日経産業新聞連載の『私の本棚』を紹介します。

メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 2008年4月4日~4月18日

忙しいパパのための子育てハッピーアドバイス
忙しいパパのための子育てハッピーアドバイス明橋 大二 太田 知子

1万年堂出版 2007-11
売り上げランキング : 1978

おすすめ平均 star
star読みやすく、最後は感動。
starママのためのパパ指南本
star子育てに限らず、父親として生活する上でのアドバイス

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◎弁護士 渥美雅子氏

とにかく、楽しい本である。百八十ページのうち、漫画が四分の三程度を占めており、通勤電車で家と会社を往復するうちに十分に読み切れるはずだ。著者は医者で、スクール・カウンセラーも務める。著名なイラストレーターである太田知子さんとコンビで出している子育てハッピーアドバイスシリーズの第四弾で、漫画もリアリティーがあっておもしろい。

この本には仕事で超多忙なお父さんが子供や、子育てに悩む妻に接するための生活上のノウハウが満載だ。例えば「お父さんがジョークを言うと、家の中にゆとりができる」などのアドバイスはすぐに使えそうだ。

著者の最後のメッセージは「お父さん、生きていてほしい!」である。父親を自殺で失ってしまった娘が著者の診療所を訪ねてくる。中小企業のリストラ騒動の責任を取った形で自殺した父親を何とか理解しようと努力する娘の姿がいじらしい。重い問題も著者の軽妙な文章と漫画で読むと、すんなりと心に落ちてくる。

最近は企業においても時短促進や「父親にも育児休暇を」というような取り組みが盛んになってきた。また積極的にワークライフバランス(仕事と生活の調和)を進めている企業の方が収益率が高いという事実も次第に明らかにされてきた。良きパパなればこそ、良き企業人になり得ると堂々と言える時代になったわけだ。

■2008/04/18, 日経産業新聞, 26ページ

あぁ、阪神タイガース―負ける理由、勝つ理由 (角川oneテーマ21 A 77)
あぁ、阪神タイガース―負ける理由、勝つ理由 (角川oneテーマ21 A 77)野村 克也

角川書店 2008-02
売り上げランキング : 2624

おすすめ平均 star
star他の組織にも当てはまる
starもう阪神を語るな
starこの手の本はくどいがノムさんの語り口は別

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◎みずほコーポレート銀行アナリスト 棚瀬桜子氏

失敗しないことの強さ

経営者や上司の理想像にたとえられることの多いプロ野球監督。著者もその一人だ。Bクラスだったヤクルトを優勝に導いた実績から、その方法論や成功の秘訣を探りたくなる。

著者は「指揮官は敗因を分析する責務がある」と指摘、試合に敗れた後にその理由を追及してきた自身の経験を語る。対象はチームの内部資質や外部環境、確率のスポーツとしての野球におけるデータ、個々の人材や組織を動かす推進力、指揮官としての失敗の有無と幅広い。

「勝つためにどうすべきか」は「負けないために、やってはならないことは何か」でもある。おそらく経営でも同じだろう。成功者としてたたえられるべき経営者とは、賭け事のような判断で偶然に成功した人ではなく、目前の危機を回避し、将来直面するかもしれない不安要素を排除できた人のことではないかと思えてくる。

ある案件が成功する確率よりも、失敗を排除できる確率のほうが高い。つまり、失敗しないことは成功することと同じぐらいの価値がある。

著者は、弱小チームを勝てるチームに変えるノウハウや選手育成法を会得したという自負があるようだ。その方法論が「敗因分析」である点は興味深く、説得力がある。経営でも「緻密(ちみつ)な将来シミュレーションよりもまずは過去の失敗の分析を」ということなのかもしれない。

■2008/04/04, 日経産業新聞, 20ページ

メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 2008年1月25日~3月21日

頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために
頭にちょっと風穴を―洗練された日本人になるために廣淵 升彦

新潮社 2008-01
売り上げランキング : 28015


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◎関西大教授 白石真澄氏

「海外の常識」学んで知的武装

「チョコレートは性的誘惑を意味するお菓子」。本の帯の一文に気付いたのは、ちょうど今年のバレンタインデーの時期だった。

チョコレートを食べ過ぎると鼻血が出やすいとのうわさ話は耳にした経験があるが、その一文はいままで聞いたことがない表現だった。気になって書店で立ち読みを始め、著者の知的オーラに引き付けられてそのまま購入した。

日本の常識は世界の非常識と言われることが多い。今回のチョコレートの例にしても、私たちの習慣は欧米の常識とは異なる場合があるようだ。

著者は日本のテレビ会社でニューヨークとロンドンの支局長を務めた国際ジャーナリストだ。海外取材など国際経験が豊富な著者の目には、日本人の多くは知的装備を欠いたままで外国を訪れ、交渉に臨んでいるように見える。

困難に満ちた世界で生き延びるには、まず各国の事情をもっと知るべきだと著者は説く。国際教養を身につけ、ユーモア感覚や心の感度を研ぎ澄ます必要もありそうだ。

本書には眠くなるような、難しい説明は見当たらない。むしろ身近な食べ物の話を通じて世界をぐっと身近に感じさせるような話が並んでおり、特に若い人たちに勧めたい一冊だ。本書を活用して世界と渡り合える人材になってほしい。

■2008/03/21, 日経産業新聞, 26ページ

その痛みは「うつ病」かもしれません―ストレス神話をくつがえす新しい考え方
その痛みは「うつ病」かもしれません―ストレス神話をくつがえす新しい考え方大塚 明彦

草思社 2007-12-05
売り上げランキング : 50520

おすすめ平均 star
starこの先生
starうつに悩む人に一度は読んで欲しい本
starうつ病かなとお悩みの方におすすめ

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◎弁護士渥美雅子氏

働き盛りのうつ 医療界にも一石

毎年三万人余りの自殺者がいる。中でも四十代、五十代の男性が四割を占め、その社会的損失は年間一兆円に上るという。その自殺の最大の原因はうつ病である。

精神科の医師として四十年余りの経験がある著者は、自ら開発した「脳ナビ」と呼ばれる診断基準によってうつ病を診断する。被験者は四十にわたる質問にイエスかノーで回答。そのうち「朝目が覚めた時に気分がすっきりしない」「朝よりも午後の方が体調が良い」など典型的な数項目の質問にイエスと答えれば、ほぼ間違いなくうつ病であるという。

著者は「うつ病は心の病気ではなく、脳の傷害であり、神経伝達物質の不足である」と指摘する。この病気を治すには「セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどの薬を上手に組み合わせ、投与していくことによって治癒する」と明言する。

この考え方には、他の精神科や心療内科の医師からは異論が出そうである。しかし、著者はそれも織り込み済みで、現在の医療界に大きな一石を投じるつもりであろう。私もふとハクスリーの「すばらしい新世界」に登場する万能薬「ソーマ」を思い出してしまった。

産業医や企業の人事管理担当者にも本書の一読をお勧めする。働き盛りの従業員がうつ病になるケースが多く、いち早く、適切に対応するうえで「脳ナビ」が役立つかもしれない。

■2008/02/29, 日経産業新聞, 34ページ

金融システムを考える
金融システムを考える大森 泰人

きんざい 2007-12-01
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◎みずほコーポレート銀行企業調査部アナリスト 棚瀬桜子氏

グローバル市場 向き合う日本描く

表紙には、大空を見つめる小型犬のチワワが載っている。本書を一読した後に表紙を改めて見直すと、著者はチワワを日本に、大空をグローバル市場になぞらえているかのようだ。

タイトルだけをみると金融業界向けの専門書のようだが、ページを一通りめくると、バブル崩壊の痛手から日本の金融業界がどのように改革し、立ち直っていったのかをわかりやすく説明していることを感じる。大企業や大手銀行の経営破綻が相次いだ一九九〇年代後半の社会現象を回顧しながら、金融と経済が個人の仕事や生活の豊かさと密接なつながりがあることを実感させてくれる。

「貯蓄から投資へ」のスローガンに沿ってお金の流れが変わる中、金融機関への監督方針や消費者保護のあり方、世界での日本市場の位置づけなど答えを出さなければならない課題は数多く残っている。

人口減少で低成長を余儀なくされる日本は、市場開放と海外進出を進めるべきなのか。逆に外資の参入を制限し、敵対的買収だけでなく三角合併をも阻止するのか。金融行政の判断によって、世界各国の対日投資戦略は大きく変わるだろう。

チワワ(日本)は小さな体の割には勝ち気で大胆な性格だという。不良債権処理問題を乗り越えた日本は大空(グローバル市場)にどう向き合うのか。多くの示唆を与えてくれる一冊である。

■2008/02/15, 日経産業新聞, 26ページ

定年後の8万時間に挑む (文春新書 613)
定年後の8万時間に挑む (文春新書 613)加藤 仁

文藝春秋 2008-01
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◎関西大教授白石真澄氏―「定年後の8万時間に挑む」

生涯現役、高齢者の生きざま描く

ノンフィクション作家である加藤仁さんの作品には、生涯現役を貫く、多くの高齢者が描かれ、読者に勇気と希望を与え続けてきた。二十五年以上にわたって取材した定年退職者は三千人以上にもなるという。

その中から本書に登場する四十人以上の定年退職者はすべて、一九四七年(昭和二十二年)から五〇年(昭和二十五年)に生まれた、いわゆる団塊世代。これまでの高齢者とは一線を画し、新たなライフスタイルの潮流を生み出す核にもなりそうだ。様々な要因が考えられるが、彼らは社会貢献や自然に対して高い関心を持っているからだ。

都会から農村や山村に移住し、有機無農薬の米作りに一生懸命取り組む人や、故郷に帰って介護福祉の仕事を始めた人、外資系企業を早期退職して学生街にネットカフェを開業した人など、本書では定年退職した後の生き生きとした姿が紹介されている。その奮闘ぶりは老後や余生といったネガティブ(否定的)な概念とはほど遠い。

まさにポジティブ(前向き)で、定年後の生き方のヒントを与えてくれる。定年後の時間は本書のタイトルにあるように、八万時間。これは二十歳から定年まで働いてきた時間に匹敵するそうだ。七百五十万人ともみられる団塊世代が「豊かな時間」の創造に挑戦すれば、健康になって、寿命も伸びるはずだ。元気な人が多くなれば、高齢者のイメージも変わるだろう。

■2008/02/01, 日経産業新聞, 22ページ

女たちのブラジル移住史
女たちのブラジル移住史小野 政子

毎日新聞社 2007-09
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◎弁護士渥美雅子氏――「女たちのブラジル移住史」

苦難の手記、生きる意味示唆

ブラジル移民問題にはまってしまった。最初は五年ほど前に宝井琴梅先生を含め十数人の仲間とサンパウロに講談巡業に行ったのがきっかけで、その後はほぼ毎年ブラジルを訪ねるようになった。その度に苦難の移民史を耳にし、これを講談にして語りたいと思い資料をかき集めた。この本もその中の一冊だ。

この本は六人の女性たちが書いた、いわば自分史。戦前に農業移民として現地に渡った人もいるが、多くは戦後に自分の意志でブラジルに行き、永住している人たちだ。だが、彼女たちもかつての国策移民と同様に交通が不便で、物資の乏しい奥地で災害や病魔に襲われて、死にそうになったことがある。

それでも彼女たちはブラジルに引かれ、現地に根付いて生きている。その理由は何だろう。六人の女性の手記は「生きる」ことの根源的な意味を示唆してくれる。

今年はブラジル移民百周年。今のところブラジルから日本に来ている人が多いが、世界経済のバランスは近い将来大きく変わりそうだ。ブラジルで油田が発見されたというニュースもあるし、トウモロコシやサトウキビから石油代替エネルギーを開発する可能性も大きい。

そのためか、すでにもうレアル高である。この機運をどのようにとらえるか。ビジネスチャンスも潜んでいるし、二つの国の新たな関係を築く大きな節目にもなりそうだ。

■2008/01/25, 日経産業新聞, 20ページ

メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 2007年1月5日~12月28日

「反社会勢力」があなたの会社を食いつぶす!
「反社会勢力」があなたの会社を食いつぶす!猪狩 俊郎

日本経済新聞出版社 2007-11
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◎みずほコーポレート銀行企業調査部アナリスト 棚瀬桜子氏

企業につけこむ相手を見極め

どの企業も反社会的勢力への備えを整えているが、残念ながら被害を受ける企業は後を絶たない。本書は被害を受けた企業を紹介し、反社会的勢力がどこにつけこみ、何を狙っているのかを示している。

新聞やテレビなど日ごろの事件報道では、原因を経営者個人の規範意識や倫理観の問題として片付けられてしまいがちだ。だが、その内実には業績不振とそれに付け入ろうとする反社会的勢力が存在する。

新興企業向け株式市場では「特殊知能暴力集団」が登場し、上場企業から不正に利益を得ようとするほか、証券取引の不正利用による収益をもくろんでいる。彼らは株価により条件が変わる転換社債(MSCB)といった新たな金融商品まで駆使する。

もちろん、証券市場も事態を放置しているわけではない。ジャスダックは反社会的勢力との関係が判明した企業の上場廃止を決め、国は金融商品取引法や会社法で、不正を防ぐための内部統制システムの整備を企業に求めている。

問題は取引の相手方が反社会的勢力だと気付くまでに時間がかかり、気付いた時には既に遅いということである。内部統制システムを構築することは当然だが、「取引の相手方の本人確認」の精度をどう高めるかが決め手になるだろう。リスク管理を怠れば、会社存亡の危機に直面しかねない時代なのだ。

■2007/12/28, 日経産業新聞, 22ページ

元気と知恵の経営 一柳良雄のビジネス進化論
元気と知恵の経営 一柳良雄のビジネス進化論一柳良雄

産経新聞出版 2007-11-26
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おすすめ平均 star
star人生論としても大変面白い
star勘所が明快でわかりやすい
star一読の価値あり

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◎関西大教授白石真澄氏

会社経営 ヒントの宝庫

様々な書評を執筆し始めてから、友人が執筆した本は紹介しないことをポリシーにしてきた。だが、今回はあえて禁を破りたい。著者である一柳良雄氏は「ビジネスのヒントの宝庫」のような人であり、コテコテの大阪弁とギャグで人を楽しませる才能を持っている。今から約十年前、経済産業省での三十年に及ぶ官僚生活に終止符を打ち、たった二人でベンチャー支援会社を旗揚げした。

天下りすることがキャリア官僚の慣例だった時代に、会社を立ち上げただけでも珍しかったようだ。加えて、過去を断ち切る意味で、会社設立後三年間は古巣の経産省との仕事も控えた。官僚としての肩書がなくなると、潮が引くように、それまで親しくしてくれた人が去っていくなど苦い経験もあった。しかし、持ち前の才能を生かし、今では五十社のクライアントと四十人の知的ネットワークを抱える企業に成長させた。

一柳氏はこれまでビジネスや出演したラジオ番組などを通じて多くの企業経営者に会ってきた。本書ではこうした数々の出会いや自分の経験から得た、ビジネスを成功に導くためのキーワードと考え方を紹介している。他のベンチャー経営者と同様にゼロから起業し、経営を軌道に乗せた著者だけに、「経営とは生き様の反映」といった考え方にはついつい引き込まれてしまう。禁を破った理由はここにある。

■2007/12/14, 日経産業新聞, 28ページ

焼かれる前に語れ
焼かれる前に語れ岩瀬博太郎 柳原三佳

WAVE出版 2007-09-21
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◎弁護士渥美雅子氏

死体は雄弁である。一見外傷がない変死体であっても解剖してみると、薬物・毒物反応や暴行を受けた痕跡がはっきりと現れる。しかし、変死体の多くは事実上警察官の簡単な検視が済むと、心不全などというあいまいな病名が付けられて葬られてしまう。その結果、多くの事故や犯罪が見逃されていく。

例えば「パロマ事件」。一酸化炭素中毒による死者が出ていたにもかかわらず心不全で片づけられてしまったという。その後に次々と同じような事故が発生して解剖した結果、湯沸かし器の欠陥であることが判明した。

初期の事故の時に死体を解剖して血中のヘモグロビン濃度を測定しておけば、第二、第三の事故は起きなかったはずだ、と本書は指摘する。著者の一人である岩瀬博太郎氏は死体解剖医だ。コンピューター断層撮影装置(CT)を使えば、解剖する前でも遺体内部の臓器の状態や出血している部位を把握することができるという。

日本の場合、解剖のために使うことが出来る国家予算は極めて少ない。これに対してオーストリアのウィーンではすべての変死体を解剖すると言われているが、そこまでしなくても人の死に対してもう少し丁重に扱ってもらいたいものだ。生命保険会社は保険金の不払いで訴訟を起こされるくらいなら、まず死因を明確にするための投資をすべきではないか。

■2007/12/07, 日経産業新聞, 26ページ

できる人の教え方
できる人の教え方安河内 哲也

中経出版 2007-07-11
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おすすめ平均 star
starできない人に教えられたくない
star具体的な指南が素晴らしいです
star20年間に蓄積してきた教える技術満載

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◎みずほコーポレート銀行企業調査部アナリスト 棚瀬桜子氏

教えることの本質とらえる

部下や後輩に仕事を教えていると、彼らに時間内に効率よく理解してもらう方法がないものかと思い悩むことがある。育った時代で常識の中身は異なってくるし、やる気や基礎学力の個人差も大きい。それでも教える側としては皆に興味を持ってもらい、可能な限り多くを吸収してほしいと思うのだ。

私と同じように多くの人が部下や後輩の指導について悩んでいるのか、上司と部下の関係を示す「コーチング」という言葉が注目されている。「教える」と和訳してきた「ティーチング」とは何が違うのだろうか。一般に知識を授けるのが「ティーチング」で、自分が何をすべきなのかを考えさせて気づかせるのが「コーチング」と定義されている。

外国企業の参入、台頭や業界再編などで競争環境が変わり、教える内容が混沌(こんとん)とし、目標とそれを達成するためのプロセスも不明確になっている。さらに、やる気が起きないといったメンタルヘルスにも考慮しなければならない時代になった。

著者は大学受験予備校の講師として「教え方」を本書で伝授している。予備校は企業と異なり、最終目標と達成プロセスが明確であり、部下のマネジメントにそのまま活用できるわけではない。ただ、教えることの本質はとらえており、本書から上司としての心得を学ぶことはできる。

■2007/11/09, 日経産業新聞, 22ページ

最高学府はバカだらけ―全入時代の大学「崖っぷち」事情 (光文社新書 318)
最高学府はバカだらけ―全入時代の大学「崖っぷち」事情 (光文社新書 318)石渡 嶺司

光文社 2007-09
売り上げランキング : 675

おすすめ平均 star
starでも現実はまだひどい
star内容はいいが、品格がない
star今の時代に必要な情報

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◎関西大教授 白石真澄氏

大学に絡む現状 痛烈批判

受験生は一九八〇年以降は減り続けているのに、大学は過去十七年間で二百四十九校も増えた。このためかつては無風地帯だった大学も、受験生獲得で激しい競争を強いられているのが現状だ。本書は昨今の大学事情をまとめたものだが、「最近のバカ学生とその発生要因」、「大学業界のアホっぽいところとその裏事情」、「バカ学生が変わる“化学反応”の瞬間」という三つの観点から著者のユニークな持論が展開されている。

著者である石渡嶺司氏は大学や教育問題、就職活動などをテーマに取材、執筆してきたジャーナリストだ。「偏差値の高低や知名度は関係なく、日本の大学生はおしなべてバカと言ってよい」「大学教職員不能説」など、痛烈な批判が本書には掲載されており、大学関係者の一人である私にとっても耳が痛い話ばかりだ。

しかし、これまでに二百五十以上の大学を取材しているだけに、石渡氏の批判や指摘には共感する部分も多い。これから大学入学を控えている若者や保護者が読めば、大学に進学せずに就職など他のコースを選択するかもしれない。

大学を含めた教育行政を担当する文部科学省に対しても、「理念だけで、どこまでも突っ走る暴走特急です」とあくまで手厳しい。ぜひ歴代の文部科学大臣や役人にも本書を読んでいただき、感想を聞いてみたくなる一冊だ。

■2007/10/26, 日経産業新聞, 30ページ

仕事のくだらなさとの戦い (そもそも双書)
仕事のくだらなさとの戦い (そもそも双書)佐藤 和夫

大月書店 2005-12
売り上げランキング : 5455

おすすめ平均 star
star現代の職業観に対して的を得ている本

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◎弁護士渥美雅子氏

存在理由回復の手引きに

まず題名が奇抜だ。しかも本の帯にも「くだらない働きかた、くだらない働かされかた、くだらない人生からの決別宣言!」とあって、度肝を抜かれるが、内容は極めてまじめな文明評論である。現代の若者たちがニートやフリーターとなって、働きたがらないのはなぜか。かつて仕事人間だった中高年が生きがいをなくしてしまったのはなぜか。西洋哲学が専門の著者は、古今東西の書物を引用しながらその原因を解明してみせる。

資本主義が行き詰まってしまった現代では、戦争も国家の大義名分を失って単なる金もうけとなり、命も人に管理される仕組みとなる。個人が自分自身の創造性を発揮することができる仕事はなく、芸術家ですら注文主の顔色をうかがいながら仕事をするしかない。しかし、人は本来、「新しく何かを始める動物」である。「何かを始める」部分がなくなれば、人が人としてのレゾンデートル(存在理由)を失うのは当然だろう。

それならば、どうやって存在理由を回復するかだ。それはこの本を読んでのお楽しみ。この著者が訳しているハンナ・アーレントの「精神の生活(岩波書店)」をあわせて読んでみるのも良い。会社の労務管理などを担当している人にも本書をお勧めしたい。ノルマやローテーション、効率優先のシステムを一度全部外して、人がどう動くか実験したら面白いと思うが、果たしてやれるかどうか。

■2007/10/19, 日経産業新聞, 22ページ

「No」は言わない! ―ナンバー1ホテルの「感動サービス」革命
「No」は言わない! ―ナンバー1ホテルの「感動サービス」革命林田 正光

講談社 2007-06-21
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◎東京商工リサーチ棚瀬桜子氏

サービスの「お手本」実感

ホテルや旅館だけでなく、世界中のサービス業から「お手本」と見なされているのがザ・リッツ・カールトンだ。著者は同社が大阪に進出した際に営業統括支配人だった。現在の日本は外資系の高級ホテルの開業ラッシュで、国内の老舗ホテルや旅館も設備投資に余念がない。ただ、著者はこうした現象をハード面でのサービス向上にすぎないと突き放した見方を示す。

経営破綻したホテルや旅館に再生ファンドが資金を投じて改修し、再オープンさせる動きが最近まで活発だった。だが、宿泊施設が競争優位を保てるかは、接客などソフト面でのサービスにかかっている。ザ・リッツ・カールトンの強みは、サービスの基本精神が書かれている「クレド」と呼ばれるカードを従業員が常に携帯し、実行していることにある。

もはや海外旅行は特別なものではなくなった。世界のホテルのサービスレベルを知り、日本の旅館の良さを見直す人も増えている。消費者の要望は多様化しており、新しい設備を備えたホテルが必ずしも競争に勝つわけではない。このことは宿泊業だけでなく、すべての製品・サービスにもあてはまる。

本書は顧客に対応する際の考え方だけでなく、従業員教育や組織マネジメントのあり方も示唆してくれる。マニュアルの作成と徹底だけでは消費者の支持を得られなくなったことを実感させてくれる本だ。

■2007/09/21, 日経産業新聞, 30ページ

人間山口信夫―信じた道を曲げず
人間山口信夫―信じた道を曲げず綱淵 昭三

中央公論新社 2007-08
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◎関西大教授白石真澄氏

要職こなす才、ふんだんに紹介

私事で恐縮だが、旭化成の山口信夫会長を存じ上げてから七年近くになる。ダンディーな着こなしや柔らかな語り口、人のすべてを受け止めるような包容力に魅了される人は多い。一九二四年(大正十三年)生まれの山口氏は八十二歳で、企業経営に加えて日本商工会議所と東京商工会議所の会頭や政府の審議会、民間団体の二百を超す要職を務めているという。

交流を重ねる中で、かねて山口氏のような人材がどのようにして輩出されたのかと非常に興味があった。本書は五十人以上の関係者に取材して執筆されており、その関心にこたえてくれる内容になっている。戦時色の濃い少年時代に陸軍士官学校に進み、終戦後はラーゲリ(収容所)に三年間収容されていた。

帰国後は大学に学び、旭化成の宮崎輝社長の秘書を長い間務めた。秘書時代の苦労やオイルショック直後の困難を極めた住宅事業部時代、商工会議所や政府審議会、民間団体などの社外活動を通じて山口氏の仕事への姿勢や価値観がふんだんに紹介されている。

「現場主義」「聞き上手」「リーダーの人間力」「細事こそ人の心を動かす」――。本書で紹介している山口氏自身の言葉や周囲の評価から、ビジネスマンなどは多くの示唆を得られるだろう。

■2007/09/07, 日経産業新聞, 22ページ

現場に「解」あり!―中小企業の“連携”が未来を開く
現場に「解」あり!―中小企業の“連携”が未来を開く山口 義行

中央公論新社 2007-06
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◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏

中小の将来性・魅力に迫る

テレビ東京の番組「ワールドビジネスサテライト」に「トレンドたまご」という人気コーナーがある。ヒットの可能性を秘めた新商品や新技術を紹介する企画だ。大企業もよく登場するが、中小企業の応援が本来のコンセプトだ。取材を通じて、驚くほど小規模で少人数の企業が革新的な技術を開発している様子などを目にし、日本の底力を思い知らされたことがある。

本書は経済産業省の「新連携支援」政策を分析したものだ。新連携とは、異分野の中小企業が各自の強みを持ち寄ってひとつの事業体のように活動し、高付加価値の商品・サービスの提供を目指すことを指す。新連携を成功させるために国がアドバイスや資金援助するのが新連携支援政策だ。

新連携に参加する中小企業各社の強みは何か、どの部分を生かせば市場のニーズに応えられるのか。アドバイザーは新商品・サービスの開発のための仕組み作りに奔走する。本書ではそうしたアドバイザーの努力の結果、メッキ工場の技術をベースにした安全で簡単に操作できる消火器が完成する様子が描かれており、とても興味深い。

多くの中小企業は後継者問題を抱える。子が事業を継ぎたがらない一番の理由は「将来性や魅力がないから」だという。だが、本当にそうなのか。自社の枠を超え挑戦することが、将来性や魅力を見いだすことにつながると本書は教えてくれる。

■2007/08/31, 日経産業新聞, 26ページ

借りたカネはやっぱり返すな!
借りたカネはやっぱり返すな!金野 力/神山 典士 八木 宏之

アスコム 2007-06-01
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おすすめ平均 star
star破産してはいけない。

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◎東京商工リサーチ経済研究室長棚瀬桜子氏――借りたカネはやっぱり返すな

過剰債務者再起の知識解説

本書は合法的に債務を圧縮するノウハウ本として売り出されており、過剰債務を抱えてしまった法人や個人が再起するために必要な法知識を事例を交えて解説している。ただ、著者が最も伝えたいのは、借金を返すために借金を重ねてはいけないということであり、本書の奇異な書名もそこに由来する。

金融機関は不良債権を処理する過程で、窮地に陥った企業の債権放棄要請に身を削る思いで応じてきた。産業再生機構に始まり、事業再生ファンド、中小企業再生支援協議会、地域力再生機構など事業再生を目的に掲げた組織も相次いで登場した。事業再生には債務圧縮が不可欠との認識は定着したと言えるだろう。

それでもお金を巡るいざこざは絶えない。「不十分な審査で貸した方が悪い」と借り手が言えば、「返済できる見込みもないのに借りた方が悪い」と貸し手が反論するなど責任のなすりつけ合いは今もそこかしこで起きている。

過剰債務を抱えた企業が貸し手に債権放棄を納得させたとしても、それだけでは雇用は守れない。まして地域経済の衰退に歯止めをかけることなどできない。合法的に借金返済から逃れることはできても、借りた側が自らの責任を感じていなければ、周囲の協力は得られず事業再生は決して成功しない。いずれまた、お金の問題でしっぺ返しを受けることになるだろう。

■2007/08/24, 日経産業新聞, 22ページ

職場砂漠 働きすぎの時代の悲劇(朝日新書 58) (朝日新書 58)
職場砂漠 働きすぎの時代の悲劇(朝日新書 58) (朝日新書 58)岸 宣仁

朝日新聞社出版局 2007-07-13
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おすすめ平均 star
star新自由主義がもたらした、負の遺産を具体的に書かれている

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◎関西大教授白石真澄氏――「職場砂漠」岸宣仁著

疲弊する雇用の現場に警鐘

グローバル化が進み、M&A(合併・買収)が増える昨今、職場環境が激変してストレスを感じるサラリーマンが増加している。昨年度の労働経済白書をみても、とりわけ男性の壮年層に長時間労働の傾向がみられた。「仕事の成果が過度に重視される」「仕事量が多く、時間も長い」「責任が重すぎる」などを理由に、仕事に疲れを感じている人の割合が多いことが示された。

本書は精神的に追い詰められたサラリーマンの実態をルポすることで、疲弊する雇用の現場を伝える。現状を放置すれば、日本経済の屋台骨が揺らいでしまうと警鐘を鳴らす。著者はフリージャーナリストの岸宣仁氏。新聞記者時代には自動車・電機業界などを取材、その後も雇用や技術開発分野などの現場をリポートしている。

度重なる上司の叱責(しっせき)で自殺した建設会社の営業所長、「君の働き方が気に入らない」と解雇された三十歳代の男性など、それぞれのケースからは「砂漠化した職場」の姿が浮かび上がる。

解決策として、著者は「企業はセーフティネットの整備を進め、個人は自分の人生を持つなど、当事者努力によってWin―Winの仕組みを作れ」と指摘する。過労死が「Karoushi」として、英語でそのまま通用するような悲惨な実態を放置してはならないと強く感じる。

■2007/08/03, 日経産業新聞, 22ページ

本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖
本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖三橋 貴明

彩図社 2007-06
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◎東京商工リサーチ経済研究室長棚瀬桜子氏―「本当はヤバイ!韓国経済」

現地企業に厳しい評価

テレビドラマをきっかけにした韓流ブームで日本人にとって身近になった韓国。昨年は約二百三十一万人の日本人が韓国を、約二百三十六万人の韓国人が日本をそれぞれ訪れている。にもかかわらず、日本のメディアは韓国経済の実態をこれまでほとんど報道していないように感じる。

著者は韓国経済が深刻な不況に陥っていると断言する。財閥企業を中心とする韓国企業は国内で独占的に利益を確保し、海外ではシェア拡大を狙って薄利多売に走る。半導体や薄型テレビなど韓国企業が高いシェアを持つ製品でその傾向が顕著で、現在のように自国通貨ウォンの為替相場が高くなると打撃を受けてしまうというのが著者の分析だ。

さらに労働生産性の低さや経営に非協力的で「労働貴族」と呼ばれる労働組合幹部の存在、原油価格上昇の影響を受けやすい体質なども韓国経済の弱点として列挙する。

韓国と同様に加工貿易立国である日本も、かつて円高不況で苦しんだ経験を持つ。しかし、日本企業は苦境の中でも研究開発費をひねり出し、独自技術を地道に磨いた。バブル崩壊後には聖域だった人件費にもメスを入れた。

本書の韓国企業への評価は厳しすぎるように思うが、両国の企業行動を比較すると、日本企業が努力の結果、強くなったことを改めて実感する。

■2007/07/13, 日経産業新聞, 26ページ

新たな疫病「医療過誤」
新たな疫病「医療過誤」ロバート M.ワクター ケイヴェ G.ショジャニア 原田 裕子

朝日新聞社出版局 2007-03
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おすすめ平均 star
starおもしろい
star答えはないが考えるきっかけとして是非

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◎弁護士渥美雅子氏――「新たな疫病『医療過誤』」

企業にも危機管理のヒント

医療過誤はなぜ起きるか。防止するにはどうすれば良いかを、経験豊富な医師二人が書いた。例えばカルテの書き間違いで違う足を切断してしまったケースや、血液型O型の重症心臓病患者にA型の提供者の心臓を移植してしまったケースのほか、医師の診断が異なったことから救命措置が遅れ患者を死に至らしめたなど様々な事例が挙げられている。

こうした事例が多発する状況は、エイズや重症急性呼吸器症候群(SARS)のような新たな疫病がまん延していく状況に似ていると著者は指摘する。このため米国では医療過誤に関する訴訟が急増し、それを補てんする損害保険の保険料は上がるばかりだ。

医療過誤に関する事例が訴訟になり社会的な注目を集めることで、一面では医学における治療などのレベルを上げる効果が期待できる。その一方で医師たちが治療などに防衛・消極的になるというマイナスの側面もある。

ジレンマをどのように解消することができるか。著者は手段の一つとして、労災補償に似た無過失責任補償制度を作ることを提案する。「人は過ちをおかすものである」ということを大前提として、医師と患者が共同で救済システムを作るべきだと主張する。この本で紹介された病院の医療過誤を防ぐ取り組みは、企業にとっても危機管理に関するヒントになりそうだ。

■2007/07/06, 日経産業新聞, 22ページ

インド人に学ぶ
インド人に学ぶ斎藤 親載

学生社 2007-05
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◎関西大教授白石真澄氏―「インド人に学ぶ」斎藤親載著

特異性とたくましさ

インドの影響力の大きさは、人口やその分布を考えただけで容易に想像がつく。約十一億人を誇る世界二位の人口は、二〇三五年までに世界最大となり、五〇年には十五億人を超える見通し。人口抑制策をとらないインドは少子化と無縁で若い労働力は今後、五億人を超え、間違いなく経済成長と消費をけん引する。

さらに華僑がアジア諸国に集中するのに比べ、印僑は北米、英国など世界に細かく分布する。東京の西葛西にも千人を超えるインド人が居住。「グローバル時代の世界の拡大は、インド人を知ることからはじまる」と著者が指摘するとおり、インドを避けていては経済面で生き残れないのは明らかだ。

著者は商社勤務時代から三十年来、インドとのつきあいを重ねてきた。誇り高く確とした生活信条のなかに生きるインド人との交流、理詰めでしつこいインド人に悩まされた体験、カースト制度が根強く残る商慣習など、多民族、多言語、多宗教、多文化国家であるインドの奥深さや光と影が描かれている。

著者は民族のるつぼのインドを多くの材木ででき、どんな衝撃でも沈まぬ筏(いかだ)にたとえ「筏の靱帯(じんたい)は強く、ひとつの国家意識をなしている」という。貧困や宗教抗争、カースト間トラブルなどを自浄しながら、びくともせずに生きているインドの特異性とたくましさが理解できる一冊だ。

■2007/06/15, 日経産業新聞, 22ページ

四十五歳の前座―女講釈師駆歩記
四十五歳の前座―女講釈師駆歩記宝井 琴嶺

文芸社ビジュアルアート 2007-03
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◎弁護士渥美雅子氏――「四十五歳の前座、女講釈師駆歩記」宝井琴嶺著

コツコツ、世の中甘くない

著者のモットーは「登山・観劇・コツコツと講談に励む」だそうである。四十歳で宝井馬琴に弟子入りし、四十五歳で講談協会の前座修業を始める。七年後に真打ちとなり、その三年後には芸術祭賞を受賞する。今や押しも押されもせぬ大看板だ。

最近、講談師や噺家(はなしか)、様々な芸人の修業ぶりを書いた本がたくさん出版されているが、この人の本はひと味違う。高校卒業と同時に新劇の劇団に入った経験があるから、いきなり趣味が高じて新たな世界に飛び込んだという訳ではないにしても、四十五歳で芸能界に飛び込みプロの芸人になるというキャリアはやはり珍しい。

しかもピースボートの水先案内人として世界をまわったり、登山やお遍路さんをしたり、時には俳優の津川雅彦さんや朝丘雪路さんが出演する大衆演劇に参加しながらである。

今まさに再チャレンジの時代であり、官民をあげて奨励している。再挑戦を考えている人にとって、大いなる勇気を与えてくれる本である。何歳からでも遅くはないが、再チャレンジにはそれなりの覚悟とウオームアップが必要だという事も教えてくれる。世の中は甘くはない。

この本はまた、著書の旅のエッセーとして読んでもおもしろい。「講談師とはこのような物の見方をするのか」という新鮮な発見がある。

■2007/05/25, 日経産業新聞, 22ページ

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち
下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち内田 樹

講談社 2007-01-31
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おすすめ平均 star
star面白いが、思いつきのニート論
star低レベル
star『消費主体と時間』が相応しいタイトルかと

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◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏―「下流志向」

新入社員教育の参考に

大卒新入社員の約三割が入社して三年以内に会社を辞めるという。ある会社の人事担当者が「時間をかけて経験を多く積まなければ学べないことがたくさんあるのに」と嘆いていた。彼によると、最近の新入社員は「どうすればすぐにうまくできるか」「どうすれば痛い目に遭わずに済むか」など即効性があって、そつなく仕事をこなすための質問しかしないという。

本書を読み、彼らがその種の質問をする理由が分かった気がした。消費者がおカネを使うことで得る「法外な全能感」を今の若者は幼いころに知ってしまい、すべての事象に「等価交換」という概念を当てはめようとするのだと著者は説く。

等価交換には時間差があってはならない。おカネを払ってすぐに商品を受け取れないとイライラするからだ。若者は学んですぐに、その効果を得られる「無時間的学習」を求めているのだ。だが、学びには一定の時間が不可欠であり、等価交換という概念は当てはまらない。

最近の若者が勉強しなくなった背景にはこのような事情がある。「最も少ない労働(努力)で、最も多くの利益(成果)を出すこと」を最善と考えているのなら、その思想をまず正さなくてはならない。

配属された新入社員の教育が本格化するこの時期、教育する立場の人も、教育を受ける立場の人も一度読むことをお勧めしたい一冊だ。

■2007/05/11, 日経産業新聞, 22ページ

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学
メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学松永 和紀

光文社 2007-04-17
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おすすめ平均 star
star意外な側面が

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◎関西大教授白石真澄氏――「メディア・バイアス」

情報の「取捨選択」に注意

「○○に効く」「健康に良い」と有名なテレビ番組が放映すれば、夕方のスーパーから特定の商品が消える。それほど私たちはマスコミの情報に影響を受けている。最近では「納豆ダイエット」で研究者のコメントやダイエット体験者の検査データを捏造・改ざんした某民放局もあった。

しかし、これは単なる一組織の問題ではなく、テレビを批判するほかのメディアなど「センセーショナルな話題に引っ張られるメディア構造、取材側の不勉強や勘違い、それを利用する企業や市民など、さまざまな要素が絡んでいる」と著者は警告する。

著者は大学院で農芸化学を専攻し新聞記者を十年務め、現在はフリーの科学ライターとして農業・食品・環境分野などを取材している。多種多様な情報の中から都合の良いもの、白か黒か簡単に決めつけられるものだけを選び出し報道する情報の取捨選択を「メディア・バイアス」と呼ぶそうだ。「中国野菜騒動」「紅茶は○でも、ミルクティーは×」「環境ホルモン作用は確認されず」など、具体例を元にメディア・バイアスの構造を解き明かす。「科学報道を見破る十カ条」も盛り込んだ。

現在、日本人の食生活は大きく変化し、新しい食品が続々と登場し情報も氾濫する。本書を読めば健康情報に安易に踊らされない賢い視聴者になれそうだ。

■2007/04/27, 日経産業新聞, 26ページ

林住期
林住期五木 寛之

幻冬舎 2007-02
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おすすめ平均 star
star「第三の人生」を迎える、ということ
star定年は、人生の臨終期ではない。
star人生を充実させるための提言

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◎弁護士渥美雅子氏――「林住期」五木寛之著、団塊へ哲学的メッセージ

古代インドでは人生を四つの時期に分けて考えたという。「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」の四つだ。「学生期」はいわば青春で、心身を鍛え学習し、体験を積む時期だ。「家住期」は社会人や家庭人として働く。「林住期」は社会的・家庭的義務から解き放たれて、自分のやりたいことを自由にすることができる。「遊行期」はその後に続く自然の成り行きに身を任せて生きる時期だ。

著者は人生を百年と仮定して、この四つの時期を二十五年ずつに分ける。そして五十歳から七十五歳までを「林住期」として、この期間の生き方を考え直そうと提言する。

例えばロシアの作家トルストイは晩年に家出して旅先で死んだ。親鸞の妻である恵信尼は晩年になって老いた親鸞を京都に残し、越後に移り住んだという。彼らに何があったのかは定かではないが、この本は団塊の世代をはじめとする前期高齢者に向けた哲学的メッセージだ。

職から離れ、家族ともやや距離を置いて何をするか。凡人にはトルストイや恵信尼のまねはできないが、まだエネルギーのあるこの時期に、ぜひやっておきたいことがあるのではないだろうか。

林住期の人々が自分に向けてそんな問いを発するなら、それをどのように実現するか。そのニーズに寄り添って考えてみれば、思わぬビジネスチャンスに行き当たるかもしれない。

■2007/03/30, 日経産業新聞, 34ページ

生かされて。
生かされて。イマキュレー・イリバギザ スティーヴ・アーウィン 堤江実

PHP研究所 2006-10-06
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おすすめ平均 star
star祈りの本
star祈る力
starどんな苦境な中…

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◎東洋大教授白石真澄氏―「生かされて。」イリバギザ、アーウィン共著

憎しみのない世界を願う

一九九四年、ルワンダでは百日間に百万人のツチ族が多数派のフツ族によって虐殺された。同じ人間同士で、ここまで憎しみ合い残酷になれるのか。「子どもたちは苦しんで死ぬように足を叩き切った後、生きたまま放置され、赤ん坊は岩に打ち付けられる」。本書には殺戮(さつりく)やレイプなど、身も凍るような事実が記されている。

大量虐殺の事実を政治的にとらえた類書は多いが、本書がそれらと異なる点は、イマキュレー・イリバギザという一人のツチ族女性の内面を通して、当時を描いていることである。彼女は絶望の淵にあっても魂の奥深くを見つめ、カトリック教への信仰と勇気と柔軟さを持ち続け、決してあきらめなかった。

イマキュレー自身も、両親と兄、弟を殺害され、クロゼットほどの広さしかない小さなトイレに七人で身をかくして生き延びた。現在、彼女はアメリカに移住し、国連で働き、虐殺や戦争の後遺症で苦しむ人を癒すための基金を作る活動をしている。

「私たちの命はつながっていて、私たちは他の人の経験から学べる。たくさんの人々の魂の役に立てたらと祈りながらこの物語を書いた」――。作者が言うように、本書を読めば、憎しみや敵対、紛争が世界からなくなることを願わずにはいられない。

■2007/03/09, 日経産業新聞, 22ページ

不都合な真実
不都合な真実アル・ゴア 枝廣 淳子

ランダムハウス講談社 2007-01-06
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おすすめ平均 star
star「見ざる言わざる聞かざる」の20世紀の金の延べ棒重視の文化から、『地球の重み』を重視した正しい確かな行動の21世紀へ
star新しいことは何もない
starゴア氏が、、、

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◎弁護士渥美雅子氏――「不都合な真実」アル・ゴア著

温暖化の実像、丁寧に紹介

同名の映画が今、全国で上映されている。見てから読むか、読んでから見るか。私は読んでから見ることをお勧めする。

著者のアル・ゴア氏は誰もが知っている元アメリカ副大統領。クリントン政権時代に副大統領をつとめ、二〇〇〇年に大統領選に出馬し、ブッシュ現大統領と争って小差で敗れた人。その人がライフワークとして持っているテーマが「地球温暖化を早期に食い止めなければ」ということだ。沢山の実例を紹介し、さほど危機感を持っていない人々の論調にもひとつひとつ丁寧に反論しながら、地球温暖化防止に向けて誰もができることをすぐに始めようではないか、と呼びかける。

私はこの本に載っているキリマンジャロの写真を見てショックを受けた。一九七〇年と二〇〇五年を比べると明らかに違う。九三年に私はこの山に登りに行ったが頂上直下にまだ少し氷雪があった。しかし、あと十年たつと雪は全くなくなってしまうという。この恐ろしくも「不都合な真実」を皆が一刻も早く直視しなければなるまい。そして何をすればこれを食い止められるかを真剣に考える時、新しいビジネスチャンスも生まれてくるだろう。ハイブリッドカーや省エネ型の電化製品などはその例だ。

この本を翻訳しているのはエコジャーナリストの枝廣淳子さんだが、その平易で的確な訳が良い。

■2007/02/02, 日経産業新聞, 22ページ

加賀屋の流儀 極上のおもてなしとは
加賀屋の流儀 極上のおもてなしとは細井 勝

PHP研究所 2006-08-26
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おすすめ平均 star
starサービスの原点は同じ
starサービス業のバイブル
starおもてなしの極意

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◎テレビ東京アナウンサー 大江麻理子氏――「加賀屋の流儀極上のおもてなしとは」

経営者と社員に深い信頼

担当する情報番組で温泉地を数多く取り上げてきた。最近は個性的な温泉宿が増えている。そうした宿の宿泊費は驚くほど高いことが多いのだが、人気は総じて高く、数カ月先まで予約で満杯だったりする。

人は何を求めて大枚をはたいて温泉に行くのだろう。その答えを探して本書を手に取った。本書が取り上げているのは石川県の和倉温泉にある温泉宿の加賀屋。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選」で一九八一年から二十六年連続で総合一位に輝いている、まさに日本一の宿である。

加賀屋を舞台に繰り広げられるエピソードにホロリとしてしまった。本書を読み進めてわかったのは、日本一のおもてなしが経営者と社員の信頼関係で成り立っているということだ。

経営者が社員の面倒をとことん見て、社員が仕事に没頭できる環境を整える。社員もそれに応えて加賀屋を愛し、進んで働くようになればマニュアルはいらなくなる。「加賀屋ならでは」と称賛されるサービスのほとんどは客室係の裁量に任されており、そのことが客の感動を呼んでいる。

社員の顔が見えている経営者は、その先にいる「まだ見ぬ客」の顔も見えるのだ。「お客様を大切に思うなら、その方々を接客する社員たちが何よりも幸せでなければならない」という加賀屋のおかみの言葉はどんな企業にも当てはまるだろう。

■2007/01/26, 日経産業新聞, 22ページ

10歳の放浪記
10歳の放浪記上條 さなえ

講談社 2006-11-30
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おすすめ平均 star
starこれは現代人へのエールだと思う
star愛情あふれる本

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◎東洋大教授白石真澄氏――「10歳の放浪記」

支えられ生きることに感謝

時代は昭和三十五年。ホームレスとして過ごす十歳の早苗は、学校に通うこともままならない。日雇いの仕事で生活費を稼ぐ父と、簡易宿泊所を転々としていた。本書には貧しい境遇ながらも、少女が希望を持ち、たくましく生きる姿が描かれている。

著者は児童文学作家の上條さなえさん。教員を経て、作家生活の傍ら、埼玉県の児童館館長もつとめた。たくさんの童話や講演を通じて家族のふれあいの大切さを伝え、子どもの心を代弁してきた。

「死のうか…もう金がないんだ。明日の朝、ここを出たら、行くところがないんだ」――。父の言葉にショックを受け、父を助けるためにパチンコ屋で玉を拾うこともあった。しかし、池袋のドヤ街で、早苗と父を支えてくれたのは、床屋のお姉さんややくざのお兄さんといったまわりの人々だった。

放浪の後に入ることになった養護施設でも、少女は人の優しさに触れる。「おいしそうなパンを持ってきたんだねえ。先生、あんぱん大好きなんだ。僕の弁当と、あんぱんと交換してくれないかなあ」と、施設の山下先生は、弁当を持ってこられない早苗を気遣った。

「人間はひとりぼっちじゃない」。いじめなど教育問題が叫ばれて久しいが、読む側がまわりに支えられて生きていることに感謝したくなる、心温まる一冊 である。

■2007/01/19, 日経産業新聞, 26ページ

裁判長!ここは懲役4年でどうすか
裁判長!ここは懲役4年でどうすか北尾 トロ

文藝春秋 2006-07
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おすすめ平均 star
star傍聴に行ってみよう!
star年の終わりの
star裁判の様子が良く伝わってきます。お勧め!

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◎弁護士渥美雅子氏――「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」

裁判を“ショー”仕立てに構成

ふざけたタイトルだが文句なく面白い。著者は二十五件の裁判を傍聴し、傍聴席からみた被告人、裁判官、検察官、弁護人の言動をマンガチックに描写し、その感想をつづる。裁判を徹底的に“ショー”として見てやろうという魂胆だ。最近は法廷傍聴マニアも多く、その人たちが集まる「霞ヶ関倶楽部」とかいう同好会もあるそうで、ベテランになるとほとんどの事件の判決予測ができるという。そこで「裁判長!ここは懲役四年でどうすか」とくる訳だ。

間もなく裁判員制度が始まる。自分が裁判員に指名されたら参加したいかどうか、現時点でアンケート調査をすると回答はほぼ半々だ。だが、制度が始まればいや応なしに順番が回ってくる。ならばいっそのこと「生のドラマをタダで見られるチャンス」と割り切って参加した方がいい。従業員がそのための休暇を請求してきたら、企業側も迷惑がらずに「またとない社外研修のチャンス」と受け止める方がいい。個人が市民としての責任を容易に果たせる企業風土をつくることも企業の社会的責任(CSR)の一端だろう。

いっそ株主総会なども見直してみたらどうだろう。質問もなくシャンシャンと終わるより、ショーとして見応えのある総会を演出してみるのも一興だ。やましいことさえなければ怖くはない。案外ビジネスヒントになる意見が聞けるかもしれない。

■2007/01/05, 日経産業新聞, 26ページ

メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 2006年3月3日~12月15日

東西逆転―アジア・30億人の資本主義者たち
東西逆転―アジア・30億人の資本主義者たちクライド プレストウィッツ Clyde Prestowitz 柴田 裕之

日本放送出版協会 2006-03
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おすすめ平均 star
starグローバリゼーションのもたらすもの

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◎デンソー会長岡部弘氏――「東西逆転」

経済グローバル化の結末

国際収支の膨大な赤字を出し続け、世界最大の負債国となった米国。背景にはものづくりを海外に移転しただけでなく、ソフト・サービス分野までも海外に任せる割合が増えたことにより、経済の海外依存度が圧倒的に高まった現実がある。これらの赤字を黒字国による米国への再投資でファイナンスし、何とか均衡を保っているが、米国への信頼がゆらぎ、バランスが崩れるとドルの大暴落が起こる。本書のプロローグはドル暴落のシナリオから始まる。

その一方で、欧米諸国がアウトソーシングで育てた中国(ものづくり)、インド(ソフト・サービス)の発展は著しく、日本を含めたアジア諸国が競争力を強め、富の流れに東西逆転が起こる。個々の企業が自らの利益追求のために発展途上国を利用した結果が、これらの国々の経済的発展と自国経済の弱体化だ。経済のグローバル化がもたらす皮肉な結末といえる。

これはまた日本への重大な警告でもある。自国経済を顧みずにいたずらに海外シフトを進めれば、いずれ日本にも同じことが起こる。ものづくり立国を目指す日本は、核となる技術開発と技能の蓄積を続けなければならない。こうした能力は一度無くすと回復不可能となる。

著者はレーガン政権時代に商務長官補佐官を務めた。日・欧との経済交渉にも携わった経験を持つ経済通であるだけに、本書の内容には説得力がある。

■2006/12/15, 日経産業新聞, 26ページ

金融マーケティングとは何か これがプロの戦略だ!
金融マーケティングとは何か これがプロの戦略だ!広瀬 康令

ソフトバンククリエイティブ 2006-11-16
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おすすめ平均 star
starありがとうございます
star「プロ」が語る成功体験
star金融業界のスゴ技の数々

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◎東洋大教授白石真澄氏―「金融マーケティングとは何か」広瀬康令著

外資の戦略、厳しさ感じる

バブル崩壊後、無残なまでにイメージを落とした邦銀。自由化になった今も、金利も営業時間もほとんど横並びだ。一方、外資の銀行は、邦銀とは一線を画した商品戦略や、徹底したマーケティングを推し進め、独自色を打ち出してきた。

著者はシティバンクや東京スター銀行など、五つの外資系金融機関を渡り歩き、マーケティング担当として実績を残してきた人物。自ら経験した外資系のマーケティングを、キャリアの流れに沿って書いている。堅苦しい教科書的な内容ではなく、非常に読みやすい。経験論に裏打ちされているだけに迫力もある。

たとえば、著者が最初に勤務したシティバンクの戦略。店舗数が多く、ロケーションも良い邦銀には便利さでひけをとってしまう。そこでATMの二十四時間開放やATM手数料の無料化に踏み切り、大きな話題をさらった。

が、実は真の理由は、銀行側は二十四時間システムを止めないほうがコストがかからない点にあった。これを消費者のメリットに置き換えた戦略で、したたかである。

本書を読めば、広告ひとつを取っても、徹底的に効果を測定する外資のスタイルが読み取れ、市場で戦うことへの厳しい姿勢が感じられる。日本と商習慣の違いもあるだろうが、金融以外の分野にも十分通用する考え方が詰まっている。

■2006/12/01, 日経産業新聞, 22ページ

新平等社会―「希望格差」を超えて
新平等社会―「希望格差」を超えて山田 昌弘

文藝春秋 2006-09
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おすすめ平均 star
star希望をもって生活できるか、否かがポイント
star希望は捨ててはいけません
starどうすれば希望格差を乗り越えられるか?

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◎弁護士渥美雅子氏――「新平等社会」山田昌弘著

企業の勝敗・年収格差の真相探る

この人が本を書くとタイトルがたちまちその時代の流行語になる。「パラサイトシングル」しかり、「希望格差社会」しかり。今度は「新平等社会」ときた。

一九九〇年代後半以降、どんどん広がる経済格差。一握りの勝ち組と大部分の負け組とに分かれてしまった原因は何か。負け組が「底抜け」して社会的弱者に転落してしまいかねない状況でもあり、それを食い止めるにはどうすれば良いか、がこの本のテーマになっている。

著者は本書の中で「リスク化したライフコースに対応できる社会保障制度」や「子育て期、高齢期における自立支援策」などいくつかのメニューを提供する。読んでいて私が最も面白いと思ったのは、未婚男性と既婚男性の収入格差だ。百万―二百万円の年収格差がある。ただそれを公の刊行物に書こうとするとすべて削除されてしまう、と著者は言う。これが明るみに出ると担当者の首が飛ぶらしい、とも。「金が無くては結婚できない、ましてや子どもなど」という極めてわかりやすい少子化のロジックがこうして埋没してゆく。それが日本の役所の体質だとしたならば日本の格差社会を埋める道はなかなか遠い。

とはいえ、この本には美容師にメード服を着せて客を殿様気分にしてくれる美容室が盛況であるという紹介もある。丹念に読めば新しいビジネスチャンスのヒントも拾えそうだ。

■2006/11/17, 日経産業新聞, 22ページ

文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (上)ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一

草思社 2005-12-21
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おすすめ平均 star
star歴史的な知識の宝庫
starブッシュもこの本を読め!
star全部読む必要はない

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文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)
文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの (下)ジャレド・ダイアモンド 楡井 浩一

草思社 2005-12-21
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おすすめ平均 star
star胡錦濤もこの本をよめ!
starヴァイキング好きなら、買い。
star存続のための処方箋も

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◎デンソー会長岡部弘氏―「文明崩壊上・下」ジャレド・ダイアモンド著

現代社会を危機から救う遺訓

「遠い過去を見れば見るほど、遠い未来が見えてくる」。これはウィンストン・チャーチル英元首相の言と伝えられているが、けだし名言である。

本書は現代の世界が抱えている危機的な問題を解決するための方策を、過去の歴史から見いだそうとするものである。過去の歴史には、北米のアナサジ、中米のマヤなど、文明が崩壊し歴史から消え去った事例が幾つもある。一方で、似たような条件下でありながら立派に生き延びた社会がある。二つを分けたものは何か。これを明らかにすることこそ現代の混迷を抜け出す鍵となると著者は主張する。

最近の研究成果によれば、文明崩壊は大まかに以下の八つの要因に起因している。すなわち(1)森林乱伐と植生破壊、(2)土壌劣化、(3)水資源管理問題、(4)鳥獣乱獲、(5)魚介類の乱獲、(6)外来種による在来種の駆逐・圧迫、(7)人口増大、(8)一人当たり環境侵害量の増加だ。特に外部との交流が断たれたときに悲劇が始まる。著者は明言を避けているが、こうした事例は再生不能なまでの環境破壊で人口増大をまかなうだけの食物を得られなくなり、文明が破滅の道をたどり始めることを示している。

相互交流が進んだ現代では、社会の消滅には至らないまでも、似たような危機に置かれている地域は多い。過去の歴史を学び本質を把握することの重要性を学ぶため、ぜひ薦めたい良書である。

■2006/10/27, 日経産業新聞, 30ページ

14歳からの政治
14歳からの政治長谷部 尚子

ゴマブックス 2006-08-21
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おすすめ平均 star
star初めて読んだ政治の本
star政治家が身近に
star中学生だから聞ける素朴な質問

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◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏――「14歳からの政治」

中学生、8人の政治家に直球

安倍晋三内閣が発足してからもうすぐ一カ月となる。毎朝、新聞で欠かさずチェックするのが、前日の総理の行動を分単位まで克明に記している欄だ。どこに行って誰と会ったのだろうと興味深く感じるほか、一日中様々な仕事をしていることもよくわかる。

政治家をみていると、国会などできつい言葉を応酬したり、プライベートが暴かれたり、とかく大変そうである。安倍首相も政策や発言が「あいまい」と指摘され、厳しい評価を受けている。大変な仕事なのに、彼らはなぜ政治の道を志したのだろうと思ったのが、この本を手に取るきっかけだった。

著者は現役の中学生。実際に政治家を訪ね、なぜ政治家になったのか、どんなことを考え何をしているのかをインタビューしている。登場するのは安部首相(インタビュー時は官房長官)や小池百合子議員、横浜市の中田宏市長ら八人の政治家だ。

八人は著者が投げ込んだ直球をしっかり打ち返している印象を受けた。子供時代のエピソードや、突然手渡されたりんごを受け取る様子を撮った写真も掲載されている。テレビや新聞では分からない、普段とは違う一面も垣間見えて新鮮だった。

安倍首相に限らず、政治家は批判の対象となる。この本を読むと政治家一人一人の志に触れることができる。「いい日本にしてください」と政治家を応援したくなる一冊だ。

■2006/10/20, 日経産業新聞, 30ページ

芸術起業論
芸術起業論村上 隆

幻冬舎 2006-06
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おすすめ平均 star
star芸術に限らない人生論
star暗黒大陸ガイドブック
star学生は励まされるだろうなー

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◎内閣知財戦略推進事務局長荒井寿光氏――「芸術起業論」村上隆著

「芸術はビジネス」意識を改革

「芸術はカネのためではない」。「芸術家は貧乏」。これが日本の常識。その結果、日本の芸術家は世界で通用しない。芸術家は作品を売って生計を立てるのだから、通常のビジネスだと割り切り、世界の芸術市場のルールで競争すべき。芸術の顧客は大金持ちだから、金持ち向けに自分の物語を作るべき――。「芸術起業論」(村上隆著、幻冬舎)は、ドキッとするような発言が続く。

著者はぬるま湯的な日本市場に見切りをつけ、まず欧米で認められるよう作品を作った。次に欧米の権威を笠(かさ)に着て日本に逆輸入。それから欧米に自分本来の持ち味の作品を出し、成功した。プレゼンテーションも重視。五人の本物の翻訳者を使い、十回も推敲(すいこう)を重ねて展覧会のカタログを作った。その結果、彼の作品はニューヨークのオークション会社、サザビーズで一億円で落札。ルイ・ヴィトンと協力して作った「ムラカミ・モノグラム」が世界中で売れた。

工業製品でも、まず米国で売れ、それによって国内でも売れるようになったものが多い。芸術でも同じだということだろう。政府は日本の映画、音楽、ゲーム、漫画などのコンテンツ(情報の内容)を世界中の人に広げる知的財産戦略を進めている。芸術はビジネスだと割り切る意識改革が必要ではないか。芸術系の大学でもビジネス講座の開設が待たれる。

■2006/09/29, 日経産業新聞, 30ページ

女信長
女信長佐藤 賢一

毎日新聞社 2006-06
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おすすめ平均 star
star読み物として楽しめる発想と構造-難しいことは抜きにして
star信長に内在する“女性”性、“男性”性が描き分けられていない
star辻褄合せに難点

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◎弁護士渥美雅子氏――「女信長」佐藤賢一著、歴史小説、奇想天外な発想

織田信長は実は「女」だったという前提で書かれた本である。この奇想天外な発想は信長という武将が尾張の小大名から天下統一直前までのし上がっていく過程での人材活用術や戦術が、それまでの常識からあまりにかけ離れているので「あの時代、男ではああは出来まい」というところからきている。現に血統や出自を重んずる男達の価値観から信長は全く自由である。読んでいくうちに、もしかしたら本当に信長は女だったのかもしれないと思えてくるから不思議だ。

ういえば、最近、「ポジティブ・アクション」という概念がしきりに話題になっている。企業の中に男女差別があるならそれを是正していこう、女性の能力が眠っているならそれを掘り起こしていこうといった内容だ。それらをいち早く実施した企業ほど、収益率が高いという統計もある。新しい時代に新しいセンスで挑戦できるのは「女」である、とこの小説は明言する。

こういう発想をする著者自身も、また異能の人といえそうだ。この小説は昨年一年間、毎日新聞に連載されたが、単行本になって再度読み直してみた。何度でも読む価値のある本だ。著者はこの本の結末で、もう一度歴史のドンデン返しを試みる。あえて、その結末は書くまい。推理小説よりよほど面白い歴史小説だ。

■2006/09/22, 日経産業新聞, 22ページ

なぜ働くのか―充実感とやりがいを生み出すもの

◎デンソー会長岡部弘氏――なぜ働くのか、PHP総合研究所研究本部編著

先人の知恵から答え導く

現在の若者に共通する問題は、働くことへの意義がなかなか見いだせないところにあるように思える。背景には、現代の社会では個人としての夢を持ちにくいことがある。夢を持ち、夢の実現に向けて努力できれば、働くことに生きがいや喜びを感ずることができるようになる。そして生きる力も強まる。

この書物は松下幸之助をはじめ各界の成功者の生き様を短文でわかり易くまとめたものである。ややきれいごとに過ぎる感がないでもないが、各編がそれなりに説得力のある内容になっている。各編に共通する点は、各人がそれぞれの仕事に「強い信念」と「厚き情熱」を持ち、常にその目的の実現に向けて、人知れず「たゆまぬ努力」を続けているところにある。

働くことの意義を見いだすことはそれほど簡単なことではない。一人ひとりがまず身近なできることから始めて、それぞれの人生観に照らして納得できる答えが見つかるまで努力してみる以外にない。しょせん、自分のことは自分しかわからないものであるから、おのずから苦労して見つけ出すしかない。

ただ、先人の知恵を参考にすることはできる。そのためにこうした書物を多くの若い人達にも読んでほしい。しかし先人の知恵に心の底から納得できるようになるためには、個人としてもそれぞれが「熱き思い」を持つ必要があるように思う。

■2006/09/08, 日経産業新聞, 26ページ

猪瀬直樹 道路の決着
猪瀬直樹 道路の決着猪瀬 直樹

小学館 2006-04-05
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おすすめ平均 star
star孤高の作家の姿が勇気と自覚を伝えてくる
starこれぞ改革のお手本!!
star「道路の権力」に続き必読

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◎内閣知財戦略推進事務局長荒井寿光氏――「道路の決着」

「道路の権力」との攻防リアルに

「道路の決着」(猪瀬直樹著、小学館)は、著者が二〇〇一年夏、政権発足間もない小泉首相に旧日本道路公団の民営化を提案してから、〇五年に民営化が実現するまでの、息詰まる戦いの記録である。道路族、国土交通省、道路公団など「道路の権力」との攻防が詳細に描かれている。

旧道路公団は年間売上高二兆六千億円、借金四十兆円で、毎年三千億円の税金が投入されていた。これを破産会社と見て多額の税金を投入するのか、道路建設の抑制と経費削減で再生を図るのかをめぐり、民営化委員会は対立し、空中分解。しかし著者は委員会を委員懇談会に切り替え、世論をバックにあくまでも税金を投入せずに民営化を追求。民営化された会社は通行料金を値下げするだけでなく、わずか半年で三百億円の税金を納入するなど既に大きな成果を上げている。

道路公団の民営化の過程で生じた総裁更迭、副総裁逮捕、談合摘発などの事件や、委員会内部での対立、利権グループ間の泥仕合などが、ここまで書いてよいのかと思うほど個人名を入れて生々しく書かれている。本書は大きな国策会社の再建物語であり、その進め方には色々な批判もある。ただ再建戦略の立て方やコンセンサスの作り方、修羅場での戦い方などは、経営危機に陥っている民間会社の再建の場合にも参考になるであろう。

■2006/08/11, 日経産業新聞, 15ページ

チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える
チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える渡邊 奈々

日経BP社 2005-08-04
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おすすめ平均 star
star内容が軽い。
star世の中を変えている人たちが確かにいる。
star救われる思い!

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◎デンソー会長岡部弘氏――「チェンジメーカー」、世界を動かす社会起業家

「日本人には自分より恵まれない人たちに対するコンパッション(同情を越えて他人を思いやる心)が無い」。米国の友人の一言がこの本を書くきっかけになったと、あとがきにある。その意味を探るため、写真家である著者は「ソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)」十八人にインタビューした。

ソーシャル・アントレプレナーとは、世界の恵まれない人達に持続可能な援助の手を差し延べる事業を起こした起業家を意味する。持続可能な援助は、ボランティアや寄付活動などに留まらず、ビジネスとして永続できるシステムをつくり上げることが大切だ。こうした活動を専門に続けている非政府組織(NGO)・非営利組織(NPO)の人達を著者は「チェンジメーカー」と呼ぶ。

活動事例の一つが「アキュメン・ファンド」。「安全な飲料水」「公衆衛生技術」など途上国で緊急に解決策を求められている分野に限定して資金援助をする。例えばタンザニアでマラリアの予防で最も有効な殺虫蚊帳を生産するAtoZ社への支援では、同社が一枚五ドルのコストで年間百万枚の生産を可能にし、安い価格で多くの人々が購入できるようにしたという。

こうした活動の一つ一つが感動的であるが、この中に三人の日本人の事例が取り上げられているのも嬉しい。是非多くの人に読んでもらいたい。

■2006/08/04, 日経産業新聞, 22ページ

赤ちゃんの値段
赤ちゃんの値段高倉 正樹

講談社 2006-06-20
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おすすめ平均 star
star闇ルートまでは追いきれていないが。。。
star少子化問題の陰で、野放し垂れ流し状態の赤ちゃん斡旋
star養子の実態に切り込んだルポ

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◎弁護士渥美雅子氏――「赤ちゃんの値段」、養子斡旋の実態を調査

驚くべき事実である。合計特殊出生率一・二五という少子化時代に、日本で生まれた赤ちゃんが海外に売られていくという。不倫の子、レイプされて出産してしまった子など、望まない妊娠の果てに生まれてきた赤ちゃんが、養子斡旋(あっせん)業者の手を経て、海外に“輸出”されているらしい。そして、養親側に高額な手数料を請求したり、寄付を強要してトラブルになったり、「脳性まひの障害を隠したまま斡旋された」として裁判になった例もあるとか。

養子斡旋事業をする旨、都道府県に届け出をしている団体が幾つかあるが、こうしたトラブルはむしろ無届けでやっているモグリの団体に多いようだ。著者はその事実をアメリカにまで飛んで取材し書き上げた。高倉氏は読売新聞社の記者である。

日本には養子斡旋に関する法律が無いので、人身売買にも等しいこの事実を取り締まるすべもない。

世界各地で悲惨な目に遭っている戦争孤児や災害孤児などの救済を含めて、子どもにとって望ましい養育環境をつくってやるにはどうしたらいいか。それには国や国連機関がかかわるべき部分、非営利組織(NPO)やボランティアが行うべき部分、ビジネスとして成り立つ部分といろいろあるだろう。

そういう事を考えるきっかけとして、ドカンと大きな一石を投じてくれる本といえよう。

■2006/07/28, 日経産業新聞, 22ページ

青い目のサラリーマン、ザイバツを行く
青い目のサラリーマン、ザイバツを行くムルター・ニアル 矢倉 美登里

ランダムハウス講談社 2006-05-25
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おすすめ平均 star
star楽しく読める日本人論

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◎東洋大教授白石真澄氏――「青い目のサラリーマン、ザイバツを行く」

外国人社員が見た日本企業

経済の国際化に伴い、日本企業で働く外国人の数は増え続けている。独特の文化を持つ日本社会に対して彼らが何を感じているのかを知る機会はそれほど多くない。本書はアイルランド出身のムルター・ニアル氏が、日本企業で働いた十四年間の経験をつづったものである。

現在、ニアル氏は技術翻訳などを手がける会社を経営している。一九八六年に来日、日本政府給費留学生として東京工業大学で博士号を取得した後、財閥系大企業である「ミツビシ」に入社した。

ミツビシで経験した出来事は強烈だったようだ。「毎朝八時二十分になると天井のスピーカーから体操の音楽が流れる。体操の音楽のほかに始業や就業のチャイムに振り回される」「新入社員寮は部屋が狭くて規則だらけ。遅刻しないよう、ちゃんと起きているか確認の電話が二度もかかる」――。社員を成熟した大人とみなさない日本企業の社風になじめない様子がユーモラスに描かれている。

本人の希望を無視した人事異動、細かい決まりにあふれた新入社員の手引き、失敗が許されない雰囲気など、日本社会や企業が抱えている問題を鋭く指摘する。一方で、社員を大切に扱う風土、摩擦が生じにくい年功序列型人事制度など日本企業の良さも認めている。バランス感覚にあふれた書きぶりは好感が持てる。

■2006/07/21, 日経産業新聞, 22ページ

中国古典からもらった「不思議な力」
中国古典からもらった「不思議な力」北尾 吉孝

三笠書房 2005-07
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おすすめ平均 star
star想像していた人物とは違っていました
star忘れていた何かを思い出すことのできる一冊
star論語への橋渡し

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◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏――中国古典からもらった不思議な力

思想家たちの言葉、人生の道標

読者の皆さんは「言葉」に救われた経験はないだろうか。私は大学の入学式の時、不安で泣いていたところに流れた賛美歌に助けられた経験がある。

「闇のようなおそれも 霧のような憂いも みな後ろに投げ捨て 心を高くあげよう」

聞いた途端に目の前がぱっと開けたような気がして、それ以降の大学生活を満喫できたように思う。

「中国古典からもらった『不思議な力』」(北尾吉孝著 三笠書房)には、論語などから引用した中国の思想家たちの、まさに人生の道標となるような言葉がちりばめられている。

歴史というふるいにかけられながらも現在まで残っている言葉には、やはり残っているだけの意味がある。「利の元は義」や「徳は事業の基なり。いまだ基の固からずして、棟宇の堅久なるものはあらず」という言葉を頭の中で反すうしていると、最近おこったライブドアや村上ファンドの事件が思い起こされてならない。

渋沢栄一は「右手にソロバン、左手に論語」と言ったそうだ。国や企業のリーダーとして、最後に大切なのは「人徳」なのに、今の日本は利益や手法を最優先しすぎて「徳育」をおろそかにしてしまっているという著者の言葉が胸に刺さる。

「金もうけは悪いことですか」。その答えも、きっと中国古典が導いてくれるはずだ。

■2006/07/14, 日経産業新聞, 26ページ

脱商品化の時代―アメリカン・パワーの衰退と来るべき世界
脱商品化の時代―アメリカン・パワーの衰退と来るべき世界イマニュエル ウォーラーステイン Immanuel Wallerstein 山下 範久

藤原書店 2004-09
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おすすめ平均 star
star肩すかしを食らいました

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◎デンソー会長岡部弘氏――「脱商品化の時代」、ポスト資本主義を展望

9・11事件以前からアメリカのヘゲモニーは衰退を始め、9・11事件はその傾向に拍車をかけた。その結果、世界の資本主義システムは今や本質的危機に立ち至っており、我々は新しいシステムへの移行の時代を生きている。その行方は不確実ではあるが、根本的な変化に向けての展望が生じつつある――。

「脱商品化の時代」(イマニュエル・ウォーラーステイン著、藤原書店)の内容を要約すればおおむねこのようになる。

国際社会学会の会長を務めたこともある高名な学者である著者は、不確実な将来を考える上での重要な要素として二点を挙げる。「北」の立場に立つダボス会議の精神と、「南」の立場をも含むポルト・アレグレ会議の精神(ブラジルの都市、ポルト・アレグレで開かれた“世界のあり方を改善するための世界社会フォーラム”)だ。

両者の間には大きな断層があり、南北問題、宗教問題なども絡んで混沌(こんとん)とした状況となっている。こうした流れの中で、上記の二つの精神が今後数十年にわたりどのような展開を見せるかによって将来の道筋が影響を受けるという。

なお、書名の「脱商品化」というのは、現在の資本主義システムが、物やサービスの「商品化」を中心に成り立っているが故に、「脱商品化」が将来を占う一つの考え方ではないかという著者の主張に基づく。

■2006/03/31, 日経産業新聞, 34ページ

物理学校―近代史のなかの理科学生
物理学校―近代史のなかの理科学生馬場 錬成

中央公論新社 2006-03
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◎内閣知財戦略推進事務局長荒井寿光氏――「物理学校」

教育に情熱注いだ明治人描く

一八八一年(明治十四年)、東大理学部を出たばかりの若き理学士二十一名が、「理学の普及こそ国運の発展の基礎である」との高い理想を掲げ、後に東京理科大学となる物理学校を創設した。

昼は勤めに出て、夜は無給で教え、しかも施設や実験に必要な資金を持ち出す全くのボランティア活動だ。校舎もなく小学校の教室を借りて石油ランプの明かりで授業。「入れ物は粗末だが、中身はうまい栗(くり)まんじゅう」と言われた名講義。学校を恒久的に維持するため自らに資金の寄付を義務付けた「東京物理学校維持同盟」を作ったが、この名前に彼らの意気込みが感じられる。

日本の近代化は教育の成功により成し遂げられたが、大学でお雇い外国人から外国語の教科書で学んだ舶来の理学を日本語で普及させるため、日本語の教科書を作って若者たちに教える情熱と報恩の使命感には心が打たれる。坂の上の雲を目指し、教育に情熱を注いだ明治の理科学生の波瀾(はらん)万丈の人間ドラマを描く「物理学校」(馬場錬成著、中央公論新社)は、エピソードもふんだんで近代科学史としても面白い。

二十一世紀は知識の時代。知の大競争が始まっている。政府は知財人材を量も質も、十年間で倍増する計画を立てている。人材の育成には、明治の若き理学士に負けない情熱と使命感を持って取り組むことが必要だ。

■2006/03/31, 日経産業新聞, 34ページ

『自分主義』を超えて
『自分主義』を超えて『チーム・ビジネスマン』出版編集委員会 加藤 寛

産経新聞出版 2006-01-20
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◎東洋大助教授白石真澄氏――「『自分主義』を超えて」

「日本再生」へ34人の熱い思い

世に「改革論」は多いが、「『自分主義』を超えて」(「チーム・ビジネスマン」出版編集委員会著、産経新聞出版)とそれらの違いは何か。本書は官民のメンバー三十四人が「日本の再生」をテーマに勉強会を開き、成果をまとめたものである。

執筆にあたったコアメンバーのひとりは言う。「日本の危機解決に残された期間はわずか五年。日本は変わらねばならない。この強い想いを次世代に伝えたかった」

本書は人口減少、財政赤字の拡大、教育の荒廃など、日本の危機的現状をえぐりだし、日本を立て直す壮大な意図を示したものだ。日本を変えるには、個別課題ごとに対応する従来の手法ではもはや限界があり、利益誘導の「政治」、硬直化・肥大化する「官」、政府に依存する「民」の三者がトータルに痛みを分ち合うシステムをつくらねばならないと主張する。

具体的には「二十年後のあなたの生活はこうなる」と我々が直面する未来像を示している。そのうえで日本が目指すべき五つの国家像を掲げ、そのアプローチ方法を説いている。

教育の民営化、教員への多様な人材の登用、競争原理の導入など特に教育改革に対する提言はすばらしい。仕事の合間を縫って真剣にこうした議論をしている人たちが存在することを知り、日本はまだまだ捨てたものではないと感じた。

■2006/03/24, 日経産業新聞, 26ページ

韓国の構造改革
韓国の構造改革高安 雄一

NTT出版 2005-04
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star冷静で緻密な分析とバランスの良い評価が信頼できる

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◎デンソー会長岡部弘氏――「韓国の構造改革」

韓国経済の実態、データで説明

隣国でありながら、日本では韓国経済について正しく理解している人が少ないようだ。一つには近年のアジア経済の発展が中国を中心に論ぜられることが多く、もう一つにはとかくサムスン、LG、現代といった企業グループの躍進に目を奪われ、冷静にマクロ経済を分析した書物が見つけにくいという事情もあるのではないか。

韓国経済は一九九七年のアジア金融危機で大変な苦境に陥った。国際通貨基金(IMF)の厳しい勧告を受け、思い切った構造改革に取り組む。当分の間立ち直れないと見られながらも、結果的には二年ほどで成長路線に戻ることができた。その理由が「韓国の構造改革」(高安雄一著、NTT出版)によってよく理解できた。

著者は九九―二〇〇二年に在韓日本大使館一等書記官を務め、マクロ経済の調査・分析に直接携わった。その経験に基づき多くの統計データを駆使して構造改革の実態を説き明かす。

韓国の構造改革に対する評価は高く、現在日本が進めている構造改革の参考にすべきとの意見もあった。しかし、こうした改革には成功した部分もあれば失敗した部分もあり、幸運に恵まれた部分もあったことがうかがえる。これからのグローバルな経済競争に対応するには、国も企業も「敵を知り、己を知る」ことが大切である。当たり前だが、実態を正しく理解することの大切さを改めて実感した。

■2006/03/03, 日経産業新聞, 30ページ

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