面経済学者」という訳語を当てるが、要は経済学の知見を持つ一般市民のことだろう。類は友を呼ぶ。『ヤバい経済学』の著者スティーヴン・レヴィット氏が推薦の辞を寄せているが、筆致はよく似ている。時間の経済からは、どちらか一冊読めばよいことになる。【評 編集委員 滝田洋一】

著者はフィナンシャル・タイムズ紙記者を経て、フィナンシャル・タイムズ・マガジンのコラムニスト。オックスフォード大講師なども務める。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

階級社会―現代日本の格差を問う
階級社会―現代日本の格差を問う橋本 健二

講談社 2006-09
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おすすめ平均 star
star社会の流れは変えられる 静かに鼓舞する一冊

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「階級社会」などといえば、何を時代錯誤なことをと批判されそうだ。著者もそれは十分に承知している。その上で、あえて現代を新たな階級社会と位置づける。

戦前の階級社会はイデオロギーと結びつき過激な左翼運動を生んだ。しかし、戦後の一億総中流時代を迎え「階級」は死語となった。「生活保守主義と背中合わせの階級闘争は人々の上昇志向の前になすすべもなく解体され、孤独なエリートによるそれは孤立して自己崩壊していった」。それが今、よみがえりつつあると主張する。

経済格差をあらわすジニ係数は戦前のレベルにもどりつつある。平均所得の半分に満たない人の割合を示す貧困率は、先進国でも最も高い部類だ。いつの時代にも経済的格差は存在するのだが、それを「階級」と認識せざるを得なくなるのはなぜなのか。

著者は階級を「資本家階級」、専門・管理・事務職など「新中間階級」、自営業など「旧中間階級」「労働者階級」の四つに分類する。そして、収入格差は年齢や性別、学歴などさまざまな要素によって決まるが近年は階級の占める割合が高まっている。また貧困率は労働者階級だけで増加していると説き、フリーターや無業の若者をアンダークラス化しているとみる。

現在の格差問題を「階級」で読み解く難しさも感じるが、見落とされがちだった女性の階級や貧困にも言及しており意欲的な試みといえる。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

自由の樹のオオコウモリ―アルバート・ウェント作品集
自由の樹のオオコウモリ―アルバート・ウェント作品集アルバート ウェント Albert Wendt 河野 至恩

日本経済新聞社 2006-08
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「太平洋文学」といえば、かつてはその島々を訪れたヨーロッパ人の作品を指していたという。それを変えたのが一九三九年に西サモア(現サモア)で生まれた著者だ。島々の暮らしが抱える様々な問題点をあぶり出す作風は、現地人による太平洋文学という新しい流れを生み出した。中短編九編を収めた本書はその代表作である。

表題作は死の床にある男ペペが自らの生涯を振り返る。彼の古里はサモアの中で独自の文化を持つ地域だったが、ヨーロッパ系の白人がやってきたことで生活は大きく変わる。有数の金持ちとなった父親をはじめ、偽善的な世の中に反発したペペは、教会に火をつけて逮捕される。彼の破天荒な生き方は「近代化」への反抗と見ることができる。

「サラブレッドに乗った小悪魔」に登場する元騎手のピリーも、時代に乗り遅れた男だ。暴力的な彼は何度も事件を起こして逮捕される。ほとんどの親せきにとっては困った存在だが、一部からは「素(す)敵(てき)な犯罪者」として愛されてもいた。川でおぼれた刑務所の看守を助けようとして自らが死んでしまった彼は、「英雄」にまつりあげられる。

ニュージーランドから帰国した男が「不思議なスーツケース」ゆえに崇拝される様子を描いた「ホワイトマンの到来」も、サモア社会への冷徹な視線を感じさせる。詩情とユーモアを交えた豊かな語りの中には、一抹のほろ苦さがある。河野至恩訳。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

ならず者国家―世界に拡散する北朝鮮の脅威
ならず者国家―世界に拡散する北朝鮮の脅威ジャスパー ベッカー Jasper Becker 小谷 まさ代

草思社 2006-09
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七月に弾道ミサイルを発射し、最近は核実験の準備と受け取れる動きも見せている北朝鮮。日本国民の不安は募るばかりだ。しかし、北朝鮮に関する情報は断片的なものが多く、外からはなかなかその像を結ぶことができない。

北京駐在歴が長い英国人ジャーナリストの著者は、何度かの北朝鮮訪問取材の上に脱北者や平壌駐在経験のある外交官、ジャーナリスト、世界食糧計画(WFP)職員、学者らへの膨大なインタビューを積み上げ、資料分析を加えて、北朝鮮の実態を暴き出そうとしている。想像を絶する飢餓、強制労働、金正日総書記の贅(ぜい)を極めた生活と暴君ぶり、増加する反乱事件など、伝聞内容が中心とはいえ生々しいエピソードが随所にちりばめられている。

著者がたどり着いた北朝鮮観はタイトルが示すとおりだ。そこには米国の対北朝鮮強硬派と相通じるものがある。韓国のいわゆる「太陽政策」や、「米朝枠組み合意」に象徴される米クリントン政権の対北朝鮮関与政策、六カ国協議はすべて「失敗」と断じ、厳しい批判を加えている。「北朝鮮が誠意を持って交渉したことなどない」というのが著者の見方であり、「金体制の崩壊が唯一の解決策」というのが結論だ。

著者の強硬な主張にはさまざまな反論もあるかもしれない。しかし、全体を通じて今の北朝鮮の実像に迫ることのできる本であることはまちがいない。小谷まさ代訳。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

アフガニスタン 山の学校の子どもたち
アフガニスタン 山の学校の子どもたち長倉 洋海

偕成社 2006-08
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著者は世界の紛争地を訪れ、そこに生きる人びとを見つめてきた。アフガニスタンでは旧ソ連侵攻直後の1980年から取材を続ける。本書の舞台はアフガン北部、標高約2800メートルの村にある学校。2002年以降、著者は何度もこの地を訪れ、いまだ厳しい環境ながらも笑顔の絶えない子どもたちの姿に触れてきた。教科書を一心不乱に読み、新しいサッカーボールに歓声をあげる。彼らの姿をとらえるまなざしが温かい。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

公共の役割は何か
公共の役割は何か奥野 信宏

岩波書店 2006-08
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小泉政権が五年半にわたって推し進めてきた構造改革の狙いのひとつは、政府のサイズを小さくして機能を効率的にすることだった。その小泉路線にひと区切りがつこうとしているタイミングをとらえて、公、つまり政官の役割を改めて問おうとした。社会資本整備、街づくり、大学などの事例を挙げつつ、公を再考する手法は読み手に親切だ。欲をいえば人口減という未曽有の試練に直面するなかでの公の役割についても論じてほしかった。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

下流社会マーケティング
下流社会マーケティング三浦 展

日本実業出版社 2006-09-05
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おすすめ平均 star
starマーケット概観

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ベストセラーとなった『下流社会』の著者による階層化、世代、デザインを切り口とするマーケティングの入門書。人口減少が消費市場に与える影響、階層化の進行がもたらすビジネスモデルの変化についてグラフや写真を多用して解説する。団塊世代を経済力や趣味で八グループに分けた分析も興味深い。商品企画にかかわる人にはすぐに役立つ実用書であると同時に、門外漢にも社会分析としてのマーケティングの面白さを味わえる。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

野田秀樹 赤鬼の挑戦
野田秀樹 赤鬼の挑戦野田 秀樹 鴻 英良

青土社 2006-08
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人気劇作家、演出家で俳優でもある野田秀樹は民話劇「赤鬼」をロンドン、バンコク、ソウルで現地俳優と上演した。その軌跡を評論家の鴻が連続インタビューした記録に加え、戯曲、野田自身の回想記を収録している。欧州の演劇祭で企画立案にかかわる鴻は世界演劇を見渡す視点で「赤鬼」をとらえ、野田も驚くほど率直に異文化交流の苦難を語る。西洋の借り物ではなく、自らの言葉で日本のことを考えるべきだと力強く主張する。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

フランス資本主義―戦間期の研究
フランス資本主義―戦間期の研究玉田 美治 戸原 四郎 工藤 章

桜井書店 2006-09
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帝国主義や資本主義の形成について論じた書物は少なくない。しかし、行政機関の資料や統計の不備などもあり、フランスを真っ正面から取り上げた書物や論文は少なく、フランス資本主義の研究は立ち遅れ感が否めなかった。本書は第一次世界大戦前の産業革命の時期から、第二次世界大戦前までの時期を対象に、データを駆使しながらフランスにおける資本主義の展開と変遷を丹念に跡付けている。戸原四郎ほか編。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

遺体科学の挑戦
遺体科学の挑戦遠藤 秀紀

東京大学出版会 2006-09
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動物の遺体には生命の謎を解き明かすカギが満ちている。著者のような科学者が遺体を研究することは「遺体をもう一度生かす」ことだ。著者が死んだパンダの手指をCTスキャンを使って分析し、竹をつかむ役割を果たす「第七の指」の存在を突き止めたように、遺体は雄弁に語る。あらゆる動物の遺体を収集して尊重し、知の宝庫として取り扱う著者の営為は一見遠回りだが真摯(しんし)な姿勢といえる。学問でも効率が優先される現代への批判の書でもある。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

恋する文豪
恋する文豪柴門 ふみ

角川書店 2006-09
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『東京ラブストーリー』などで知られる恋愛マンガの第一人者が、日本の名作小説の解読に挑んだ。「男性漫画誌に連載しているわりには男性の気持ちが分かっていないので、彼らの恋愛観を小説の中に探ってみようと思った」ときっかけを語る。

取り上げたのは森鴎外『舞姫』、菊池寛『真珠夫人』、村上春樹『ノルウェイの森』など二十四編。「よく知られている作品を中心に選んだ。(堀辰雄『風立ちぬ』のヒロインのように)日本の男性ははかない美少女タイプが好きなのがよくわかった」と笑う。

今回初めて読んで衝撃をうけたのは尾崎紅葉『金色夜叉』。「完全な男のうらみ節。それを日本中の読者が応援したというのだから驚いた」。川端康成『雪国』も印象深かった作品。「『芸者との恋物語』という事前のほのぼのしたイメージは完全に裏切られた。フランス映画のようなクールでアバンギャルドな物語だった」と振り返る。

中学一年で出合った庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』は、久しぶりに読むと味わいが違ったという。「主人公の薫クンが高校三年生とは思えないくらいじじくさい。でも現在の拝金主義を予見するようなことを言っているのはさすがだと思った」と再評価する。

小学校では読書クラブに入ったほど、幼いころから本好きだった。大学時代、後に夫となる弘兼憲史氏のアシスタントをしていたときも「絵は描かなくていいと言われたので、料理を作る時間以外はひたすら本を読んでいた」。

エッセーはマンガに比べて「(作家の)実像に近い」と話す。仏像好きな一面は『ぶつぞう入門』という本を生んだ。「最近は浮世絵など江戸文化に興味を持っている」。「恋愛」「仏像」「文学」に続くエッセーのテーマは、「江戸」かもしれない。(角川書店・一、一〇〇円)

(さいもん・ふみ)1957年徳島県生まれ。お茶の水女子大卒。マンガ作品に『P.S.元気です、俊平』(講談社漫画賞)、『あすなろ白書』(小学館漫画賞)など。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

外来生物事典
外来生物事典DECO

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おすすめ平均 star
star外来生物問題を語るにはこれも読むべき

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環境省指定の特定外来生物と要注意外来生物を網羅して収録した『外来生物事典』(東京書籍)が刊行された。カニクイザル、ブラックバス、オオブタクサなどの外来生物の生態、どう移入したか、どんな問題があるかなどを平易な言葉で解説している。また、監修者、池田清彦の考え方を示すコラムが多くの項目の末尾に付されている。

■2006/10/01, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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