メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年4月16日~4月23日

フランス反骨変人列伝
フランス反骨変人列伝安達 正勝

集英社 2006-04
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仏の歴史をひもとき、世間に背いて自分の価値観を貫いた四人を紹介する。妻を奪った「太陽王」ルイ十四世に逆らった侯爵。死刑制度に誰も疑いを持たなかった一八〇〇年代に、廃止を訴える本を発表した死刑執行人。世渡りは下手だがどこか憎めない。時代とともに価値観は変わることも教えてくれる。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

儀礼の象徴性
儀礼の象徴性青木 保

岩波書店 2006-02
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人間社会にとっての儀礼の意味や普遍性、必要性などについて、主に文化人類学の観点から論じる。タイの仏教儀礼で使われる言葉の分析や、英国の女王の戴冠式を例にした国家と儀礼の関係の考察などで構成。著者自身のタイでの僧侶修行の体験に根ざした詳細な分析が興味深い。サントリー学芸賞を受賞。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

野球はベースボールを超えたのか
野球はベースボールを超えたのかロバート ホワイティング Robert Whiting 松井 みどり

筑摩書房 2006-04
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『野球はベースボールを超えたのか』ロバート・ホワイティング著 スポーツを中心とした日本人論で知られるジャーナリストが、球界再編や選手のスト、新球団誕生で激動した日本野球を、メジャーリーグとの比較でとらえた。日本の球団は企業の広告塔としての役割を重視する結果、大切なマイナーリーグへの投資を怠っていると指摘。球場の賃貸契約見直しやグッズ販売強化を通じて、収入拡大を目指す必要があると述べる。松井みどり訳。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

イノベーション 破壊と共鳴
イノベーション 破壊と共鳴山口 栄一

NTT出版 2006-02
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今年九月に退く小泉純一郎首相は「改革」の重要性を一貫して説いてきた。しかしその本質は様々に解釈されており、改めて問われると「よくわからない」という人も少なくない。少々飛躍しているかもしれないが、本書を読んで「改革」とはこういうことだったのかとひらめいた。

要約すれば、人間はそれぞれ生きがいとして「何かを創造したい」とか「人間的に成長したい」などといった「実存的欲求」を本来持っているはずである。それを自由に追求できる社会をつくることが「改革」だというわけだ。

この「実存的欲求」がはじけない限り、そんなものは絶対作れるはずがないといった固定観念を覆す「パラダイム破壊型イノベーション」は生まれない。ところがバブル崩壊から今日までの企業の研究開発の現場は、人材を「精神なき労働力の提供者」として扱う傾向を強めており、危機的状況ではないかと著者は懸念する。

景気が回復し企業業績は好調に推移し日本は元気を取り戻したが、企業の研究開発についての本書の分析を読むと不安になる。一九九〇年代半ばまで量産を続けてきた大手電機メーカーの研究者による学術論文がここへきて急減している。一方、韓国のサムスンの学術論文が急増し、日本や米国の企業を圧倒する。

最近のエレクトロニクス分野の独創的な開発は、理論的な研究と巧みなもの作りがかみ合って初めて可能になる。本書は「知の創造」と「知の具現化」という。学術論文の減少は「知の創造」の衰えを示す。原因は、不況のさなかに研究開発部門の人材をやみくもに減らしたためだとみている。

イノベーションは研究者の孤独な作業だけではものにならない。著者は、トランジスタや青色発光ダイオードの開発の経緯を分析し、経営層にその価値を暗黙知として理解できる人物がいなければせっかくの研究もつぶしてしまうと、現状を踏まえて警告する。

背景に「リスクに挑戦しないですむような社会」を目指してきた戦後の歴史があるのではないかという大きな問題提起が、なぜ今「改革」なのかという疑問を解く鍵になる。粗削りだが、いろいろと触発される点の多い一書である。【評 編集委員 森一夫】

やまぐち・えいいち 55年生まれ。同志社大学教授。専門は物理学。同大学21世紀COEプログラム「技術・企業・国際競争力の総合研究」副センター長。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

「悪所」の民俗誌―色町・芝居町のトポロジー
「悪所」の民俗誌―色町・芝居町のトポロジー沖浦 和光

文藝春秋 2006-03
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現代でいう盛り場の源流「悪所」は江戸時代に遊里と芝居町が一緒になっていた。国内外の都市、島々、辺境を歩き、比較文化論の切り口から日本文化の深層をえぐる研究・調査を続ける著者が幼少、青年期の経験を織り交ぜながら、「体内で先天的な共鳴感が生じる人生の磁場」として悪所を取り上げた。

人の心を浮き立たせる悪所は門付け芸や大道芸に始まり、歌舞伎や人形浄瑠璃などを生んだ芸能発祥の場だ。居住地を制限され武士や町人との交流も禁じられ、体制からはみ出した制外(にんがい)者として扱われた役者らは、挑発的なパワーを身に潜め、支配権力の内実をそれとなく暴露することで民衆の日常の不平不満を代弁した。

時代は平安から明治まで、人物は深いかかわりをもった後白河院から永井荷風まで取り上げている。中世にあった聖性がとりもつ「貴」と「賤」の心通う交流がなぜ、近世以降、徐々に断絶し、差別を受けるようになったのか。著者は新書を意識してわかりやすい記述に配慮しながら、問題に深く切り込む。

悪所が民衆のエネルギーを蓄積し、反骨の美意識を磨き、そして引き継いできた文化史上の功績は大きい。単なる居住制限地区から「新しい文化の発信地、広汎な情報流通の基地、体制的秩序を切り崩していく混沌(こんとん)の場」へ転化していくさまを歴史的に検証する姿勢に、著者の思いの深さがにじむ。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

中国はいかにチベットを侵略したか
中国はいかにチベットを侵略したかマイケル ダナム Mikel Dunham 山際 素男

講談社インターナショナル 2006-02
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歴史はおおむね勝者の物語である。中国のチベット自治区は「封建的な搾取がなくなり、人々の生活は豊かになった」と説く中国共産党の言葉ばかりが耳に入る。本書は米国人作家で写真家のマイケル・ダナム氏が共産党の軍隊と戦ったチベット人を丹念に取材し、敗れた側の立場から歴史を再構築した労作だ。

一九四九年、中国はチベットへの進出を宣言。翌年、軍をチベットに進め、道路の建設に着手する。チベット側には歓迎ムードすらあったという。毛沢東は敵を安心させた上で、敵勢力を分断する戦略を得意としたが、チベットでもこの方法は成功した。

米国は中央情報局(CIA)を通じチベットの抵抗勢力を援助。チベット青年六人をサイパン島に招き、軍事訓練を施す。青年らはパラシュートで空からチベットに舞い戻り、抵抗運動を強化する。だが軍備を巧妙に増強した共産党側にはかなわず、五九年、指導者ダライ・ラマはインドへの亡命に追い込まれた。

中国との関係改善に動いた米ニクソン政権はチベット抵抗勢力への支援を停止。七四年、サイパンで訓練を受けた最後の軍人がネパールで殺され、抵抗運動は終わった。

列強に侵略された中国がチベットに武力で支配権を確立し、米国、インドがその中国とも取引をする。本書がひもといたチベット敗北の歴史からは、国際政治の冷徹な現実も浮かび上がってくる。山際素男訳。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まった
はじめに線虫ありき―そして、ゲノム研究が始まったアンドリュー ブラウン Andrew Brown 長野 敬

青土社 2006-02
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歴史の教科書に載せるべき戦後の生物学の業績を二つ挙げるとしたら――。一つは一九五三年のワトソン、クリックによるDNA二重らせん構造の決定、もう一つを二〇〇三年のヒトゲノム(全遺伝情報)解読だとすることに異論は少ないだろう。

これら二つの業績を事実上つなぐ、めざましい仕事をした大物生物学者がいる。二〇〇二年にノーベル医学生理学賞を受賞した南ア生まれの英国の研究者、シドニー・ブレナーだ。この才気と個性にあふれる希代の科学者と同僚の足跡を米ジャーナリストが克明に記録した。

表題にある線虫とは、ブレナーが研究の材料に選んだ体長一ミリ足らずのミミズのような外観の動物だ。細胞数が千個に満たないこの虫は生物として単純過ぎもせず、かといって複雑過ぎもしない。食物をとって成長し子孫を増やすという、動物に普遍的な中身を最小限持っている。

クリックらに次ぐ分子生物学の開拓者の一人として顕著な業績を上げたブレナーは、線虫のゲノム解読計画を立ち上げる。ある生物のゲノムを全体として調べることで、生命の謎に迫るという戦略だ。これがヒトゲノム計画につながっていく。「遅すぎた」といわれたブレナーのノーベル賞受賞と同様、その一代記の出版も遅きに失した感がなくはない。そんな読者の期待に応えるように、平明な筆致と豊富なエピソードで飽きさせない。長野敬、野村尚子訳。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

アール・デコ ザ・ホテル―稲葉なおと写真集
アール・デコ ザ・ホテル―稲葉なおと写真集稲葉 なおと

求龍堂 2006-04
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1900年代前半に造られたアール・デコ様式のホテルを世界各地で撮影した。ドアの装飾が美しいロンドン・クラリッジス、天井に魚の浮き彫りを施した上海・和平飯店、ネオンの曲線が印象的なマイアミ・ビーチのホテル群。眺めていると、いい男たちや女たちがさざめいた古き良き時代の幻が浮かんでくる。夢を見せる作品集だ。写真はカリフォルニア・ロングビーチの「ホテル・クイーン・メアリー」。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

金馬のいななき―噺家生活六十五年
金馬のいななき―噺家生活六十五年三遊亭 金馬

朝日新聞社 2006-03
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高座歴六十五年、喜寿を迎えた落語家の泣き笑い半生記。一世を風靡(ふうび)したNHK「お笑い三人組」などテレビ草創期の裏話は貴重な資料だ。人気者となったがゆえに周囲からいびられ、芸人を辞めようとした著者に師匠・三代目金馬は明治の芸人の話になぞって、「芸人はどんなことでも売り出さなきゃいけない。何でもやれ」と励ましたという。この精神こそ、著者の後輩たちへのはなむけだろう。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

身体知-身体が教えてくれること
身体知-身体が教えてくれること内田 樹 三砂 ちづる

バジリコ 2006-04-06
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女は出産、男は武道を通じて「身体知」に目覚めることを解き明かしていく対談集。「身体知」とは、人の気配や場の空気などを、体が感じ取る能力のこと。身体知を見直す重要性を論じることを起点に、結婚論、子育て論、教育論、家庭論、女性論などの話題に展開する。身体知の感度が高すぎて、自分では車の運転ができないラグビーチームの監督の話、ブラジルでは父親と思春期の娘の関係が良好であることなど、興味深いエピソードが全体を彩っている。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

素朴だけでない田舎暮らしの馴染み方
素朴だけでない田舎暮らしの馴染み方扇田 孝之

現代書館 2006-03
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東京から長野に移り住み、山荘を経営して三十年になる著者が、「田舎暮らし」の現実を紹介している。自らの経験を踏まえて、冬のスキーヤー、夏の避暑客を相手とした「簡易旅館」の収入だけでは生活は難しいと指摘。移住希望者には、都会で築いた人脈・キャリアを生かして複数の仕事を持つことを勧める。白馬村の国際映画祭でプロデューサーを務めた際の舞台裏も書かれており、地方の文化を考える上でも参考になる。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

経済のグローバル化とは何か
経済のグローバル化とは何かジャック アダ Jacques Adda 清水 耕一

ナカニシヤ出版 2006-03
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フランスの経済学者が著した良質で新しさを感じさせる国際経済学の教科書だ。世界の通商史と経済学説を重ね合わせて簡潔におさらいをした後、現代の市場と国家と多国籍企業の関係などを解説。さらに一九九〇年代以降の中国の台頭や金融市場一体化の衝撃を踏まえて、今日の南北関係の変化にまで筆を進めている。世界システムや覇権という問題意識からグローバル化を問い直す視点も含め、テキストとしての水準は高い。清水耕一、坂口明義訳。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

これだけは知っておきたい内部統制の考え方と実務
これだけは知っておきたい内部統制の考え方と実務八田 進二

日本経済新聞社 2006-03
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内部統制とは企業が法令を守り、効率よく業務を進めるための管理体制のこと。今国会に提出された金融商品取引法案は上場企業に内部統制報告書の提出を求め、公認会計士や監査法人による監査を義務づけている。著者は企業会計審議会・内部統制部会の部会長を務め、法案のたたき台づくりにかかわった。内部統制の視点からライブドアの問題点を分析するなど分かりやすく解説しており、入門書として役立つ。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

作曲家・武満徹との日々を語る
作曲家・武満徹との日々を語る武満 浅香

小学館 2006-02
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「作品のせいか神秘的な、変わった人というイメージを持たれているけれど、家では本当にごく普通で、平凡な家族でした」。今年は作曲家、武満徹の没後十年。節目の年に、夫人が思い出を語った。

編集者からの質問に答える形で構成される本書からは、「しゃべることと食べることでつながっていた」という武満家の日常が浮かび上がる。武満は基本的に家族と三食を共にし、夕方になると仕事を終えた。夜は阪神タイガースの応援や、家族とのおしゃべり。作曲中もたいていは上機嫌だった。「作曲はハッピーな気持ちでないとできないと言っていた。つまらないことでケンカをしても、仕事に差し障るからとすぐにゴメン、と謝るほど」

ご近所同士として知り合い、結核を患った武満を「引き取るしかなかった」という結婚のなれそめ。正式な音楽教育も受けずに作曲家を目指す武満に、あまり干渉しなかった母のことなど、武満の私生活に多方面から光が当たる。

映画、美術、文学、演劇など武満の幅広い交遊と関心は有名だが、サザンオールスターズの桑田佳祐を評価していたことなど、従来の説に加わる事実も。「他にも(作曲家の)林光さんを尊敬していたし、松村禎三さんを親友と呼んだこともある。武満の生涯で大切な方は本に登場する以外にも数多くいて、出会いに恵まれた幸運な人だった」

そんな武満を、主に健康面で支えた。病弱だった武満の生活を正したことで「武満がつまらなくなった」と友人にぼやかれたこともあるが、「そうしないと、たくさんの作品を残せなかったかもしれない。そう思わないとしゃくでしょう」とほほ笑む。

没後、武満作品はますます世界各地で演奏されるようになった。「武満の作品が今後、残るのか。今は試されている時期だと思う」(小学館・二、六〇〇円) (たけみつ・あさか)29年東京生まれ。恵泉女学園卒。芸術協会などで演劇を学び54年に武満徹と結婚。一人娘の眞樹をもうける。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

即戦力の磨き方
即戦力の磨き方大前 研一

PHP研究所 2006-04
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突破力! 仕事の「壁」は、こうして破れ
突破力! 仕事の「壁」は、こうして破れ堀 紘一

PHP研究所 2006-04-19
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使う力
使う力御立 尚資

PHP研究所 2006-04
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愚直に実行せよ! 人と組織を動かすリーダー論
愚直に実行せよ! 人と組織を動かすリーダー論中谷 巌

PHP研究所 2006-04-19
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経済学や金融、経営などビジネスにかかわる情報や知識を解説する「PHPビジネス新書」がPHP研究所から創刊された。第一弾は大前研一著『即戦力の磨き方』、堀紘一著『突破力!』、御立尚資著『使う力』、中谷巌著『愚直に実行せよ!』の四冊。いずれも八百円。ビジネスの現場で直面する問題への対処の仕方や、組織のなかで個人の能力を伸ばす方法などを説く。毎月二点ずつ刊行する。

■2006/04/23, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

この国のはじまりについて―司馬遼太郎対話選集〈1〉
この国のはじまりについて―司馬遼太郎対話選集〈1〉司馬 遼太郎

文藝春秋 2006-04
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この国のはじまりについて』司馬遼太郎著 湯川秀樹、永井路子、網野善彦ら六人の学者や作家と著者との対談集。顔の形や血液型から日本人の原型を探ったり、鎌倉武士の「一所懸命」の言葉のルーツを探求するなど話題は多彩。「司馬遼太郎対話選集」全十巻の第一巻。第二巻『日本語の本質』も同時刊行。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

家の鍵 明日、生まれ変わる
家の鍵 明日、生まれ変わるジュゼッペ・ポンティッジャ 今村 明美

集英社 2006-03-17
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障害を抱える息子を持ったイタリア人作家による半自伝的小説。誕生時の酸素欠乏から障害を負った息子の成長を父親の視線でつづったもので、リハビリの苦労、家族の葛藤、周囲の同情と偏見がリアルに描かれている。懸命に生きる息子の姿に胸を打たれる。今村明美訳。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

神さまと神社―日本人なら知っておきたい八百万の世界
神さまと神社―日本人なら知っておきたい八百万の世界井上 宏生

祥伝社 2006-02
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正月のしめ飾り、七五三に地鎮祭、祭のみこし、お札など、生活に今なおかかわりがありながら、意外と知られていない日本の神々の世界。自然崇拝から始まった日本のやおよろずの神について、その来歴から現代の神社の懐事情までを解説する。教義や戒律もなく、その寛容さゆえに渡来神や仏教などとも共存してきたと著者は指摘する。暮らしにさりげなく浸透している神々の存在から日本人の精神構造が垣間見える。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 21ページ

聖書の日本語―翻訳の歴史
聖書の日本語―翻訳の歴史鈴木 範久

岩波書店 2006-02
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「福音」「悪魔」「天国」……。何気なく使う言葉の中に、キリスト教の聖書を翻訳する過程で生まれた日本語は案外多い。本書は十六世紀に始まる聖書日本語訳の歴史をたどり、聖書の用語が日本文化に影響を与えてきた過程を明らかにする。

著者は「安息日」「聖霊」「洗礼」など重要な教会用語三十語をキーワードに設定し、日本語聖書に登場した時期を探る。うち二十二語が明治中期に翻訳が終わった「明治元訳」で既に登場。文語体聖書の代表格「大正改訳」(一九一七年)では二十七語に増えた。こうした単語は戦後の辞典『広辞苑』(一九五五年、岩波書店)でほぼ九割収録され、同時期に日本語として定着したと結論づける。

興味深いのは、明治以降の日本語訳聖書が、先行して翻訳が進んでいた中国語版に大きな影響を受けていることを指摘した点だ。「明治元訳」に現れるキーワードのうち、「約四分の三は中国語訳聖書の表現を踏襲している」という。「神」や「愛」などもともと日本語にあった単語も、中国語やキリスト教における概念の影響を受けて日本語本来の意味が変化した。

「日本のキリスト教の受容は、聖書語に関する限り、儒教や仏教の経典と同じく、中国経由なのである」。近代以降、日本の思想・宗教は西洋だけでなく、中国からも引き続き一定の影響を受けて発展してきたことを本書は示してくれる。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず
若者が働くとき―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず熊沢 誠

ミネルヴァ書房 2006-02
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副題に「使い捨てられ」も「燃えつき」もせずとある。長く労働研究の前線で活躍してきた著者がとらえた、現代の若者の実像がこれに象徴されている。「この分野でそれほどの研究実績をもたない私があえて一書を加えたい」と思った動機もここにある。若者の問題を、世代論や家庭環境、教育といった次元でのみ語っていては解決しないという危機感だ。

昨今の若者を語る時に出てくるのがニートやフリーターといった言葉。こうした若者を正社員にすれば問題は解決するかのように言われることが多いが、背景には過酷な職場の現状がある。正社員で働く若者の多くは、将来への展望も示されず長時間労働を強いられる。これに嫌気してあえて使い捨て労働に身を転じる若者も多い。日本の職場環境を放置してフリーター問題ばかり論じても問題は解決しないと、警鐘を鳴らす。

景気の回復とともに若者の雇用環境は改善している。しかし、長期的な育成の観点もないままに長時間労働に駆り立てる職場の現状は果たして変わっているだろうか。本書はデータや先行研究、時には自らが教鞭(きょうべん)をとる大学の学生や卒業生の実態を分析しながら多角的に働く若者をめぐる状況を考察。多くの若者が望んでいるのは「定着できる職場」「続けていける仕事」だと主張する。労働研究の専門家の立場から、行政や企業経営者、労働組合に早急な対応を求めている。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

インフレ目標と金融政策
インフレ目標と金融政策伊藤 隆敏 林 伴子

東洋経済新報社 2006-03
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日本銀行が三月に量的緩和策を解除し、今年は久しぶりに金融政策転換の年となる。日銀は解除にあたり〇―二%程度の物価上昇率を「物価が安定している状態」とみなし、それを念頭に置いて政策運営する方針を公表した。

この方式を一歩進め、物価上昇率の目標を掲げ金融政策を決めるのがインフレ目標。本書はその有効性に関する理論的根拠や、実施済みの国の実態などを踏まえ日本でも導入するよう提言している。

金融政策論をめぐり戦後、ケインジアンとマネタリストの対立が続いたが、合理的期待仮説の登場などを経て大きく変容。物価上昇率という最終目標を掲げて金融政策を運営するのが適切という考え方が強調されるようになり議論は収束したと指摘する。人々の期待に働きかけ物価や金利を安定させるアイデアだ。

経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち十五カ国がこの制度を実施済み。実施していない主要国は米国、欧州中央銀行(ECB)と日本だが、米国はバーナンキ連邦準備理事会議長がかねて導入を主張している。

日本でも中期的なインフレ目標を宣言することは「益こそあれ、害はない」と主張する。デフレ脱却に有効というのがこれまでの著者らの主張で、日銀は懐疑的だった。しかし原油高などで中長期的にはインフレ抑制が課題になる可能性もある。そのときインフレ目標論議は大きく盛り上がるかもしれない。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

small planet
small planet本城 直季

リトルモア 2006-04-08
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自分の目が信じられなくなる不思議な写真集だ。一見、いやじっくり眺めてもよくできたミニチュア模型の写真にしか見えない。ところが、それは錯覚。本当は現実の町並みや公園をミニチュアのように撮った写真集なのだ。青々とした木々も東京タワーもポーズを取る人間も、プラスチック細工のようにチープでうそっぽく映るのはなぜか。知的な問いを含む視覚のトリックに、快くだまされてみよう。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 22ページ

市場には心がない―成長なくて改革をこそ
市場には心がない―成長なくて改革をこそ都留 重人

岩波書店 2006-02
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九十三歳で亡くなった戦後経済学の泰斗による遺著。市場原理、自由競争を尊重しつつも、その弊害にどう対応すべきかを問いかけている。例えば小泉構造改革では、衰退産業である郵便事業が民営化になじむのかと疑問を呈する。テーマは少子高齢化から東アジアでの日本の役割などにも及ぶ。成長至上主義に疑問を投げかけ続けてきた著者らしい問題意識に貫かれている。「成長なくて改革をこそ」が最後のメッセージとなった。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

女という経験
女という経験津島 佑子

平凡社 2006-01-18
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なぜ、人間は男と女を対立する概念として考えるようになったのか。著者はその起源を「神話」の世界に探ろうとする。明治中期、大本教の開祖である出口ナオが体験した「神懸かり」の世界、中世フランスの聖女ジャンヌ・ダルクにギリシャ神話の女神アテネ。古今東西さまざまな物語の読み直しの果てに著者が行き着いたのは、「性」という決着しようのない問題に取り組むことで、人間は多様な文化を紡ぎ出してきたという実感だ。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

妖怪文化入門
妖怪文化入門小松 和彦

せりか書房 2006-03
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近年、妖怪文化に対する関心は高まる一方だ。国際日本文化研究センター教授である著者は、日本の妖怪研究をけん引。妖怪文化の魅力を広める仕事にも尽力してきた。本書では、民俗学者で妖怪研究の先駆者である宮田登氏のほか、宮崎駿氏のアニメや水木しげる氏の漫画、京極夏彦氏の小説を取り上げ、妖怪にひかれる現代人の心性に迫る。「河童(かっぱ)」や「鬼」「天狗(てんぐ)」といった研究の足跡も紹介。妖怪文化の奥深さも伝える。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀
統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀デイヴィッド サルツブルグ David S. Salsburg 竹内 惠行

日本経済新聞社 2006-03
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国勢データや工場での生産計画、疫学調査、選挙結果予測など、社会の隅々に行き渡る統計学。現代統計学はダーウィンの進化論に基礎を置くピアソン、遺伝学説の流れをくむフィッシャーの両英国人によって十九世紀末から二十世紀初めに確立され、今日まで理論的発展を遂げている。著者のいう「統計革命」を担った異能者たちの仕事をエピソードとともにつづり、統計学史として興味深く読める。竹内恵行、熊谷悦生訳。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

「企業の社会的責任論」の形成と展開
「企業の社会的責任論」の形成と展開松野 弘 合力 知工 堀越 芳昭

ミネルヴァ書房 2006-03
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企業の社会的責任(CSR)に関する本はかなり世に出ているが、本書はブーム的な本とは一線を画した本格的な経営書である。企業人がCSRの持続可能性を測る上で必要な情報を網羅しているのが最大の特徴だ。CSRに関する理論と実践を、中世以来の経済、経営の展開を踏まえた十人の識者が多角的な視点でとらえている。「企業と社会」論、歴史を踏まえた日米での展開など、興味の深いテーマを、正面から取り上げている点に好感が持てる。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

終末のフール
終末のフール伊坂 幸太郎

集英社 2006-03
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軽妙な筆致で少し不思議な物語世界を紡ぎ出す作家の新作は、地球全体の滅亡を三年後に控えた仙台市の団地が舞台だ。「小康状態にある人々を描きたかった」と語るように、五年後に小惑星が衝突すると発表され、人々がパニックに陥った時から二年後の世界を描いている。

「死ぬことが分かっているのに、きょうを生きていかなければならない。残された時間に長い短いはあっても、今の僕らの人生もまさにそういうものではないでしょうか」

八編を収めた連作短編集であり、いずれも夫婦、親子、友人などの関係が軸となり、その日常がつづられている。表題作は、息子が自殺した夫婦のもとに家を出ていた娘が戻ることで、家族のきずなを取り戻していく。「深海のポール」には、暴漢に襲われた警官が息子に対して「頑張って、とにかく、生きろ」と言い残して死んでいく話が盛り込まれている。

「『なぜ自殺してはいけないのか』という問いに、『親が悲しむから』などのまっとうな意見をぶつけても説得力はない。世界の終わりが迫っているなら、なおさらそうだと思う。理屈なんてどうでもよいから、(沈もうとしている人間を)水面上に引き上げることが大事なんじゃないかと考えた」

もっとも、作品において何かを訴えかけているわけではない。描かれているのはあくまで人間ドラマ。「ぼくの小説が触媒となり、読者の心の中に何かが生じればうれしい。読み終えた後に『じゃあ、あしたも頑張って会社に行くか』とでも思ってくれればいい」と期待する。

昨秋には子供が生まれ、父親となった。「生きることの大変さを、改めて感じるようになった」。その笑顔は、大変だからこそ面白いと語っているようにも見えた。

■2006/04/16, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

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