メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年4月2日~4月9日

フランス領ポリネシア
フランス領ポリネシアエマニュエル ヴィニュロン Emmanuel Vigneron 管 啓次郎

白水社 2006-03
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フランスの地理学者による、この地域の社会や文化、歴史の解説書。中心地のタヒチと他の島々では人々の生活水準に明確な差異がある。核実験施設の建設は域内の経済を飛躍的に発展させた。誰もが青い海やサンゴ礁をイメージする楽園の現実が見えてくる。管啓次郎訳。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

物理学校―近代史のなかの理科学生
物理学校―近代史のなかの理科学生馬場 錬成

中央公論新社 2006-03
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一八八一年に設立された日本初の私立理学学校の歴史をたどるノンフィクション。東大理学部のOB有志が手作りで始めた同校は、明治から昭和初期にかけて多くの教師、技術者を輩出し、戦後の東京理科大学にバトンタッチする。「民」の立場から日本の近代化を支えた人びとの情熱が著者の筆を通じて伝わる。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

メタモルフォーシス―ギリシア変身物語集
メタモルフォーシス―ギリシア変身物語集アントーニーヌス・リーベラーリス Antoninus Liberalis 安村 典子

講談社 2006-03
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紀元後二―三世紀ごろに活動した物語作家がギリシャ語で書いた、四十一の掌編からなる素朴な変身譚(たん)集。神話や民話を題材に描いたものだが、神々のちょっとした怒りやあわれみによって、人が鳥や小動物や石に簡単に変身してしまう。教訓や救い、善悪の判断などの価値観が伴わない物語には、読み手の人間観が問われるようだ。原典からの初邦訳。安村典子訳。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日
マンション崩壊 あなたの街が廃墟になる日山岡 淳一郎

日経BP社 2006-03-23
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耐震強度偽装事件が発覚する少し前、日本の住宅史上、前代未聞の欠陥住宅群の建て替え工事が始まった。都市再生機構(建設当時は住宅・都市整備公団)がバブル経済の末期に東京・八王子市で分譲した全四十六棟・約九百戸のマンション群である。

本書はポストモダン建築としてもてはやされた同団地が、なぜ手の施しようもない欠陥住宅になったのかという闇に迫る。そこにはコスト優先で安全性を軽視した公団と施工業者らの無責任な姿が浮かび上がる。著者は雨漏りに悩む居住者に対する公団職員の不誠実な対応を批判するが、この問題をより複雑にする背景に、居住者の「資産価値幻想」がある、と指摘する。

この物件は専門家の間では有名だが、一般にはあまり知られていない。瑕疵(かし)の存在が漏れると資産価値が下がると、住人自身がかん口令を敷いてきたためだ。本書でも団地名は伏せている。資産価値に対する考え方は実は個々人で異なり、「皆で守る」という幻想がむしろ住人間のあつれきを生み、事態をより悲劇的にする。

本書では、建物と居住者の「二つの老い」が進む郊外型ニュータウン開発の歴史や東京・国立のマンション景観訴訟も取り上げ、「質より量」を優先する日本の住宅政策を鋭く批判している。人口減社会のなかで続く超高層マンションの建設ラッシュが招くゆがみの行方が、著者でなくても気になってくる。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

バーナンキのFRB
バーナンキのFRB加藤 出 山広 恒夫

ダイヤモンド社 2006-03-03
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今年二月に米連邦準備理事会(FRB)議長に就任したバーナンキ氏は、金融政策にどのような手綱さばきを見せるか。この疑問への回答を探ったのが本書であり、現時点ではもっともよくまとまった書といえる。

第一章は、バーナンキ議長の持論であるインフレ・ターゲット論がFRBの政策としていかに採用されていくかを論じる。この政策は、一定のインフレ率を目標に中央銀行の金融政策を縛るものとの印象が強いが、バーナンキ氏はしゃくし定規の考えの持ち主ではないという。

昨年十一月の米上院公聴会の議論などを踏まえ「バーナンキ議長の望ましいインフレ率は一―二%」と指摘しつつ、FRB内での合意形成や議会の説得には時間をかけるだろうとみている。インフレ目標を採用した場合でも実際の金融政策をがんじがらめに縛ることはないだろうとの見立てが説得力を持って語られる。

第二章では、九〇年代後半からの米国株のバブルにグリーンスパンFRB前議長がどのように取り組んだかを検証している。バーナンキ新議長はさっそく住宅バブルの制御で同じ問題に直面しているだけに、今後の政策運営を探るうえでも情報価値は高い。

金融政策決定の会合である米連邦公開市場委員会(FOMC)での議論の内容や市場への意思伝達の難しさを、ここ十年の事例から具体的に論じる第五章をあわせ読むと、一層理解が深まるだろう。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

魂の声 プリマドンナができるまで
魂の声 プリマドンナができるまでルネ フレミング Ren´ee Fleming 中村 ひろ子

春秋社 2006-02
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二〇〇四年に米国で発売され、話題を呼んだ。著者は本拠の米メトロポリタン歌劇場だけでなく、世界の舞台で活躍するプリマドンナ。一九五九年生まれと今が絶頂のソプラノ歌手が早過ぎる自伝を書いた理由がふるっている。

発端は下積み時代の苦い記憶にさかのぼる。「高音に不安のあるソプラノ」だったフレミングは次々とオーディションに落ち続け、発声技巧の壁にぶち当たった。「手掛かりを得ようと過去の大歌手の伝記を読みあさったが、自慢ばかりで何の役にも立たなかった」。それで「まだ現役のうち、続く世代の参考になる実用書を書きたかった」。

舞台上の事故から自身の離婚に至るまで、あらゆる失敗談が率直に語られる。カルロス・クライバーらが終始温かく支えてくれた話がある一方で、理不尽な扱いを受けたりした指揮者の名前も実名で挙がる。それでもユーモアを絶やさず、不屈の意思で復活する姿の背後に、最上の意味でのアメリカ人魂、フロンティア・スピリットを感じさせる。

発声技巧への考察では、ドイツ人でもイタリア人でもない利点を生かし、ありとあらゆる「役に立つ」見解に触れる。日本の声楽教育では稀(まれ)なテクニックもよく登場する。イタリア歌劇へレパートリーを広げる際、「鏡の前で歌って発声を確かめるコツ」を伝授した名教師として現在は日本在住のイタリア人、ウバルド・ガルディーニの名が出てくるのは面白い。中村ひろ子訳。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

道のかなた
道のかなたベルンハルト M.シュミッド

ピエ・ブックス 2006-02
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はるか地平線まで続く道。一直線に森を切り開く舗装道もあれば、黄色い砂漠をまがりくねっていく道も、雪原の中ただ一人の足跡が作り出した道もある。向こうにはどんな風景が広がるのか、ページをめくるごとに想像をかきたてる写真集だ。著者は日本在住のドイツ人写真家。様々な道を人生に重ね「果てしない可能性や将来への希望」をイメージしたと語っている。写真は米国ネバダの風景。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

国際金融システムの制度設計―通貨危機後の東アジアへの教訓
国際金融システムの制度設計―通貨危機後の東アジアへの教訓福田 慎一 小川 英治

東京大学出版会 2006-02
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東アジア地域における望ましい為替制度は何か。本書は為替制度を含む国際金融の制度設計について提言している。特徴的なのは提言だけでなく、モデルを使って検証している点だ。アジア通貨危機以降、議論となっている同地域における共通通貨圏形成の可能性についてもモデル分析している。数学的な要素が強いため難解ではあるが、この一冊で東アジアにおける為替制度の現状や問題点が浮き彫りになる。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

グローバル・ガバナンス―「新たな脅威」と国連・アメリカ
グローバル・ガバナンス―「新たな脅威」と国連・アメリカ横田 洋三 大芝 亮 久保 文明

日本経済評論社 2006-02
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米同時テロ以降の課題であるグローバル・ガバナンスのあり方について、米国、国連、欧州連合(EU)専門家によって構成される研究会で多面的、多層的に考察された書である。最終章の「提言 新たな国際秩序を求めて」にそのエッセンスがまとめられているが、「新たな脅威には、人間の安全保障はじめ非軍事的な対応を含む包括的安全保障体制が必要」と指摘するなど鋭い洞察と良質な示唆に富んでいる。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ニュー・ブラジリアン・シネマ―知られざるブラジル映画の全貌
ニュー・ブラジリアン・シネマ―知られざるブラジル映画の全貌ルシア ナジブ L´ucia Nagib 鈴木 茂

プチグラパブリッシング 2006-01
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貧民街にはびこる暴力を描いた「シティ・オブ・ゴッド」など近年のブラジル映画の製作や内容の動向を紹介。一九九〇年代初めに年間二本まで激減した同国の映画製作は政府が支援を始めた九四年以降、めざましく復活した。映画史の部分はやや専門的だが、同国映画の原風景といえる東北部の分析などは興味深い。注目されるラテン映画の背景を詳述している。鈴木茂監修・監訳。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ソーシャル・エンタープライズ―社会的企業の台頭
ソーシャル・エンタープライズ―社会的企業の台頭谷本 寛治

中央経済社 2006-01
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本書の題名「ソーシャル・エンタープライズ」はなじみが薄いが、少子高齢化、地域の疎外、ホームレスなどの多彩な現代の社会問題の解決を目指し、かつ事業として問題解決を試みる事業体を指す。非政府組織(NGO)などの活動にビジネスの手法を持ち込んだり、金融を付与するなど、市場、政府、NGO・NPO三者の“協働”を志向する。すでに欧米では一つの潮流を成し、日本でも各地で試みが広がっている。本書はそうした背景と実践の姿を丹念に紹介している。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

キューポラのある街―評伝 早船ちよ
キューポラのある街―評伝 早船ちよ関口 安義

新日本出版社 2006-03
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吉永小百合主演の映画でも広く知られる小説『キューポラのある街』の作者で、昨年十月に九十一歳で亡くなった早船ちよの評伝。岐阜県で生まれ育ち、尋常高等小学校の作文教育で書く楽しみを知る。子育てをしながら書き上げた『キューポラのある街』は舞台となった鋳物工場の町、埼玉県川口市の徹底した実地調査から生まれた。映画化の成功で人気作家となり、夫とともに児童文化の研究に打ち込む。その生涯を豊富な資料をもとに丹念に追っている。

■2006/04/09, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

江戸時代の設計者―異能の武将・藤堂高虎
江戸時代の設計者―異能の武将・藤堂高虎藤田 達生

講談社 2006-03
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『江戸時代の設計者』藤田達生著 副題は「異能の武将・藤堂高虎」。中世から近世への移行期を専門とする著者は、名築城家として知られ、藤堂藩(津藩)三十二万石の初代藩主・高虎を「徳川家康の参謀」ととらえ直す。江戸幕府草創期に豊臣恩顧大名対策の中核を担い、領地の伊勢・伊賀で近世都市の先駆となる城下町を築いた高虎。本書は中央集権的な豊臣時代の反省から藩を基盤にした分権国家の立役者になった武将の実像を浮き彫りにする。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて
ルート66をゆく―アメリカの「保守」を訪ねて松尾 理也

新潮社 2006-03
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『ルート66をゆく』松尾理也著 シカゴから中西部の州を貫き西海岸のサンタモニカまで約三千九百キロメートル。米国の典型的な「保守」層が多く住むルート66の世界を新聞記者の著者がリポートした。原理主義的なキリスト教をよりどころに中絶や同性愛、進化論を否定する人びと。ブッシュ政権を支える米国版「草の根」保守の実態が浮かび上がる。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

スイス探訪―したたかなスイス人のしなやかな生き方
スイス探訪―したたかなスイス人のしなやかな生き方國松 孝次

角川書店 2006-03
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『スイス探訪』國松孝次著 一九九九年から三年間にわたりスイス大使を務めた元警察庁長官が、滞在中の見聞を元に同国の歴史、社会制度、文化などについてつづった。中近世に活躍したスイス人傭兵(ようへい)、四十八時間以内に三十五万人を動員できる現在の民兵制度など、「平和の国」という一般的なイメージではくくれない実像を生き生きと伝える。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

聯想 中国最強企業集団の内幕 上
聯想 中国最強企業集団の内幕 上凌志軍(人民日報高級編集者) 漆嶋 稔

日経BP社 2006-02-09
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聯想 中国最強企業集団の内幕 下
聯想 中国最強企業集団の内幕 下凌志軍(人民日報高級編集者) 漆嶋 稔

日経BP社 2006-02-09
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中国科学院に勤める平凡な中年コンピューター技術者だった柳伝志氏が仲間を集めて小さなIT(情報技術)企業を興した。この中国のベンチャー企業がレノボ(聯想)グループの名前で、世界市場に乗り出すまでの失敗と成功を描いた起業家物語である。

聯想は、エース技術者数人を除けばいつリストラされてもおかしくないような中年男女の集団。それでも国有企業にはなかった斬新な広告戦略で顧客をつかむ。トラブルも次々に発生していく。権限を与えた若手が独走し、中年グループと対立を深める。

柳氏は若者のリーダーを横領の容疑で警察に引き渡し、不満分子らを粛清。その後息つく間もなく特許紛争に巻き込まれ、さらにはエース技術者と柳氏が半導体チップへの進出を巡って反目、泥仕合に陥る。景気の荒波をかぶり、企業存亡の危機が続く。

派閥、裏切り、追放、ライバル企業との駆け引き。日米の企業物語とさして変わらない。「中国もここまで来たか」との感慨を抱かせる。もっとも、中国は共産党国家。著者は人民日報の記者でもあり、聯想と政治との微妙なかかわりにも目配りを欠かさず、筆を進める。

物語は聯想がIBMのパソコン部門を買収したくだりで終わる。買収後はシェアが伸び悩むなど新たな問題にも直面しているとされる。本書に描かれた後で展開するドラマも気にかかる。漆嶋稔訳。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

東西逆転―アジア・30億人の資本主義者たち
東西逆転―アジア・30億人の資本主義者たちクライド プレストウィッツ Clyde Prestowitz 柴田 裕之

日本放送出版協会 2006-03
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米国の産業空洞化や中国、インドなどBRICsの急速な台頭によって、世界経済は東西逆転の大転換期を迎えている、と著者は説く。東西双方で起きている変化を、各国の産業や個別企業の豊富な事例をもとに浮き彫りにしている点が興味深い。

著者によると、二十一世紀の世界には「グロバリゼーションの第三の波が押し寄せている」という。第一の波は十五世紀の大航海時代から二十世紀初頭までの欧州中心時代、第二の波は前世紀末までの米国全盛期を形成した。

そして現在はインターネットに代表される通信、交通の発達と共に第三の波が到来した。中国、インドを中心としたアジアに三十億人のキャピタリストが出現、西洋から東洋への勢力の逆転が始まっているとみる。

米国では製造業で中国、サービス産業でインドへのアウトソーシングが進み、産業空洞化と膨大な経常赤字で破滅の危機にある。手をこまぬいていれば、二〇一〇年を待たずにドルの大暴落が起きると警鐘を鳴らす。

過剰消費の米国と過剰貯蓄のアジアから成る現在のグローバル・システムは重大な欠陥を抱え、「一歩間違えば大惨事」を招きかねない。

そうならないために著者は米国が政府主導で教育、研究開発、貯蓄、省資源に取り組むべしと主張。もはやドルは基軸通貨たりえないとして新たな国際通貨の創設を提言している。柴田裕之訳。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた
問題少女―生と死のボーダーラインで揺れた長田 美穂

PHP研究所 2006-03
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小学生のころからリストカットを繰り返し、中学二年で不登校になり、十七歳で売春を始めた一人の少女。「境界性人格障害」と診断されていた彼女は二十歳で自ら命を絶った。その「問題少女」に十六歳のときから接触を続けたフリージャーナリストが、出会いから死までをつづった壮絶なノンフィクションだ。

知り合ったきっかけは一九九〇年代末、日本に入り始めていたある薬物の取材。少女は取材対象の服用体験者の一人だった。その後、手紙やメールをやりとりしたり、電話や会って話す機会を重ねるうちに、少女は自分の内面を著者に打ち明けていく。

学校になじめず自殺未遂を重ねる。別れた恋人へのあてつけから売春を始め、万引きを繰り返す。一方でタロット占いに興味を示し、本や映画の批評文をネットに投稿し、作家になる夢を口にするようになる。彼女が自宅で首をつったのは、処女作となる小説を書き上げたことを著者に知らせてきた直後だった。

少女の死後、著者は生前の彼女を知る人々を訪ね歩く。関係を持った男や女の友人、カウンセラー、精神科医。著者自身を含め、なぜ、誰も少女を救えなかったのか。少女を死に追いやった「悪者」を探す著者の旅は、ある「終着点」にたどり着く。

著者にあてた手紙やメールに残る少女の言葉が痛々しい。取材者と取材協力者の関係とは何か。著者が自らに向けた苦い問いが重く響く。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

針穴のパリ----田所美惠子写真集
針穴のパリ----田所美惠子写真集田所 美惠子

河出書房新社 2006-03-11
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著者はパリ滞在中に針穴(ピンホール)写真の魅力にとりつかれ、自家製写真機で15年近く撮影を続けてきた。針穴写真はレンズを使わず、穴から箱に差し込むわずかな光でゆっくりフィルムを感光させるため、しっとりとしたソフトフォーカスの映像になる。ガラスのショーウインドーに映りこんだ町並みや、古い油彩画のような質感を持つ静物の作品が美しい。写真は「水溜りの凱旋門」。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

会社のカミ・ホトケ―経営と宗教の人類学
会社のカミ・ホトケ―経営と宗教の人類学中牧 弘允

講談社 2006-02
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営利追求を目的とする「会社」とは一見直接関係がないと考えられる「宗教」。しかし、日本には、ビルの屋上などに祠(ほこら)を持つ大手企業がたくさんあるし、高野山や比叡山を訪れると、会社の物故者慰霊のための会社供養塔が並んでいる。著者はこれらの事例に見られる現象を「会社宗教」と呼び、「カミ」と「ホトケ」の神仏二分法を用いて検証。入社式や社葬、企業博物館などに表れる宗教性にも言及し、日本特有の会社宗教の実態を明らかにする。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

次世代CIO―最高情報責任者の成功戦略
次世代CIO―最高情報責任者の成功戦略カール・D. シューバート Karl D. Schubert 渡部 洋子

日経BPソフトプレス 2006-03
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ビジネスの世界を中心に日本でも定着し始めたCEOやCFO。これに対し、CTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)の実態はまだほとんど知られていない。本書は企業のIT化が進むなか、次第に重みを増しつつあるCIOの具体的な役割と責任に関して解説した。本書を読むと米国ではCIOが企業のIT戦略と密接に結びついた重要ポストであることがよくわかる。渡部洋子監訳。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

最新 情報漏洩防止マニュアル―日本版SOX法、個人情報保護法、e‐文書法施行で求められるコンプライアンス
最新 情報漏洩防止マニュアル―日本版SOX法、個人情報保護法、e‐文書法施行で求められるコンプライアンス酒巻 久 キヤノン電子情報セキュリティ研究所

アスキー 2006-02
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二〇〇五年四月の個人情報保護法施行後も、企業や役所から個人情報が外部に漏れるケースは後を絶たない。漏洩(ろうえい)対策を指南する会社のトップである著者は、コンピューター上の通信記録(ログ)を管理することが漏洩防止につながると説く。さらに「業務プロセスの記録を残す」ことは、経営の効率化にもつながるという。情報セキュリティーを考える上で参考になる。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

カイト・ランナー
カイト・ランナーカーレド ホッセイニ Khaled Hosseini 佐藤 耕士

アーティストハウスパブリッシャーズ 2006-03
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一九七五年のアフガニスタン。首都カブールの裕福な地区に住む少年アミールは、伝統行事のたこ揚げ合戦に優勝した同じ日に、召使の息子で無二の親友ハッサンを裏切る。ソ連の侵攻を避けて米国に渡ったアミールは罪の記憶からの救いを求め、二十六年後に再び故郷の土を踏んだ。自らもアフガニスタンからの亡命者である著者。国際政治に翻弄(ほんろう)され続けた母国の風景に、友情の喪失と回復というテーマを巧みに織り込む。佐藤耕士訳。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

二十世紀以降の音楽家の活動を大きく変えたレコード。その制作に四十年間、携わった著者が、音楽プロデューサーの役割を考察する。カラヤンの飛躍に大きな力を果たした名プロデューサーなど、世界的な流れを追った後、自ら立ち会ったピアニストのルドルフ・ゼルキンや指揮者の山田一雄らの録音の裏話を披露する。ピアニストの中村紘子、園田高弘らのインタビューも加え、一度の演奏で消えるはずの音楽という芸術と、録音との関係について、演奏家と共に深掘りする。

■2006/04/02, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

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