メイン > 日経新聞日曜版『読書』 > 2006年2月12日

詩人たちの絵
詩人たちの絵窪島 誠一郎

平凡社 2006-02-09
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立原道造、宮沢賢治、村山槐多ら、詩人であり画家でもあった五人を論じた評論集。彼らの絵には「ナゾめいた初々しさ」があるという。立原の詩そのままに柔らかいパステル画、賢治の幻想的な水彩画など、言葉と絵画の二つにほとばしり出た「詩心」を読むことで、作品世界の解釈を試みている。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

冬の標
冬の標乙川 優三郎

文藝春秋 2005-12
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時は幕末。小藩の重役の娘である主人公の明世は少女時代、南画の世界に魅せられるが、親が決めた男と結婚させられ、自由に筆を持てなくなる。しかし、「仕来(しきた)り」に縛られた生活の中でも彼女は絵に対する情熱を失わなかった。夫の早世や義母との確執など波乱の二十年を経て、しがらみを断って画家として生きることを決意する。凛(りん)とした女性を描くのが得意な著者の持ち味が存分に発揮された長編時代小説。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

鉄道の文学紀行
鉄道の文学紀行佐藤 喜一

中央公論新社 2006-01
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『鉄道の文学紀行』佐藤喜一著 鉄道と文学をこよなく愛する元高校教師が全国十二の駅を訪ね、著名な文学作品の登場人物や文人の足跡を歩く。「金色夜叉」の貫一とお宮はどうやって熱海まで行ったのか。危篤の母に会いに故郷へ急ぐ心情を歌に詠んだ斎藤茂吉はどの汽車に乗ったのか。古い時刻表を駆使した懐かしい旅が楽しめる。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 23ページ

日本美術の歴史
日本美術の歴史辻 惟雄

東京大学出版会 2005-12
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縄文時代から現代まで日本美術全般の流れをたどる概説書。と言えば、通り一遍の内容と誤解されそうだが、聖と俗、民族性と国際性といった様々な要素が溶け合って展開した絵画の項目を選んで通読するだけでも、日本美術の豊かさが味わえる。その絵画のみならず、彫刻や考古遺品、工芸、建築、庭園、書、写真、デザインまで合わせて論じたのが本書である。

叙述は、縄文土器から現代のマンガやアニメに至るまで満遍なく及んでおり、日本美術の総体的なイメージが一冊の本によってつかめるのがありがたい。一方、「美術」という概念そのものの来歴といった新しい知見への目配りも周到になされている。

それぞれの項目の記述がごく短いのはこの種の本の宿命だが、作品や作家、あるいはそれぞれの時代の表現に対する簡潔な批評が共感を呼ぶ。「かざり」「あそび」「アニミズム」といった言葉が随所に挿入されているのも本書の特色だ。装飾性や遊戯性など日本美術の特質を言い当てたキーワードで、著者自身が熟考を重ねた上での理解が、当たり前の概説書にはない魅力を生み出している。

「教科書風と自己流との混ぜご飯のような記述」とは、著者自らが本書に下した評価だが、どんな本であれ「自己流」に彩られてこそ面白くなる。目になじんでいるはずの有名作品の写真が新鮮に見えてくるのも叙述が生きているからだろう。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらす
株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらすジェレミー・シーゲル

日経BP社 2005-11-23
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インターネット上で回転売買する個人投資家の買いを背景に株式相場は急上昇してきた。ライブドア事件も「一過性の出来事」として片づけられてしまったようだ。

本書は、そんな個人投資家の行動とは対極の立場にある。一日に数回売買する「デイトレーダー」は最初から負け組であり、数十年に一回しか売買しないような長期投資家こそ株式投資の果実を手にすると指摘している。

著者は、米国の有力ビジネススクールとして知られるウォートン校の看板教授。前作『シーゲル博士の株式長期投資のすすめ』では過去二百年に遡(さかのぼ)って株式市場を調べ上げ、「長期投資なら株式は国債などよりもずっと安全で、ずっと大きな利益をもたらす」と結論付け一躍有名になった。本書では、最近の情報技術(IT)バブルから大恐慌時代まで振り返り、株式の魅力に迫っている。

例えば、一九二九年の米国株大暴落。株価が当時の水準を回復したのは二十五年後だった。著者によれば、短期投資家は大損したが長期投資家は大もうけした。大暴落直前に千ドル投資した投資家は、保有株を売らずに配当を再投資し続けたとすれば、五四年には四千四百四十ドルを手にしている計算という。これは長期国債のほぼ二倍、短期国債のほぼ四倍のリターンだ。

デイトレーダー向けの投資本が多い昨今だけに、本書の価値は高いといえる。瑞穂のりこ訳。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

オーラルヒストリー 日米外交
大河原 良雄 (著)

駐米大使を務めた著者が外交官人生を語る。政策研究大学院スタッフが綿密に下調べをした上で十五回のインタビューをした結果であり、秘話を含めた内容の濃い外交史に仕上がった。一九五〇年代から八〇年代半ばまでの日米関係部分は特に貴重である。

東大生だった著者は日米開戦の報を本郷の下宿で聞く。繰り上げ卒業し、いったん外務省に入り、海軍主計中尉でラバウルへ。敗戦後は連絡将校としてBC級戦犯の戦争裁判を見る。外務省に復帰し、五〇年代までの話は敗戦国の外交当局や外交官の仕事ぶりを伝えて興味深い。

核心は三回のワシントン勤務とアメリカ局参事官、局長としてかかわった日米関係の部分であり、小笠原と沖縄の返還、ニクソンショック、防衛協力、経済摩擦を含む。さりげない話にも当事者しかできない証言の重みがある。

例えば米海兵隊は小笠原返還に伴って聖地である硫黄島が返されるのに反対だった。それを抑えるために摺鉢山(すりばちやま)に日米国旗を立てようと内々に合意したが、三木武夫外相が反対する。困っていると台風で現場が荒らされ、旗ではなく記念碑に落ち着いた。

沖縄返還交渉で佐藤栄作首相が使った密使・若泉敬氏については「まったく知らなかった」が「『忍者』という言葉を耳にしたことはある。密使というんじゃなくて」と語る。交渉前線の雰囲気がわかる。記憶をたどる著者の真剣さが伝わる本だ。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

虹とクロエの物語
虹とクロエの物語星野 智幸

河出書房新社 2006-01-06
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小説は時代を映し出す鏡であるとよくいわれる。とすれば現代小説は奇妙に難解であったり、迷路のようであったりするが、それは小説というジャンルの変容であるよりも、むしろこの現代という時代が呈するものが、そうであるからだ。

一九六五年生まれの著者は、四十歳を迎え行きづまりを感じはじめたふたりの女性をここで設定する。虹子と黒衣(クロエ)というかつての親友は、「親」となり「妻」となり、その人生の役割に生きることに倦怠(けんたい)と違和感をつのらせ、日常生活のなかの「紋切り型の私」からの脱出を試みる。二十年という歳月をこえて、自分たちだけの世界でサッカーボールを蹴(け)り合っていたあの時に、どうすれば戻ることができるのか。

青春へのノスタルジーは、しかしこの作品のテーマではない。黒衣は自分のお腹に生まれることなく成長し続ける二十歳の胎児を感じ、それは無人島に二十年以上も隠れ住んでいたユウジという男の存在と交錯する。四十歳の中年女性は、自分の内なる決して「大人」になることのない胎児を幻視することによって、もう一度生きることの原点をさぐろうとする。

ここに描かれているのは、情報化社会という文明の保育器のなかで育ってきた世代の、生の実感を求めての彷徨(ほうこう)の旅である。旧来の社会システムが壊れ、家族の規範があやふやになり、年齢とともに人生の価値を決めていくことが困難となっている、そんな現代人の光景が、この作品世界の底にあるといってもいいだろう。

小学生が携帯電話を持ち歩き、株の取引をする。四十をこえた男が家に引きこもってパソコンのゲームや映像のなかに疑似現実を求める。そこで進行しているのは、世代、ジェネレーションという概念の崩壊なのである。

著者はそんな状況のなかに立ち、ただ崩れと漂泊を描くのではなく、あらためて人間の再生の物語をつくろうとした。それは時代と向き合う小説の可能性と希望に重ね合わされているのだ。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

卓上のバルコネグロ
卓上のバルコネグロ森村 泰昌

青幻舎 2006-01
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著者は名画の中の人物や映画女優に扮装(ふんそう)するセルフポートレートで知られる美術家。本書はそのセルフポートレート以前の、初期の写真作品を収める。多くは未発表だ。暗闇の中にそびえるサイコロの塔、花嫁のようにベールをまとった観葉植物。詩的なオブジェはやはりどこか「自画像」を思わせる。バルコネグロとはポルトガル語で「暗い艀(はしけ)」の意味。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 24ページ

戦後日韓関係の展開
戦後日韓関係の展開小此木 政夫 張 達重

慶應義塾大学出版会 2005-12
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一九六五年の関係正常化から四十年余り。日韓両国は紆余(うよ)曲折を経ながらも交流を拡大してきたが、歴史認識や領土問題、北朝鮮政策などをめぐる最近のぎくしゃくぶりは、両国関係が成熟しつつも、なお多くの課題を抱えていることを示している。本書は日韓共同研究の形を取り、両国の学者が政治、外交・安保、経済などの側面から日韓関係を論考した。多様な見解に触れることは相互理解を深める上での助けとなる。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

レバノンの歴史―フェニキア人の時代からハリーリ暗殺まで
レバノンの歴史―フェニキア人の時代からハリーリ暗殺まで堀口 松城

明石書店 2005-12
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歴史家アーノルド・トインビーが「宗教の博物館」と呼んだように、レバノンはキリスト教やイスラム教の多様な宗派が入り交じるモザイク国家だ。本書は、各派が時にいがみ合い、時に共生の仕組みを作りだす波乱のレバノン史を解説。概説書では軽く触れるだけの、近現代のフランス支配を経て独立に至る流れを詳しく描いている。ハリリ首相暗殺、シリア軍撤退など近年の重要な出来事までたんねんに網羅した点も評価できる。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

ローリング・ストーンズ―ある伝記
ローリング・ストーンズ―ある伝記フランソワ ボン Francois Bon 國分 俊宏

現代思潮新社 2006-01
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少年時代からストーンズをファンとして追いかけてきたフランスの硬派作家が、資料集めに二十年、執筆に十年を費やした大作。メンバーや周辺の人々の発言をきめ細かく拾い上げ、ストーンズが世界に何をもたらしたか、英語文化が主導権を握る現代社会がどう作られたか、など脱神話化の視点で切り込む。これほど大部な伝記は英語圏にもない。二段組みで七百五十ページを超す。国分俊宏ほか訳。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

潜る人―ジャック・マイヨールと大崎映晋
潜る人―ジャック・マイヨールと大崎映晋佐藤 嘉尚

文藝春秋 2006-01
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素潜りで初めて水深百メートルを突破した仏の潜水家、ジャック・マイヨールと、彼の記録を陰に陽に支えた日本人水中カメラマン、大崎映晋の交遊を追ったノンフィクション。一九六九年のイタリア・ボルケーノ島で出会った二人のダイバーは、水中で交信するイルカのように心を通わせ、潜水の世界記録に挑んでいく。日本で海女の映画を撮ろうとした作家パール・バックなど、大崎から広がる世界の「水中文化」のエピソードも興味深い。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

民主化するイノベーションの時代
民主化するイノベーションの時代エリック・フォン・ヒッペル サイコム・インターナショナル

ファーストプレス 2005-12-09
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製品開発の担い手がメーカーから、その分野を熟知したユーザーに移り始めている様子を著者は「イノベーション(革新)の民主化」と呼ぶ。半導体は使い手の企業の技術者による設計が増えるなど、ユーザー主導の製品作りがうねりになりつつあるという。本書は「民主化」の事例を多数挙げ、メーカーは開発体制の見直しを迫られていると説く。消費者と一体となった商品企画で成果をあげている米スリーエム(3M)などの例が参考になる。サイコム・インターナショナル監訳。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

アマゾン源流生活
アマゾン源流生活高野 潤

平凡社 2006-01-12
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日本人は、何事につけても物事をきちんとしなければ気がすまないという傾向がある。それは文学などのように、情緒的感覚的な世界にもおよんでいて、個々の作品、あるいは書き手によって、○○文学××小説などと、ジャンルわけすることが多い。

しかし最近、そうした分類法では始末がつかない作品が多くなっている。さしづめこの『アマゾン源流生活』も、そうした新傾向の作品のひとつだろう。などと言えば、かくいう評者自身が、勝手にあるジャンルに押し込めようとしている証左なのかも知れない。

『アマゾン源流生活』は、読者の読み方、あるいは必要に応じて、いかようにでも読める作品だ。本書には、地球上に残された最後の秘境の一つ、アマゾン川の源流、支流を長いこと旅した筆者の、知識と経験、蘊蓄(うんちく)がびっしりと詰め込まれているからだ。

毒蛇や突然の暴風。白い闇と表現される激しい雨。危険きわまりない落雷。ほかでは絶対に食べることの出来ない現地料理など。緑の魔境と呼ばれるアマゾン川流域の風土と、そこに生活する人々の生き方が、筆者自身の体験を通じて克明に紹介されている。

筆者はプロカメラマンだけに、そこかしこに挿入されている写真も目を楽しませてくれる。本の価格にも影響するだろうが、一読者としては、おもな写真はカラー印刷にして欲しかったくらいだ。

ゆえに本書は、クラシックな意味では体験的紀行ノンフィクションとも読める。また現地を旅してみたいと思っている人には、盛り沢山(だくさん)の情報が入っているガイドブック的な読み方も出来るだろう。

評者の場合は、本書をアマゾンを舞台とするロングエッセイと見なして読み、楽しむことが出来た。あえて一言申し上げるとすれば、構成と文章に気くばりがほしい。内容が時系列に縛られず、自由に行きつ戻りつしているのは、紀行ノンフィクションとして読むにはやや違和感があるような気がする。だがそれは、全体として瑣末(さまつ)な問題であって、そういうことにとらわれることなく、アマゾンの雰囲気を楽しむのが、本書の正しい読み方だろう。

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

昭和能楽黄金期―山崎有一郎が語る名人たち
昭和能楽黄金期―山崎有一郎が語る名人たち山崎 有一郎

檜書店 2006-01-23
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大正から昭和にかけて、能の研究家、能舞台の建築家として知られた山崎楽堂の長男として生まれ、幼いころから能楽に親しんできた。著書では、その九十年に及ぶ観能歴を通して、昭和初期の能楽全盛期の名人や名舞台が語られている。それは著者の熱い青春の思い出でもある。

「昭和六、七年から十二年あたりまでは能楽界の黄金時代。初世万三郎、その弟の六郎、二十四世宗家左近など観世にも宝生・喜多にもいい役者がダンゴになって出ている。私が大学に入ったのが八年だから、ほとんど見ている」

学生時代に立ち上げたのが「能楽研究学生連盟」(昭和十年ごろ)。早稲田、慶応を中心に二十校ほどの大学が集まって毎月研究会を催した。「子供のころから見てるし、けいこにも通った私にとって、日本人が能を知らないなんて『そんなバカな!?』ですよ。とにかく知ってもらおうと周りの学生に的を絞ったわけ」

その運動のもとになったのは、「学生鑑賞能」を始めた喜多実に共鳴したことだった。「家元になる御曹司が駅頭に立ってビラまきするなんて、長い歴史の中であり得ないことだった。そんな熱情に我々はほれ込んだ。『これからの能のターゲットは学生だ』という実先生の考えは今にも通じる」

それから幾星霜。横浜能楽堂館長として観客の育成に注力している。「能舞台は能楽師だけで成り立つものではない。それを見る観客がいなくてはならない。それも、想像力豊かな、能を楽しむ観客でなくては」「開場して十年。やっと横浜市民に浸透してきたかなぁ。科学万能の時代だからこそ、正反対の能は人間の憩いの場になる」

月に五、六カ所の「能楽堂へのぶらぶら歩き」を続けている。「だって能は、奥さんとはまた別の、私の伴侶だから」

■2006/02/12, 日本経済新聞 朝刊, 25ページ

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