日経産業新聞連載の『私の本棚』を紹介します。

メイン > 日経産業新聞『私の本棚』 2007年1月5日~12月28日

「反社会勢力」があなたの会社を食いつぶす!
「反社会勢力」があなたの会社を食いつぶす!猪狩 俊郎

日本経済新聞出版社 2007-11
売り上げランキング : 51185


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎みずほコーポレート銀行企業調査部アナリスト 棚瀬桜子氏

企業につけこむ相手を見極め

どの企業も反社会的勢力への備えを整えているが、残念ながら被害を受ける企業は後を絶たない。本書は被害を受けた企業を紹介し、反社会的勢力がどこにつけこみ、何を狙っているのかを示している。

新聞やテレビなど日ごろの事件報道では、原因を経営者個人の規範意識や倫理観の問題として片付けられてしまいがちだ。だが、その内実には業績不振とそれに付け入ろうとする反社会的勢力が存在する。

新興企業向け株式市場では「特殊知能暴力集団」が登場し、上場企業から不正に利益を得ようとするほか、証券取引の不正利用による収益をもくろんでいる。彼らは株価により条件が変わる転換社債(MSCB)といった新たな金融商品まで駆使する。

もちろん、証券市場も事態を放置しているわけではない。ジャスダックは反社会的勢力との関係が判明した企業の上場廃止を決め、国は金融商品取引法や会社法で、不正を防ぐための内部統制システムの整備を企業に求めている。

問題は取引の相手方が反社会的勢力だと気付くまでに時間がかかり、気付いた時には既に遅いということである。内部統制システムを構築することは当然だが、「取引の相手方の本人確認」の精度をどう高めるかが決め手になるだろう。リスク管理を怠れば、会社存亡の危機に直面しかねない時代なのだ。

■2007/12/28, 日経産業新聞, 22ページ

元気と知恵の経営 一柳良雄のビジネス進化論
元気と知恵の経営 一柳良雄のビジネス進化論一柳良雄

産経新聞出版 2007-11-26
売り上げランキング : 1771

おすすめ平均 star
star人生論としても大変面白い
star勘所が明快でわかりやすい
star一読の価値あり

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎関西大教授白石真澄氏

会社経営 ヒントの宝庫

様々な書評を執筆し始めてから、友人が執筆した本は紹介しないことをポリシーにしてきた。だが、今回はあえて禁を破りたい。著者である一柳良雄氏は「ビジネスのヒントの宝庫」のような人であり、コテコテの大阪弁とギャグで人を楽しませる才能を持っている。今から約十年前、経済産業省での三十年に及ぶ官僚生活に終止符を打ち、たった二人でベンチャー支援会社を旗揚げした。

天下りすることがキャリア官僚の慣例だった時代に、会社を立ち上げただけでも珍しかったようだ。加えて、過去を断ち切る意味で、会社設立後三年間は古巣の経産省との仕事も控えた。官僚としての肩書がなくなると、潮が引くように、それまで親しくしてくれた人が去っていくなど苦い経験もあった。しかし、持ち前の才能を生かし、今では五十社のクライアントと四十人の知的ネットワークを抱える企業に成長させた。

一柳氏はこれまでビジネスや出演したラジオ番組などを通じて多くの企業経営者に会ってきた。本書ではこうした数々の出会いや自分の経験から得た、ビジネスを成功に導くためのキーワードと考え方を紹介している。他のベンチャー経営者と同様にゼロから起業し、経営を軌道に乗せた著者だけに、「経営とは生き様の反映」といった考え方にはついつい引き込まれてしまう。禁を破った理由はここにある。

■2007/12/14, 日経産業新聞, 28ページ

焼かれる前に語れ
焼かれる前に語れ岩瀬博太郎 柳原三佳

WAVE出版 2007-09-21
売り上げランキング : 370


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏

死体は雄弁である。一見外傷がない変死体であっても解剖してみると、薬物・毒物反応や暴行を受けた痕跡がはっきりと現れる。しかし、変死体の多くは事実上警察官の簡単な検視が済むと、心不全などというあいまいな病名が付けられて葬られてしまう。その結果、多くの事故や犯罪が見逃されていく。

例えば「パロマ事件」。一酸化炭素中毒による死者が出ていたにもかかわらず心不全で片づけられてしまったという。その後に次々と同じような事故が発生して解剖した結果、湯沸かし器の欠陥であることが判明した。

初期の事故の時に死体を解剖して血中のヘモグロビン濃度を測定しておけば、第二、第三の事故は起きなかったはずだ、と本書は指摘する。著者の一人である岩瀬博太郎氏は死体解剖医だ。コンピューター断層撮影装置(CT)を使えば、解剖する前でも遺体内部の臓器の状態や出血している部位を把握することができるという。

日本の場合、解剖のために使うことが出来る国家予算は極めて少ない。これに対してオーストリアのウィーンではすべての変死体を解剖すると言われているが、そこまでしなくても人の死に対してもう少し丁重に扱ってもらいたいものだ。生命保険会社は保険金の不払いで訴訟を起こされるくらいなら、まず死因を明確にするための投資をすべきではないか。

■2007/12/07, 日経産業新聞, 26ページ

できる人の教え方
できる人の教え方安河内 哲也

中経出版 2007-07-11
売り上げランキング : 2129

おすすめ平均 star
starできない人に教えられたくない
star具体的な指南が素晴らしいです
star20年間に蓄積してきた教える技術満載

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎みずほコーポレート銀行企業調査部アナリスト 棚瀬桜子氏

教えることの本質とらえる

部下や後輩に仕事を教えていると、彼らに時間内に効率よく理解してもらう方法がないものかと思い悩むことがある。育った時代で常識の中身は異なってくるし、やる気や基礎学力の個人差も大きい。それでも教える側としては皆に興味を持ってもらい、可能な限り多くを吸収してほしいと思うのだ。

私と同じように多くの人が部下や後輩の指導について悩んでいるのか、上司と部下の関係を示す「コーチング」という言葉が注目されている。「教える」と和訳してきた「ティーチング」とは何が違うのだろうか。一般に知識を授けるのが「ティーチング」で、自分が何をすべきなのかを考えさせて気づかせるのが「コーチング」と定義されている。

外国企業の参入、台頭や業界再編などで競争環境が変わり、教える内容が混沌(こんとん)とし、目標とそれを達成するためのプロセスも不明確になっている。さらに、やる気が起きないといったメンタルヘルスにも考慮しなければならない時代になった。

著者は大学受験予備校の講師として「教え方」を本書で伝授している。予備校は企業と異なり、最終目標と達成プロセスが明確であり、部下のマネジメントにそのまま活用できるわけではない。ただ、教えることの本質はとらえており、本書から上司としての心得を学ぶことはできる。

■2007/11/09, 日経産業新聞, 22ページ

最高学府はバカだらけ―全入時代の大学「崖っぷち」事情 (光文社新書 318)
最高学府はバカだらけ―全入時代の大学「崖っぷち」事情 (光文社新書 318)石渡 嶺司

光文社 2007-09
売り上げランキング : 675

おすすめ平均 star
starでも現実はまだひどい
star内容はいいが、品格がない
star今の時代に必要な情報

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎関西大教授 白石真澄氏

大学に絡む現状 痛烈批判

受験生は一九八〇年以降は減り続けているのに、大学は過去十七年間で二百四十九校も増えた。このためかつては無風地帯だった大学も、受験生獲得で激しい競争を強いられているのが現状だ。本書は昨今の大学事情をまとめたものだが、「最近のバカ学生とその発生要因」、「大学業界のアホっぽいところとその裏事情」、「バカ学生が変わる“化学反応”の瞬間」という三つの観点から著者のユニークな持論が展開されている。

著者である石渡嶺司氏は大学や教育問題、就職活動などをテーマに取材、執筆してきたジャーナリストだ。「偏差値の高低や知名度は関係なく、日本の大学生はおしなべてバカと言ってよい」「大学教職員不能説」など、痛烈な批判が本書には掲載されており、大学関係者の一人である私にとっても耳が痛い話ばかりだ。

しかし、これまでに二百五十以上の大学を取材しているだけに、石渡氏の批判や指摘には共感する部分も多い。これから大学入学を控えている若者や保護者が読めば、大学に進学せずに就職など他のコースを選択するかもしれない。

大学を含めた教育行政を担当する文部科学省に対しても、「理念だけで、どこまでも突っ走る暴走特急です」とあくまで手厳しい。ぜひ歴代の文部科学大臣や役人にも本書を読んでいただき、感想を聞いてみたくなる一冊だ。

■2007/10/26, 日経産業新聞, 30ページ

仕事のくだらなさとの戦い (そもそも双書)
仕事のくだらなさとの戦い (そもそも双書)佐藤 和夫

大月書店 2005-12
売り上げランキング : 5455

おすすめ平均 star
star現代の職業観に対して的を得ている本

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏

存在理由回復の手引きに

まず題名が奇抜だ。しかも本の帯にも「くだらない働きかた、くだらない働かされかた、くだらない人生からの決別宣言!」とあって、度肝を抜かれるが、内容は極めてまじめな文明評論である。現代の若者たちがニートやフリーターとなって、働きたがらないのはなぜか。かつて仕事人間だった中高年が生きがいをなくしてしまったのはなぜか。西洋哲学が専門の著者は、古今東西の書物を引用しながらその原因を解明してみせる。

資本主義が行き詰まってしまった現代では、戦争も国家の大義名分を失って単なる金もうけとなり、命も人に管理される仕組みとなる。個人が自分自身の創造性を発揮することができる仕事はなく、芸術家ですら注文主の顔色をうかがいながら仕事をするしかない。しかし、人は本来、「新しく何かを始める動物」である。「何かを始める」部分がなくなれば、人が人としてのレゾンデートル(存在理由)を失うのは当然だろう。

それならば、どうやって存在理由を回復するかだ。それはこの本を読んでのお楽しみ。この著者が訳しているハンナ・アーレントの「精神の生活(岩波書店)」をあわせて読んでみるのも良い。会社の労務管理などを担当している人にも本書をお勧めしたい。ノルマやローテーション、効率優先のシステムを一度全部外して、人がどう動くか実験したら面白いと思うが、果たしてやれるかどうか。

■2007/10/19, 日経産業新聞, 22ページ

「No」は言わない! ―ナンバー1ホテルの「感動サービス」革命
「No」は言わない! ―ナンバー1ホテルの「感動サービス」革命林田 正光

講談社 2007-06-21
売り上げランキング : 146969


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎東京商工リサーチ棚瀬桜子氏

サービスの「お手本」実感

ホテルや旅館だけでなく、世界中のサービス業から「お手本」と見なされているのがザ・リッツ・カールトンだ。著者は同社が大阪に進出した際に営業統括支配人だった。現在の日本は外資系の高級ホテルの開業ラッシュで、国内の老舗ホテルや旅館も設備投資に余念がない。ただ、著者はこうした現象をハード面でのサービス向上にすぎないと突き放した見方を示す。

経営破綻したホテルや旅館に再生ファンドが資金を投じて改修し、再オープンさせる動きが最近まで活発だった。だが、宿泊施設が競争優位を保てるかは、接客などソフト面でのサービスにかかっている。ザ・リッツ・カールトンの強みは、サービスの基本精神が書かれている「クレド」と呼ばれるカードを従業員が常に携帯し、実行していることにある。

もはや海外旅行は特別なものではなくなった。世界のホテルのサービスレベルを知り、日本の旅館の良さを見直す人も増えている。消費者の要望は多様化しており、新しい設備を備えたホテルが必ずしも競争に勝つわけではない。このことは宿泊業だけでなく、すべての製品・サービスにもあてはまる。

本書は顧客に対応する際の考え方だけでなく、従業員教育や組織マネジメントのあり方も示唆してくれる。マニュアルの作成と徹底だけでは消費者の支持を得られなくなったことを実感させてくれる本だ。

■2007/09/21, 日経産業新聞, 30ページ

人間山口信夫―信じた道を曲げず
人間山口信夫―信じた道を曲げず綱淵 昭三

中央公論新社 2007-08
売り上げランキング : 2203


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎関西大教授白石真澄氏

要職こなす才、ふんだんに紹介

私事で恐縮だが、旭化成の山口信夫会長を存じ上げてから七年近くになる。ダンディーな着こなしや柔らかな語り口、人のすべてを受け止めるような包容力に魅了される人は多い。一九二四年(大正十三年)生まれの山口氏は八十二歳で、企業経営に加えて日本商工会議所と東京商工会議所の会頭や政府の審議会、民間団体の二百を超す要職を務めているという。

交流を重ねる中で、かねて山口氏のような人材がどのようにして輩出されたのかと非常に興味があった。本書は五十人以上の関係者に取材して執筆されており、その関心にこたえてくれる内容になっている。戦時色の濃い少年時代に陸軍士官学校に進み、終戦後はラーゲリ(収容所)に三年間収容されていた。

帰国後は大学に学び、旭化成の宮崎輝社長の秘書を長い間務めた。秘書時代の苦労やオイルショック直後の困難を極めた住宅事業部時代、商工会議所や政府審議会、民間団体などの社外活動を通じて山口氏の仕事への姿勢や価値観がふんだんに紹介されている。

「現場主義」「聞き上手」「リーダーの人間力」「細事こそ人の心を動かす」――。本書で紹介している山口氏自身の言葉や周囲の評価から、ビジネスマンなどは多くの示唆を得られるだろう。

■2007/09/07, 日経産業新聞, 22ページ

現場に「解」あり!―中小企業の“連携”が未来を開く
現場に「解」あり!―中小企業の“連携”が未来を開く山口 義行

中央公論新社 2007-06
売り上げランキング : 7522


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏

中小の将来性・魅力に迫る

テレビ東京の番組「ワールドビジネスサテライト」に「トレンドたまご」という人気コーナーがある。ヒットの可能性を秘めた新商品や新技術を紹介する企画だ。大企業もよく登場するが、中小企業の応援が本来のコンセプトだ。取材を通じて、驚くほど小規模で少人数の企業が革新的な技術を開発している様子などを目にし、日本の底力を思い知らされたことがある。

本書は経済産業省の「新連携支援」政策を分析したものだ。新連携とは、異分野の中小企業が各自の強みを持ち寄ってひとつの事業体のように活動し、高付加価値の商品・サービスの提供を目指すことを指す。新連携を成功させるために国がアドバイスや資金援助するのが新連携支援政策だ。

新連携に参加する中小企業各社の強みは何か、どの部分を生かせば市場のニーズに応えられるのか。アドバイザーは新商品・サービスの開発のための仕組み作りに奔走する。本書ではそうしたアドバイザーの努力の結果、メッキ工場の技術をベースにした安全で簡単に操作できる消火器が完成する様子が描かれており、とても興味深い。

多くの中小企業は後継者問題を抱える。子が事業を継ぎたがらない一番の理由は「将来性や魅力がないから」だという。だが、本当にそうなのか。自社の枠を超え挑戦することが、将来性や魅力を見いだすことにつながると本書は教えてくれる。

■2007/08/31, 日経産業新聞, 26ページ

借りたカネはやっぱり返すな!
借りたカネはやっぱり返すな!金野 力/神山 典士 八木 宏之

アスコム 2007-06-01
売り上げランキング : 4375

おすすめ平均 star
star破産してはいけない。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎東京商工リサーチ経済研究室長棚瀬桜子氏――借りたカネはやっぱり返すな

過剰債務者再起の知識解説

本書は合法的に債務を圧縮するノウハウ本として売り出されており、過剰債務を抱えてしまった法人や個人が再起するために必要な法知識を事例を交えて解説している。ただ、著者が最も伝えたいのは、借金を返すために借金を重ねてはいけないということであり、本書の奇異な書名もそこに由来する。

金融機関は不良債権を処理する過程で、窮地に陥った企業の債権放棄要請に身を削る思いで応じてきた。産業再生機構に始まり、事業再生ファンド、中小企業再生支援協議会、地域力再生機構など事業再生を目的に掲げた組織も相次いで登場した。事業再生には債務圧縮が不可欠との認識は定着したと言えるだろう。

それでもお金を巡るいざこざは絶えない。「不十分な審査で貸した方が悪い」と借り手が言えば、「返済できる見込みもないのに借りた方が悪い」と貸し手が反論するなど責任のなすりつけ合いは今もそこかしこで起きている。

過剰債務を抱えた企業が貸し手に債権放棄を納得させたとしても、それだけでは雇用は守れない。まして地域経済の衰退に歯止めをかけることなどできない。合法的に借金返済から逃れることはできても、借りた側が自らの責任を感じていなければ、周囲の協力は得られず事業再生は決して成功しない。いずれまた、お金の問題でしっぺ返しを受けることになるだろう。

■2007/08/24, 日経産業新聞, 22ページ

職場砂漠 働きすぎの時代の悲劇(朝日新書 58) (朝日新書 58)
職場砂漠 働きすぎの時代の悲劇(朝日新書 58) (朝日新書 58)岸 宣仁

朝日新聞社出版局 2007-07-13
売り上げランキング : 50255

おすすめ平均 star
star新自由主義がもたらした、負の遺産を具体的に書かれている

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎関西大教授白石真澄氏――「職場砂漠」岸宣仁著

疲弊する雇用の現場に警鐘

グローバル化が進み、M&A(合併・買収)が増える昨今、職場環境が激変してストレスを感じるサラリーマンが増加している。昨年度の労働経済白書をみても、とりわけ男性の壮年層に長時間労働の傾向がみられた。「仕事の成果が過度に重視される」「仕事量が多く、時間も長い」「責任が重すぎる」などを理由に、仕事に疲れを感じている人の割合が多いことが示された。

本書は精神的に追い詰められたサラリーマンの実態をルポすることで、疲弊する雇用の現場を伝える。現状を放置すれば、日本経済の屋台骨が揺らいでしまうと警鐘を鳴らす。著者はフリージャーナリストの岸宣仁氏。新聞記者時代には自動車・電機業界などを取材、その後も雇用や技術開発分野などの現場をリポートしている。

度重なる上司の叱責(しっせき)で自殺した建設会社の営業所長、「君の働き方が気に入らない」と解雇された三十歳代の男性など、それぞれのケースからは「砂漠化した職場」の姿が浮かび上がる。

解決策として、著者は「企業はセーフティネットの整備を進め、個人は自分の人生を持つなど、当事者努力によってWin―Winの仕組みを作れ」と指摘する。過労死が「Karoushi」として、英語でそのまま通用するような悲惨な実態を放置してはならないと強く感じる。

■2007/08/03, 日経産業新聞, 22ページ

本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖
本当はヤバイ!韓国経済―迫り来る通貨危機再来の恐怖三橋 貴明

彩図社 2007-06
売り上げランキング : 333


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎東京商工リサーチ経済研究室長棚瀬桜子氏―「本当はヤバイ!韓国経済」

現地企業に厳しい評価

テレビドラマをきっかけにした韓流ブームで日本人にとって身近になった韓国。昨年は約二百三十一万人の日本人が韓国を、約二百三十六万人の韓国人が日本をそれぞれ訪れている。にもかかわらず、日本のメディアは韓国経済の実態をこれまでほとんど報道していないように感じる。

著者は韓国経済が深刻な不況に陥っていると断言する。財閥企業を中心とする韓国企業は国内で独占的に利益を確保し、海外ではシェア拡大を狙って薄利多売に走る。半導体や薄型テレビなど韓国企業が高いシェアを持つ製品でその傾向が顕著で、現在のように自国通貨ウォンの為替相場が高くなると打撃を受けてしまうというのが著者の分析だ。

さらに労働生産性の低さや経営に非協力的で「労働貴族」と呼ばれる労働組合幹部の存在、原油価格上昇の影響を受けやすい体質なども韓国経済の弱点として列挙する。

韓国と同様に加工貿易立国である日本も、かつて円高不況で苦しんだ経験を持つ。しかし、日本企業は苦境の中でも研究開発費をひねり出し、独自技術を地道に磨いた。バブル崩壊後には聖域だった人件費にもメスを入れた。

本書の韓国企業への評価は厳しすぎるように思うが、両国の企業行動を比較すると、日本企業が努力の結果、強くなったことを改めて実感する。

■2007/07/13, 日経産業新聞, 26ページ

新たな疫病「医療過誤」
新たな疫病「医療過誤」ロバート M.ワクター ケイヴェ G.ショジャニア 原田 裕子

朝日新聞社出版局 2007-03
売り上げランキング : 16184

おすすめ平均 star
starおもしろい
star答えはないが考えるきっかけとして是非

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏――「新たな疫病『医療過誤』」

企業にも危機管理のヒント

医療過誤はなぜ起きるか。防止するにはどうすれば良いかを、経験豊富な医師二人が書いた。例えばカルテの書き間違いで違う足を切断してしまったケースや、血液型O型の重症心臓病患者にA型の提供者の心臓を移植してしまったケースのほか、医師の診断が異なったことから救命措置が遅れ患者を死に至らしめたなど様々な事例が挙げられている。

こうした事例が多発する状況は、エイズや重症急性呼吸器症候群(SARS)のような新たな疫病がまん延していく状況に似ていると著者は指摘する。このため米国では医療過誤に関する訴訟が急増し、それを補てんする損害保険の保険料は上がるばかりだ。

医療過誤に関する事例が訴訟になり社会的な注目を集めることで、一面では医学における治療などのレベルを上げる効果が期待できる。その一方で医師たちが治療などに防衛・消極的になるというマイナスの側面もある。

ジレンマをどのように解消することができるか。著者は手段の一つとして、労災補償に似た無過失責任補償制度を作ることを提案する。「人は過ちをおかすものである」ということを大前提として、医師と患者が共同で救済システムを作るべきだと主張する。この本で紹介された病院の医療過誤を防ぐ取り組みは、企業にとっても危機管理に関するヒントになりそうだ。

■2007/07/06, 日経産業新聞, 22ページ

インド人に学ぶ
インド人に学ぶ斎藤 親載

学生社 2007-05
売り上げランキング : 1780


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎関西大教授白石真澄氏―「インド人に学ぶ」斎藤親載著

特異性とたくましさ

インドの影響力の大きさは、人口やその分布を考えただけで容易に想像がつく。約十一億人を誇る世界二位の人口は、二〇三五年までに世界最大となり、五〇年には十五億人を超える見通し。人口抑制策をとらないインドは少子化と無縁で若い労働力は今後、五億人を超え、間違いなく経済成長と消費をけん引する。

さらに華僑がアジア諸国に集中するのに比べ、印僑は北米、英国など世界に細かく分布する。東京の西葛西にも千人を超えるインド人が居住。「グローバル時代の世界の拡大は、インド人を知ることからはじまる」と著者が指摘するとおり、インドを避けていては経済面で生き残れないのは明らかだ。

著者は商社勤務時代から三十年来、インドとのつきあいを重ねてきた。誇り高く確とした生活信条のなかに生きるインド人との交流、理詰めでしつこいインド人に悩まされた体験、カースト制度が根強く残る商慣習など、多民族、多言語、多宗教、多文化国家であるインドの奥深さや光と影が描かれている。

著者は民族のるつぼのインドを多くの材木ででき、どんな衝撃でも沈まぬ筏(いかだ)にたとえ「筏の靱帯(じんたい)は強く、ひとつの国家意識をなしている」という。貧困や宗教抗争、カースト間トラブルなどを自浄しながら、びくともせずに生きているインドの特異性とたくましさが理解できる一冊だ。

■2007/06/15, 日経産業新聞, 22ページ

四十五歳の前座―女講釈師駆歩記
四十五歳の前座―女講釈師駆歩記宝井 琴嶺

文芸社ビジュアルアート 2007-03
売り上げランキング :


Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏――「四十五歳の前座、女講釈師駆歩記」宝井琴嶺著

コツコツ、世の中甘くない

著者のモットーは「登山・観劇・コツコツと講談に励む」だそうである。四十歳で宝井馬琴に弟子入りし、四十五歳で講談協会の前座修業を始める。七年後に真打ちとなり、その三年後には芸術祭賞を受賞する。今や押しも押されもせぬ大看板だ。

最近、講談師や噺家(はなしか)、様々な芸人の修業ぶりを書いた本がたくさん出版されているが、この人の本はひと味違う。高校卒業と同時に新劇の劇団に入った経験があるから、いきなり趣味が高じて新たな世界に飛び込んだという訳ではないにしても、四十五歳で芸能界に飛び込みプロの芸人になるというキャリアはやはり珍しい。

しかもピースボートの水先案内人として世界をまわったり、登山やお遍路さんをしたり、時には俳優の津川雅彦さんや朝丘雪路さんが出演する大衆演劇に参加しながらである。

今まさに再チャレンジの時代であり、官民をあげて奨励している。再挑戦を考えている人にとって、大いなる勇気を与えてくれる本である。何歳からでも遅くはないが、再チャレンジにはそれなりの覚悟とウオームアップが必要だという事も教えてくれる。世の中は甘くはない。

この本はまた、著書の旅のエッセーとして読んでもおもしろい。「講談師とはこのような物の見方をするのか」という新鮮な発見がある。

■2007/05/25, 日経産業新聞, 22ページ

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち
下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち内田 樹

講談社 2007-01-31
売り上げランキング : 925

おすすめ平均 star
star面白いが、思いつきのニート論
star低レベル
star『消費主体と時間』が相応しいタイトルかと

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎テレビ東京アナウンサー大江麻理子氏―「下流志向」

新入社員教育の参考に

大卒新入社員の約三割が入社して三年以内に会社を辞めるという。ある会社の人事担当者が「時間をかけて経験を多く積まなければ学べないことがたくさんあるのに」と嘆いていた。彼によると、最近の新入社員は「どうすればすぐにうまくできるか」「どうすれば痛い目に遭わずに済むか」など即効性があって、そつなく仕事をこなすための質問しかしないという。

本書を読み、彼らがその種の質問をする理由が分かった気がした。消費者がおカネを使うことで得る「法外な全能感」を今の若者は幼いころに知ってしまい、すべての事象に「等価交換」という概念を当てはめようとするのだと著者は説く。

等価交換には時間差があってはならない。おカネを払ってすぐに商品を受け取れないとイライラするからだ。若者は学んですぐに、その効果を得られる「無時間的学習」を求めているのだ。だが、学びには一定の時間が不可欠であり、等価交換という概念は当てはまらない。

最近の若者が勉強しなくなった背景にはこのような事情がある。「最も少ない労働(努力)で、最も多くの利益(成果)を出すこと」を最善と考えているのなら、その思想をまず正さなくてはならない。

配属された新入社員の教育が本格化するこの時期、教育する立場の人も、教育を受ける立場の人も一度読むことをお勧めしたい一冊だ。

■2007/05/11, 日経産業新聞, 22ページ

メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学
メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学松永 和紀

光文社 2007-04-17
売り上げランキング : 859

おすすめ平均 star
star意外な側面が

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎関西大教授白石真澄氏――「メディア・バイアス」

情報の「取捨選択」に注意

「○○に効く」「健康に良い」と有名なテレビ番組が放映すれば、夕方のスーパーから特定の商品が消える。それほど私たちはマスコミの情報に影響を受けている。最近では「納豆ダイエット」で研究者のコメントやダイエット体験者の検査データを捏造・改ざんした某民放局もあった。

しかし、これは単なる一組織の問題ではなく、テレビを批判するほかのメディアなど「センセーショナルな話題に引っ張られるメディア構造、取材側の不勉強や勘違い、それを利用する企業や市民など、さまざまな要素が絡んでいる」と著者は警告する。

著者は大学院で農芸化学を専攻し新聞記者を十年務め、現在はフリーの科学ライターとして農業・食品・環境分野などを取材している。多種多様な情報の中から都合の良いもの、白か黒か簡単に決めつけられるものだけを選び出し報道する情報の取捨選択を「メディア・バイアス」と呼ぶそうだ。「中国野菜騒動」「紅茶は○でも、ミルクティーは×」「環境ホルモン作用は確認されず」など、具体例を元にメディア・バイアスの構造を解き明かす。「科学報道を見破る十カ条」も盛り込んだ。

現在、日本人の食生活は大きく変化し、新しい食品が続々と登場し情報も氾濫する。本書を読めば健康情報に安易に踊らされない賢い視聴者になれそうだ。

■2007/04/27, 日経産業新聞, 26ページ

林住期
林住期五木 寛之

幻冬舎 2007-02
売り上げランキング : 4324

おすすめ平均 star
star「第三の人生」を迎える、ということ
star定年は、人生の臨終期ではない。
star人生を充実させるための提言

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏――「林住期」五木寛之著、団塊へ哲学的メッセージ

古代インドでは人生を四つの時期に分けて考えたという。「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」の四つだ。「学生期」はいわば青春で、心身を鍛え学習し、体験を積む時期だ。「家住期」は社会人や家庭人として働く。「林住期」は社会的・家庭的義務から解き放たれて、自分のやりたいことを自由にすることができる。「遊行期」はその後に続く自然の成り行きに身を任せて生きる時期だ。

著者は人生を百年と仮定して、この四つの時期を二十五年ずつに分ける。そして五十歳から七十五歳までを「林住期」として、この期間の生き方を考え直そうと提言する。

例えばロシアの作家トルストイは晩年に家出して旅先で死んだ。親鸞の妻である恵信尼は晩年になって老いた親鸞を京都に残し、越後に移り住んだという。彼らに何があったのかは定かではないが、この本は団塊の世代をはじめとする前期高齢者に向けた哲学的メッセージだ。

職から離れ、家族ともやや距離を置いて何をするか。凡人にはトルストイや恵信尼のまねはできないが、まだエネルギーのあるこの時期に、ぜひやっておきたいことがあるのではないだろうか。

林住期の人々が自分に向けてそんな問いを発するなら、それをどのように実現するか。そのニーズに寄り添って考えてみれば、思わぬビジネスチャンスに行き当たるかもしれない。

■2007/03/30, 日経産業新聞, 34ページ

生かされて。
生かされて。イマキュレー・イリバギザ スティーヴ・アーウィン 堤江実

PHP研究所 2006-10-06
売り上げランキング : 690

おすすめ平均 star
star祈りの本
star祈る力
starどんな苦境な中…

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎東洋大教授白石真澄氏―「生かされて。」イリバギザ、アーウィン共著

憎しみのない世界を願う

一九九四年、ルワンダでは百日間に百万人のツチ族が多数派のフツ族によって虐殺された。同じ人間同士で、ここまで憎しみ合い残酷になれるのか。「子どもたちは苦しんで死ぬように足を叩き切った後、生きたまま放置され、赤ん坊は岩に打ち付けられる」。本書には殺戮(さつりく)やレイプなど、身も凍るような事実が記されている。

大量虐殺の事実を政治的にとらえた類書は多いが、本書がそれらと異なる点は、イマキュレー・イリバギザという一人のツチ族女性の内面を通して、当時を描いていることである。彼女は絶望の淵にあっても魂の奥深くを見つめ、カトリック教への信仰と勇気と柔軟さを持ち続け、決してあきらめなかった。

イマキュレー自身も、両親と兄、弟を殺害され、クロゼットほどの広さしかない小さなトイレに七人で身をかくして生き延びた。現在、彼女はアメリカに移住し、国連で働き、虐殺や戦争の後遺症で苦しむ人を癒すための基金を作る活動をしている。

「私たちの命はつながっていて、私たちは他の人の経験から学べる。たくさんの人々の魂の役に立てたらと祈りながらこの物語を書いた」――。作者が言うように、本書を読めば、憎しみや敵対、紛争が世界からなくなることを願わずにはいられない。

■2007/03/09, 日経産業新聞, 22ページ

不都合な真実
不都合な真実アル・ゴア 枝廣 淳子

ランダムハウス講談社 2007-01-06
売り上げランキング : 10

おすすめ平均 star
star「見ざる言わざる聞かざる」の20世紀の金の延べ棒重視の文化から、『地球の重み』を重視した正しい確かな行動の21世紀へ
star新しいことは何もない
starゴア氏が、、、

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏――「不都合な真実」アル・ゴア著

温暖化の実像、丁寧に紹介

同名の映画が今、全国で上映されている。見てから読むか、読んでから見るか。私は読んでから見ることをお勧めする。

著者のアル・ゴア氏は誰もが知っている元アメリカ副大統領。クリントン政権時代に副大統領をつとめ、二〇〇〇年に大統領選に出馬し、ブッシュ現大統領と争って小差で敗れた人。その人がライフワークとして持っているテーマが「地球温暖化を早期に食い止めなければ」ということだ。沢山の実例を紹介し、さほど危機感を持っていない人々の論調にもひとつひとつ丁寧に反論しながら、地球温暖化防止に向けて誰もができることをすぐに始めようではないか、と呼びかける。

私はこの本に載っているキリマンジャロの写真を見てショックを受けた。一九七〇年と二〇〇五年を比べると明らかに違う。九三年に私はこの山に登りに行ったが頂上直下にまだ少し氷雪があった。しかし、あと十年たつと雪は全くなくなってしまうという。この恐ろしくも「不都合な真実」を皆が一刻も早く直視しなければなるまい。そして何をすればこれを食い止められるかを真剣に考える時、新しいビジネスチャンスも生まれてくるだろう。ハイブリッドカーや省エネ型の電化製品などはその例だ。

この本を翻訳しているのはエコジャーナリストの枝廣淳子さんだが、その平易で的確な訳が良い。

■2007/02/02, 日経産業新聞, 22ページ

加賀屋の流儀 極上のおもてなしとは
加賀屋の流儀 極上のおもてなしとは細井 勝

PHP研究所 2006-08-26
売り上げランキング : 4103

おすすめ平均 star
starサービスの原点は同じ
starサービス業のバイブル
starおもてなしの極意

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎テレビ東京アナウンサー 大江麻理子氏――「加賀屋の流儀極上のおもてなしとは」

経営者と社員に深い信頼

担当する情報番組で温泉地を数多く取り上げてきた。最近は個性的な温泉宿が増えている。そうした宿の宿泊費は驚くほど高いことが多いのだが、人気は総じて高く、数カ月先まで予約で満杯だったりする。

人は何を求めて大枚をはたいて温泉に行くのだろう。その答えを探して本書を手に取った。本書が取り上げているのは石川県の和倉温泉にある温泉宿の加賀屋。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館百選」で一九八一年から二十六年連続で総合一位に輝いている、まさに日本一の宿である。

加賀屋を舞台に繰り広げられるエピソードにホロリとしてしまった。本書を読み進めてわかったのは、日本一のおもてなしが経営者と社員の信頼関係で成り立っているということだ。

経営者が社員の面倒をとことん見て、社員が仕事に没頭できる環境を整える。社員もそれに応えて加賀屋を愛し、進んで働くようになればマニュアルはいらなくなる。「加賀屋ならでは」と称賛されるサービスのほとんどは客室係の裁量に任されており、そのことが客の感動を呼んでいる。

社員の顔が見えている経営者は、その先にいる「まだ見ぬ客」の顔も見えるのだ。「お客様を大切に思うなら、その方々を接客する社員たちが何よりも幸せでなければならない」という加賀屋のおかみの言葉はどんな企業にも当てはまるだろう。

■2007/01/26, 日経産業新聞, 22ページ

10歳の放浪記
10歳の放浪記上條 さなえ

講談社 2006-11-30
売り上げランキング : 5834

おすすめ平均 star
starこれは現代人へのエールだと思う
star愛情あふれる本

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎東洋大教授白石真澄氏――「10歳の放浪記」

支えられ生きることに感謝

時代は昭和三十五年。ホームレスとして過ごす十歳の早苗は、学校に通うこともままならない。日雇いの仕事で生活費を稼ぐ父と、簡易宿泊所を転々としていた。本書には貧しい境遇ながらも、少女が希望を持ち、たくましく生きる姿が描かれている。

著者は児童文学作家の上條さなえさん。教員を経て、作家生活の傍ら、埼玉県の児童館館長もつとめた。たくさんの童話や講演を通じて家族のふれあいの大切さを伝え、子どもの心を代弁してきた。

「死のうか…もう金がないんだ。明日の朝、ここを出たら、行くところがないんだ」――。父の言葉にショックを受け、父を助けるためにパチンコ屋で玉を拾うこともあった。しかし、池袋のドヤ街で、早苗と父を支えてくれたのは、床屋のお姉さんややくざのお兄さんといったまわりの人々だった。

放浪の後に入ることになった養護施設でも、少女は人の優しさに触れる。「おいしそうなパンを持ってきたんだねえ。先生、あんぱん大好きなんだ。僕の弁当と、あんぱんと交換してくれないかなあ」と、施設の山下先生は、弁当を持ってこられない早苗を気遣った。

「人間はひとりぼっちじゃない」。いじめなど教育問題が叫ばれて久しいが、読む側がまわりに支えられて生きていることに感謝したくなる、心温まる一冊 である。

■2007/01/19, 日経産業新聞, 26ページ

裁判長!ここは懲役4年でどうすか
裁判長!ここは懲役4年でどうすか北尾 トロ

文藝春秋 2006-07
売り上げランキング : 18177

おすすめ平均 star
star傍聴に行ってみよう!
star年の終わりの
star裁判の様子が良く伝わってきます。お勧め!

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

◎弁護士渥美雅子氏――「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」

裁判を“ショー”仕立てに構成

ふざけたタイトルだが文句なく面白い。著者は二十五件の裁判を傍聴し、傍聴席からみた被告人、裁判官、検察官、弁護人の言動をマンガチックに描写し、その感想をつづる。裁判を徹底的に“ショー”として見てやろうという魂胆だ。最近は法廷傍聴マニアも多く、その人たちが集まる「霞ヶ関倶楽部」とかいう同好会もあるそうで、ベテランになるとほとんどの事件の判決予測ができるという。そこで「裁判長!ここは懲役四年でどうすか」とくる訳だ。

間もなく裁判員制度が始まる。自分が裁判員に指名されたら参加したいかどうか、現時点でアンケート調査をすると回答はほぼ半々だ。だが、制度が始まればいや応なしに順番が回ってくる。ならばいっそのこと「生のドラマをタダで見られるチャンス」と割り切って参加した方がいい。従業員がそのための休暇を請求してきたら、企業側も迷惑がらずに「またとない社外研修のチャンス」と受け止める方がいい。個人が市民としての責任を容易に果たせる企業風土をつくることも企業の社会的責任(CSR)の一端だろう。

いっそ株主総会なども見直してみたらどうだろう。質問もなくシャンシャンと終わるより、ショーとして見応えのある総会を演出してみるのも一興だ。やましいことさえなければ怖くはない。案外ビジネスヒントになる意見が聞けるかもしれない。

■2007/01/05, 日経産業新聞, 26ページ
 
Copyright (C) 2004-2006 Ambitious Kanda, All Rights Reserved.