メイン > 週刊ダイヤモンド『今週の逸冊』 ( 2007年7月7日~9月29日 )
| 拡大するイスラーム金融 | |
![]() | 糠谷 英輝 蒼天社出版 2007-09 売り上げランキング : 15599 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
急速に存在感を高めているイスラーム金融の理論と実務
一〇年前、イスラーム金融という言葉にいささかなりとも反応を示すことができた人は非常に限られていただろう。どこか辺鄙な地方で昔ながらに行なわれている頼母子講(たのもしこう)のようなものだと思われていたに違いない。
ところが、世界は大きく変わったのである。今日、ロンドン、バハレーン、シンガポールという国際金融センターがイスラーム金融のハブとしての地位をめぐって競っている。欧米のグローバル銀行は専門の部局を立ち上げたり、既存のイスラーム金融銀行との合弁を行なったりしてイスラーム金融分野への進出を積極化している。
背景は二つある。一つは、原油価格高騰によって湾岸諸国を中心とするイスラーム諸国に巨大な金融資産が集積されたことである。一九七〇年代の石油危機のときも多額のオイルマネーが発生した。しかし、当時の産油国にはこの金融資産を活用する能力がなく、オイルマネーはロンドンやニューヨークの金融市場に流れただけだった。しかし、いまや中東産油国はオイルマネーを自らの手で運用しようという強い意欲と能力を持つに至っている。
第二に、イスラーム世界の国際的存在が大幅に高まったことである。経済力の増大と相まって、イラン、イラク、アフガニスタン情勢に象徴されるような、米国主導のパラダイムへのアンチテーゼとしてイスラーム世界の台頭がある。
イスラーム金融は、コーランに基づくシャリーアという宗教的規範によって律せられているから、われわれがなじんでいる金融手法とは違っている。日本のアジアの隣人にはインドネシア、マレーシア等の大きなイスラーム世界がある。ロンドンやシンガポールでのイスラーム金融の役割拡大は日本にとっても他人事ではない。
本書は、イスラーム金融研究の先駆者である著者が、金融マンとしての実務経験と研究者としての学識を最大限に注ぎ込んだ画期的な労作である。イスラーム金融についての啓蒙だけでなく、将来の課題、日本にとっての意味合いも十分に説かれている。その内容の豊かさは、歴史的な価値を持つ業績といってよい。【評者 行天豊雄 国際通貨研究所理事長】
| 冷戦―その歴史と問題点 | |
![]() | ジョン L.ガディス 河合 秀和 鈴木 健人 彩流社 2007-06 売り上げランキング : 23919 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
善意でも協調でもなく恐怖が核戦争を抑止した二〇世紀
二〇世紀は疑いなく、歴史上最も大量の殺人が行なわれた世紀だった。その前半には二度も 世界大戦が起こり、後半には人類の全滅する最終戦争が起こると多くの人が予想した。
しかし、それは起こらなかった。いわば全人類を絶滅させるダモクレスの剣を頭上につり下 げたまま、人類は半世紀を過ごしたのだ。何がこの奇跡を可能にしたのだろうか?
本書の答えは「恐怖」である。二〇世紀前半までの戦争は、軍によって前線で戦われるもの だった。それを指令する政府や一般の国民は、基本的には戦闘から隔離されていた。しかし、 ある国の指導者が核兵器のボタンを押せば、報復によって彼の国土は壊滅する。そこにはも う「勝利」はないのだ。
こうした恐怖が維持されるには、双方の戦力が均衡し、しかも指導者が合理的であることが 必要だ。朝鮮戦争の頃には、戦力は不均衡であり、マッカーサーは核兵器の使用を主張した が、トルーマンは拒否した。これによって核兵器は「大統領の許可なく使えない特別な兵 器」になった。
冷戦が実際の戦争に転化する最大の危機は、一九六二年のキューバ危機だった。しかし実際 には、フルシチョフは十分なミサイルを持っておらず、これは単なる脅しだったと著者は見 ている。むしろ、この事件によって核兵器は「使えない兵器」だという歴史的事実が確定し たのである。
その後の米国の核戦略の主流は、キッシンジャー流の協調路線(デタント)であったが、こ れはソ連指導部の権力を維持しただけだった。むしろ冷戦を終わらせたのは、レーガン政権 のSDI(戦略防衛構想)をはじめとする軍拡戦略だった、と著者は評価する。これによっ て戦力のバランスが崩れ、それに対抗する経済力がソ連になかったことが、指導部の弱体化 やゴルバチョフの改革を招いたのだという。
この意味で本書は徹底した「核抑止力」論であり、日本の類書によく出てくる「核廃絶論」 や「国連中心論」はまったく出てこない。日本も、こうしたリアルな国際政治力学を学ぶべ きだろう。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】
| 中国を動 かす経済学者たち―改革開放の水先案内人 | |
![]() | 関 志雄 東洋経済新報社 2007-07 売り上げラ ンキング : 73595 Amazonで詳しく見る< font size="-2"> by G-Tools |
中国経済の行き先を決める経済学者一二人の思想と背景
中国にはどんな経済学者がいるのだろう。中国出身で世界的な活躍をしている経済学者は数 多いが、中国本土にあって、中国社会に向けて発言している経済学者には、どんな人がいる のだろう。そして、どんな議論を展開しているのだろう。中国経済の存在が、目を見張る驚 異から半ば自然な情景に変わってくると、ふとこうした方向に関心が向かう。しかし、英語 の文献だけでは偏ってしまうだろうし、中国語の文献となるとなかなか手が出ない。
そんな隔靴掻痒の感に、本書は見事に応えてくれる。ここに繰り広げられる一二人の群像劇 は、改革開放からの中国経済学の歴史そのものであろう。経済学に関心の深い読者には、ま たとない中国経済学史の入門書になるだろうし、そうでない読者にとっても、本書はさなが ら経済学水滸伝の趣をもって、中国経済学への関心を喚起するだろう。
本書によれば、現在の中国経済学の主流にあるのは、思想的には新自由主義、手法的には新 制度主義である。さらに中国は、ロシア的なビッグバン方式を巧妙に回避しつつ、独自の漸 進主義的改革を通じて今日の経済力を獲得した。
登場する楊小凱、張五常、周其仁、(レイ)以寧、呉敬(レン)といった経済学者たちは、 力点に相違はありながらも、こうした思潮を形成し、また支えてきた人びとであって、例外 なく英米の大学への留学経験を持つ。英米留学が盛んになるのはやはり一九八〇年代以降だ から、彼らは新古典派総合ではなく、最初から新制度主義を経験している。その微妙な痕跡 が、文脈を通して語られる彼らの近代経済学像に見て取れる。
他方で、効率重視の新自由主義に対抗する、公平重視の新左派についても本書はバランスよ く解説し、今後は発言力が強くなるだろうと予見している。
今後さらに、環境、格差、製品安全性といった、焦眉の具体的課題に取り組んでいる論者も 紹介されるようになれば、中国経済学の独自な性格がより明確になってくるだろう。その意 味でも本書は時宜を得た、新しいタイプの中国経済入門といえるだろう。【評者 井上義朗 中央大学商学部教授】
地方崩壊再生の道はあるか
日本経済新聞社 (編さん)
「均衡」の「均等」への読み替えが地域社会の崩壊をもたらした
地方が安倍自民に引導を渡した。それが今回の参院選だった。地方はなぜ彼らに愛想を尽か したのか。その背景にある自治体行政荒廃のカラクリを、本書が整理してみせてくれている。
国破れて山河あり。一将功成りて万骨枯る。一国における地域社会の存在を考えるとき、ど うしてもこの二つのフレーズが頭に浮かぶ。
一極集中型の経済は必ずや活力を失う。一極が周辺部を支える負担が大きくて、エネルギー の浪費が起きる。内なる多様性を失った社会は必ずや創造性を喪失する。横並びのなかから、 独創的展開力は生まれてこない。
本書のまえがきにあるとおり、戦後日本の発展過程は「国土の均衡ある発展」を合言葉とし ていた。それなりに理にかなう基本設計だ。ところが、時とともに、「均衡ある発展」は事 実上の「均等な発展」に読み替えられていった。平準化の力が強く働くなかで、地域社会が それぞれに持つ独自性が蝕まれていった。
気がつけば世はグローバル時代。競争の嵐が地方を揺るがす。少子化と高齢化という成熟経 済の衰弱現象も追い打ちをかける。そのなかで、「均衡」転じて「均等」を目指す地方行政 がいかに空回りし、いかに危機助長的に働いたか。このありさまを本書はヒタヒタと描出し ている。
分権推進は、いまや日本の政治のお題目となった。結構なことだ。地球化は地域化だ。ロー カルなレベルに底力なき存在は、グローバルな土俵でまともな相撲は取れない。今、政策の 目が地域に向くのは当然だ。
だが、今の分権推進の動きは、どうもその意図するところが判然としない。方向性は悪くな いが、狙いが定まっていない。間違った理由で正しい解答を選択しているように見える。本 書のおかげで、この点がはっきり確認できた。
「国土の均衡ある発展」を目指した政策は、「国土の均等な発展」政策へと変質し、その行 き過ぎの結果、いまや「国土の不均衡な荒廃」をもたらしている。その制度的・行政的背景 を把握する材料として、資料的価値は大きい。【評者 浜 矩子 同志社大学マネージメン トスクール教授】
| 王朝貴族 の悪だくみ―清少納言、危機一髪 | |
![]() | 繁田 信一 柏書房 2007-04 売り上げランキング : 180753 おすすめ平均 ![]() 王朝貴族の悪だくみ―清少納言、危機一髪<
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| 神は妄想 である―宗教との決別 | |
![]() | リチャード・ドーキ
ンス 垂水 雄二 早川書房 2007-05 売り上げランキング : 427 おすすめ平均 ![]() いや、しかし 批判する立場から<
br /> 本書の意義Amazonで詳しく見る by G-Tools |
当代随一の進化生物学者が神と宗教を徹底的に批判する
本書は当代随一の進化生物学者である、ドーキンスが宗教に真っ向から挑んだ、きわめて刺 激的な書物であり、末永く読まれる古典となることを約束された内容を持った逸冊である。
ドーキンスが宗教、とりわけキリスト教原理主義に反発しているのは、彼の専門分野である 進化論がキリスト教と真っ向から対立しているということと関係している。また、米国のキ リスト教原理主義と中東のイスラム教原理主義の対立が、実際に武力紛争に結び付き、そこ からの出口が見えない状態であることにも関係している。
しかし、ドーキンスの真意は次に要約されていると思う。「宗教上の原理主義者たちは、自 分は聖典を読んだのだから自分の考えは正しいという考え方をする人たちで、何をもってし ても自分たちの信仰が変わることがないと、あらかじめ知っている。それに対して、私が科 学者として真実だと考えること(たとえば進化)は、聖典を読んだからではなく、証拠につ いて調査・研究をおこなった上で、真実だとみなしているのである。もし、それを反証する ような新しい証拠が出されれば、一晩で放棄することになるだろう」。これが、彼が宗教を 退ける決定的理由である。
ドーキンスの基本認識は、宇宙の中でとりわけ特別な位置にあるわけでもない地球に、生命 体が発生し、それが長い進化の過程を経て、人類が誕生し、われわれが今この地球に生きて おり、高度な文明社会を築いてきたということ自体が奇跡であり、途方もない幸運だという ことである。そして、この地球上では、われわれはたった一度の人生しか経験できないとい うことが、命をいっそう貴重なものとするはずであるということである。
本書は決して楽な読み物ではないが、思索にふけるには持ってこいの一冊である。典型的な 日本人であれば、特定の宗教を信じていない方が多いかもしれない。それでも世界の主要宗 教の内容を知りたい方には、中村圭志『信じない人のための〈宗教〉講義』(みすず書房) を併せてお読みになることをお勧めする。【評者 北村行伸 一橋大学経済研究所教授】
| 第三セク ター―再生への指針 | |
![]() | 堀場 勇夫 望月 正光 東洋経済新報社 2007-06 売り上げランキング : 27427 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
公と民を生かし合うための第三セクターの理論と実務
本書では、経済学者や財政学者、法律家、監査法人の代表社員など、さまざまな分野の専門 家がそれぞれの視点から述べている。内容は単なる理論展開にとどまらず、監査や情報公開、 さらには破綻処理などの実務にまで及んでいる。
そもそも第三セクターとは、第一セクター=民間営利部門や、第二セクター=政府・地方公 共団体などのパブリックセクターとは異なり、両者の性格を併せ持つ三番目の集合と位置づ けられる。民間企業の実務的なノウハウを取り込みながら、パブリックセクターからの経済 的な支援を受けて、両者のメリットの積集合として活動を行なうことを目指す組織である。
理念がうまく実現されればよいのだが、実際には、メリットの積集合どころか、経営の非効 率化と赤字体質の長期化という、デメリットの積集合組織になってしまう可能性が高い。本 書の中でも、そうした実態についていくつかの例が示されており、第三セクターという隠れ 蓑の下で、さまざまな不合理が発生しているのがわかる。天下り人材が多く、経済的に公的 支援を期待できるがゆえに、経営自体は長年にわたって赤字を垂れ流しているにもかかわら ず、ただ惰性で活動を続けるケースも数多く存在する。また、天下りの人材受け入れだけの ために、非効率な組織が運営されている例もあるようだ。
そうした問題点はあるものの、今後、少子高齢化が加速するわが国では、シニア層の福利厚 生のために第三セクターを使うことが多くなるだろう。そのとき、現在のようにデメリット の集積する組織をつくっていては、わが国経済全体の効率を著しく低下させることになる。 非効率を防ぐ有効な手立てが必要になる。
そのヒントの一つは、もっとしっかりした経営情報の公開システムだろう。費用負担者であ る納税者が常に見えるよう、経営情報をガラス張りにするシステムを構築するのだ。そのシ ステムによって、納税者はその情報を監視して、是正することが必要と認識する場合には“ 声”を上げればよい。それで、なにがしかの監視ベクトルをつくることになるはずだ。【評 者 真壁昭夫 信州大学経済学部教授】
| 資本開国 論―新たなグローバル化時代の経済戦略 | |
![]() | ダイヤモンド社 2007-06-01 売り上げラン キング : 4837 おすすめ平均 ![]() 切れ味のよい論説
論理の刃 グローバル化と国内経済の関係を明快に描き出した好著!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
日本の脱工業化実現のために資本の国際競争促進を主張
著者は一九九五年に『一九四〇年体制』という刺激的な著作を発表した。戦後の日本経済を 構成する主要な要素は、四五年の敗戦という大変動を契機に新しく生まれたものではなく、 むしろ戦時期につくり出されたのであり、しかもそれが戦後も持続したのだという主張だっ た。特に重視したのは、戦後のさまざまな「改革」にもかかわらず、官僚制度と金融制度が 戦前のままに生き延びているという事実であった。
この主張に対しては当然多くの反発があった。しかし、九〇年代後半の日本経済の深刻な停 滞と、それが否応なしにもたらした二一世紀に入ってからの変化を振り返ると、著者の主張 は革新的先見性を持っていたといえる。
本書で著者は前書に劣らぬ刺激的主張を展開している。著者によれば、九〇年代以降の世界 経済は、情報技術の革命的進歩と国際的直接投資の急増によって新しいグローバリゼーショ ンの時代に入った。特筆すべきは、老化の過程に入ったと思われていたアングロサクソン圏 の工業国が、この流れに乗って脱工業化を図り、高成長と高所得を達成したことだ。
しかるに日本経済は資本面での国際競争にさらされていないため、製品の競争はあっても経 営の競争がない。そのため差別化特性のない製造業に依存する状態が続いている。しかも、 九〇年代の物価下落を国内要因によるデフレと誤診し、金融緩和と円安政策という愚かな袋 小路に自らを追い込んでしまっている。
日本に求められるのは、脱工業化を進め、未来型企業を育てるために企業の国際的流通を活 性化する「資本開国」だというのが主張である。加えて、年金問題や消費税引き上げ、法人 税引き下げ等の政治的課題についても、厳しい、しかし明快な論評を展開している。
主張の多くはきわめて説得的である。目からウロコが落ちる読者も多いに違いない。評者の 唯一の疑問は、著者の主張の行き着くところが結局はアングロサクソン型の市場競争モデル への収斂なのかということである。日本がその道を選択できるのか、選択すべきなのかは日 本人が考えるほかない。【評者 行天豊雄 国際通貨研究所理事長】
| トクヴィ ル 平等と不平等の理論家 | |
| 宇野 重規 <
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特殊な国・米国の光と影をその生い立ちから読み解く
トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』(岩波文庫、講談社学術文庫)は、フランスの貴 族が約二〇〇年前に書いた米国旅行記だ。古典としては誰でも名前を知っているが、学術文 庫版で全三巻、合計一五〇〇ページ以上に及ぶ大著を読破した人は少ないだろう。
本書は、これを現代の米国を理解する手がかりとして読み解く。ブッシュ政権の異様な軍 事・外交路線をネオコンなどの影響で語る人が多いが、その源泉は、じつはトクヴィルの見 た建国当時の米国にすでに芽生えているのだ。
トクヴィルは米国の「条件の平等」に強い印象を受ける。これは所得を同じにするといった 「結果の平等」ではなく、すべての人びとに同じチャンスがあるという個人の対等性だ。デ モクラシーも単なる「民主政治」ではなく、対等な個人からなる階層なき社会だ。トクヴィ ルの母国には革命後も貴族や教権の特権が残っていたが、そういう欧州から来た彼の目には、 米国はまったく新しい原理に基づく社会と映った。
トクヴィルは、この傾向はフランス革命のような「人権」の追求の結果ではなく、富が蓄積 されて多くの人びとに生産手段が行き渡るにつれて必然的に生じる「文明化」の帰結と考え た。このように既得権から自由な人びとの形成する地域共同体は、合理的で透明であり、統 治機構としては理想的だ。
しかし、このように社会的紐帯から切り離された抽象的個人は、その孤独に耐えることがで きるだろうか。この点についてトクヴィルが注目したのは、米国がきわめて宗教的な国であ り、教会が人びとの精神的共同体になっていることだ。しかし、合理的個人がこのような非 合理的共同体にアイデンティティを求めざるをえないところに、彼は米国のはらむ不安定性 を感じ取っている。
こう見ると、トクヴィルの見た米国の光と影は、今日の米国の状況をほとんど予言している ようでもある。そして著者が付け加えるのは、こうした米国という特殊な国の自由と不安を そのまま世界規模に拡大したのがインターネットだということである。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】
| 確率の科 学史―「パスカルの賭け」から気象予報まで | |
![]() | マイケル・カプラン エレン・カプラン 対馬 妙 朝日 新聞社出版局 2007-03 売り上げランキング : 6190 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
経済学の新しい領域を開く確率論をめぐる人間ドラマ
今、経済学で話題にされることの多い新領域、たとえば進化経済学、複雑系経済学、実験経 済学、行動経済学などに共通するのは、いずれも「確率論的」な経済観を持っているという ことだろう。つまり、人間の行動にせよ、経済全体の動きにせよ、これらは方程式の解のよ うに一つに定まるものではなく、同じ状況の下でも複数の可能性がありうる、したがって確 率論的にしかとらえられない現象だと考えている。
これは従来の、経済を方程式になぞらえて読み解こうとする「確定論的」な経済観とはまさ しく対照的である。しかし、確率論的発想自体は決して新しいものではない。二〇世紀初頭 の経済学では、むしろ確率論的経済観のほうが優勢だった。そして、確定論的経済観を代表 する一般均衡理論などが本格的に発展したのは、戦後に入ってからである。してみると、確 定論的世界観と確率論的世界観のあいだには、どうも一筋縄ではいかない歴史のドラマがあ りそうだ。
本書は経済学の本ではないが、確率論的世界観の発展が、どれほど広範な領域を巻き込み、 どれほど人間臭いドラマであったかを、驚くべき数のエピソードを通して理解させる、いや それ以上に実感させてくれる。
著者の一人が放送プロデューサーでもあるためか、どこかテレビシリーズを思わせる語り口 で、古代ギリシャの哲学者からフォン・ノイマンに至る確率論の精神史が、人物ドラマとと もに語られてゆく。デカルトは「脳を正しく機能させるため正午まで寝床を離れなかった」 とか、パスカルが「自分の手紙が長いのは、短くするための時間がなかったからだ」と言っ たとか、思わず噴き出すようなエピソードもふんだんに盛り込まれている。他方でフォン・ ノイマンと原爆とのかかわりも……。
確率論入門であると同時に、どれほど確率に翻弄されてもなお確率へ挑もうとする、人間の 本性を考えようとした本でもあるだろう。それでも、有意検定の本来の意味合いなど、専門 家が心すべき話題も見落としていない。この夏じっくり読みたい好著である。【評者 井上 義朗 中央大学商学部教授】
| 実感なき 景気回復に潜む金融恐慌の罠―このままでは日本の経済システムが崩壊する | |
![]() | 菊池
英博 ダイヤモンド社 2007-06-15 売り上げランキング : 10548 おすすめ平均 ![]() 竹中構造改革の虚妄を暴く決定版!Amazonで詳しく見る by G-Tools |
構造改革と市場原理主義者を痛烈に批判し金融恐慌に警鐘
金融恐慌という言葉を見聞きすると、どうも血が騒ぐ。世にこれほど怖いものはない。その 意味では、血が騒ぐという言い方は不謹慎である。だが、金融恐慌という現象ほど、経済と いう名の生き物の正体を余すところなくわれわれに示してくれるものはない。だから、血が 騒ぐのである。
この怖い現象をもたらす罠が、今の日本経済に潜んでいる。それが本書の警告だ。なかなか 過激な本である。だが、その過激さの足元には、周到に練り上げられた論理構成と、事実の 積み上げによって構築された堅固な土台がある。
小泉改革を小泉改悪と断じ切る筆致には迫力がある。市場原理主義者たちへの怒りの炸裂に も、これまた血を騒がせるものがある。アドレナリンの分泌不足に悩む向きには、まことに お薦めの逸冊だ。まずはこの点に太鼓判を押したい。
そのうえでいうなら、本書の真価は、この爆発的怒りを噴出させている問題意識の底辺部に ある。本書の苦言・提言は氷山の頂点部だ。そのとがった頂点の下には、水面下に潜む大き な底辺部の広がりがある。
この氷山の底辺部が、金融に関する著者の認識の世界だ。そして、恐慌発生の仕組みを徹底 解析した一連の事例研究である。第5章「歴史に学ぶ金融恐慌の教訓」に、この事例研究の 成果が集約されている。
金融という化け物は凶暴だ。牙を剥くとじつに怖い。本書がその怖さのカラクリを多面的・ 有機的に明かしてくれている。
金融なしに経済活動は成り立たない。信用創造がうまく機能していなければ、経済活動は早 晩袋小路に行き着いて消滅する。その意味で、金融は経済活動の命綱だ。だが、同時に命取 りにもなる。金融が持つこの恐怖の二面性こそ、本書の隠れテーマだ。
メッセージ性に富む本書だが、そのなかで、二つの点が最も目を引いた。その一が日本にお ける金融の寡占化問題、その二が地域金融の重要性という点だ。今の日本で、金融が牙を剥 かず、経済の命綱として機能するには、この二点が勘どころだ。この読後感が強く残った。 【評者 浜 矩子 同志社大学マネージメントスクール教授】
| 日本経済 のリスク・プレミアム―「見えざるリターン」を長期データから読み解く | ![]() | 山口 勝
業 東洋経済新報社 2007-03 売り上げランキング : 129473 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最新の理論とデータで解く日本の金融市場に起きる謎
本書は、金融工学と行動ファイナンス理論を用いて、日本の金融市場に起きているさまざま な謎を、解き明かすものである。
その謎は、株式のリスク・プレミアムが高いのはなぜか、割安株のリターンが成長株のリ ターンを上回るのはなぜか、小型株のリターンが大型株のリターンを上回るのはなぜか、日 本の長期金利は低すぎないのか、海外投資は為替リスクに見合ったリターンが得られるのか、 など興味深い。
多くの議論が、理論の紹介、海外、特に米国の事例、日本の長期データによる分析という順 に進むので理解しやすい。
リスク・プレミアムの謎について、日本においても株式リターンは国債リターンを大きく上 回っていたが、それは高度成長期までで、その後のリターンは国債金利並みになってしまっ た。そして株式リターンの減少は、法人税の引き上げによると分析する。ただし、私は、こ の解釈に疑問を持った。法人税の引き上げによってリターンが減少するなら、税の引き上げ 時点で株価が下落し、その後のリターンは減少しないということになるのではないか。
割安株と成長株、小型株と大型株のリターン格差についての分析は興味深い。日本の長期金 利の低さはインフレ率の低さによってかなり合理的に説明できるという。海外投資は為替リ スクに見合ったリターンが得られないという結論は意外だが説得的だった。
各章の分析は手堅いが、総論の主張は、分析と対応していないところがある。総論を読んで、 物価上昇が金利上昇をもたらして国債価格を下落させ、国債を保有する金融機関に損失が発 生することが、一部の金融機関がデフレを望む理由だとわかった。ただし、物価が上がって も預金金利が上がらないから個人が損をするというが、金利が自由化された現在では、そう はいえないのではないか。
本書が縦書きと横書きを併用しているのは、数式の展開を知りたい読者のためなのだろうが、 横書きの部分を読んでもわかりにくいところがある。トータルリターンがどういう意味の恒 等式なのか、理解するのに苦労した。【評者 原田 泰 大和総研チーフエコノミスト】
| 日本国の原則―自由と 民主主義を問い直す | |
![]() | 原田 泰 日本経済新聞出版社 2007-04 売り上げランキング : 126940 お すすめ平均 ![]() 「自由と民主主義」の伝統を尊重するという原則Amazonで詳しく 見る by G-Tools |
歴史や哲学にまで視野を広げ論じる日本国にとっての自由
本書は現在、論壇で精力的に執筆活動を行なっている著者の最新論考である。本書のタイト ルにあるとおり、内容は経済に限らず、政治、文化、歴史、哲学を縦横に織り込んだきわめ てユニークな日本論になっている。
アカデミズムの世界では専門領域の蛸壺に入り込んで、なかなかそこから抜け出せないのが 普通であるが、著者はもともと経済企画庁で日本経済全体を見渡すことを仕事としてきてお り、また個人的な興味からか、歴史も古典から現代書までを自由に渉猟し、分野を超えた議 論をすることにいささかの躊躇も見られない。
本書の主張は、自由こそが国家発展の鍵であり、自由を保証するかたちでの民主主義の維持 が、日本国にとって最も重要だということである。それさえ確保できれば、少子化になろう が、地域紛争が勃発しようが、なんとか対応していけるだろうという建設的な楽観論で貫か れている。
全体的な歴史的、政治的判断はきわめてオーソドックスでありバランスが取れている。たと えば、日本軍が満州国で行なったことは、日本国民の貧困を救済する意味でも、東北中国の 発展に寄与するという意味でもまったくの失敗であったと手厳しい。一部の歴史学者による 満州国およびその統治機構を礼賛するような修正主義にはいっさい与していない。著者は教 育についても「型」を身につけることが大切で、個性やゆとりは「型」を突き抜けたところ にしかありえないと指摘しているが、これも、まったく同感である。
著者は自由が大切だとは言っているが、それは無制約に享受されるべきものであるとは言っ ていない。むしろ、人は制約を受けることで、そのなかで比較優位を見つけ、それに特化す ることで生きる道を見つけるべきだと主張しているように思う。日本国民は、島国で天然資 源に恵まれず、地形的に平地は少なく、しかも自然災害の脅威にさらされている環境下で、 土地の有効利用、貿易立国の必要性、教育を通した人的資本の重視などの生き方を、紆余曲 折はあったにせよ、理解し選択してきたということであろう。【評者 北村行伸 一橋大学 経済研究所教授】
| 新帝国主 義論―この繁栄はいつまで続くか | |
![]() | 武者 陵司 東洋経済新報社 2007-04 売り上げランキング : 640 おすすめ平均 ![]() ワン・ワールド経済体制を解き明かし
た快著 武者陵司が書いた世界経済の見通しAmazon で詳しく見る by G-Tools |
旧来の経済学では説明不能な事象を読み解く新パラダイム
センセーショナルなタイトルだが、現在の世界経済を理解するための新しいパラダイムを提 示するものだ。副題の「この繁栄はいつまで続くか」のほうが、本書の内容を的確に表して いるだろう。
この数年、世界経済は高成長を達成し、同時に株式や債券などの金融市場は安定した展開を 続けている。しかし、最近起きている経済現象のなかには、経済学の常識では理解できない ことが多い。
たとえば、米国では高い経済成長が続く状況下、金利水準は低位で安定している。経済学の 理論で考えれば、高成長を続けると資金需要が増大して、金利は上昇するのが本来の姿であ るはずだ。
また、経済が堅調に推移する日本や米国で、企業部門が資金余剰となっている。これも、今 までの経済の常識とは違う。経済活動が活発化すると企業部門で資金需要が拡大するため、 企業部門は借り入れを行なって資金需要を賄うはずだからだ。
著者は、こうした疑問に答えながら、現在の世界経済には新しいパラダイムが生成されてい るとの主張を展開する。そのパラダイムとは、「途上国での生産性の飛躍的向上」と「労働 力の不等価交換による先進国での超過利潤」によって、世界全体を包摂する新しい経済のメ カニズムだ。
BRICsをはじめとする新興国に安価で豊富な労働力があるため、それを有効に活用する グローバル企業には超過利潤が発生し、多額の資本が蓄積する。またグローバル企業は、投 資効率の高い新興国への設備投資を積極化させることで手元のキャッシュを温存することが 可能になった。
この超過利潤を原資として世界の金融市場に潤沢な流動性がプールされ、株価を上昇させる と同時に、金利水準を低位で安定させることが可能になると分析する。
「ドルの価値は安定している」という主張など細かい点については、見解を異にする専門家 もいるだろうが、同氏の主張全般には相応の説得力はある。問題は、日本の金利の引き上げ など、世界的に流動性の減少が予想される状況の下で、「新帝国主義」のパラダイムの寿命 がどれほどかという点だ。【評者 真壁昭夫 信州大学経済学部教授】
| 現代中国 の経済改革 | |
![]() | 呉 敬レン 日野 正子 エヌテ ィティ出版 2007-03 売り上げランキング : 173892 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
中国を代表する学者による経済改革のための冷徹な展望
中国経済の急速な発展と改革はいまや世界最大の関心事である。しかし、その歴史的変革を これほど包括的に、詳細に、的確に、理論的に分析するという大作業が中国の経済学者によ ってなされていたことを、恥ずかしながら、本書を読むまで知らなかった。
著者は現在七七歳、「中国経済学界の良心」と呼ばれている代表的経済学者である。この大 著は三部から構成されている。第一部は、中国の経済改革は何を目標として行なわれるべき かという問題提起である。それは社会的公正を追求し、共に豊かになることの実現を目指す 市場経済の樹立であり、民間部門を底辺から成長させるための条件をつくり出すという有機 的発展戦略が望ましいとする。
第二部は、この視点から農業、企業、民営化、金融、財政、対外関係、社会保障、マクロ政 策という具体的な分野で過去三〇年の改革過程が検証される。そして第三部では上部構造と しての社会、政治制度の改革が論ぜられ、著者の総括的な提言で締めくくられる。
本書の圧倒的な魅力は二つある。一つは、比較制度分析の手法で現実の事象を検討する理論 構成の確かさであり、もう一つは、国の正しい発展を願う者だけが持つ勇気と率直さである。 私が特に感銘を覚えたのは第一一章の「転移期の社会関係と政府機能」であった。ここでは 経済改革と社会・政治改革との歪み、特に不平等の激化と、それと表裏する腐敗の進行が赤 裸に冷静に語られている。著者は「錯綜する複雑な矛盾と経済社会危機の発生の可能性に直 面する中国」とすら言っている。
読了して残された疑問も二つある。一つは、著者も最も案じている貪欲さの弊害は法治とか 社会保障という制度改革で解消するのか。それとも、〓小平(トウ・ショウヘイ)が共産主 義のイデオロギー性を破壊したことによって顕在化した中国社会の精神的空虚に根ざすもの なのか。もう一つは、社会主義市場経済の理想実現と共産党独裁体制の崩壊は不可分なのか、 である。
青木昌彦教授の監訳者イントロダクションはサマリーである以上に、提起する問題について の優れた論評になっている。【評者 行天豊雄 国際通貨研究所理事長】
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高度で複雑な市場の不完全性を補う「見える手」の制度設計
アダム・スミスが市場を「見えざる手」と呼んだとき、それはニュートンの万有引力をつく り出しているのと同じ神の手だった。現代の経済学も、ニュートン力学をまねて物理的な 「均衡」を実現する過程として、市場メカニズムを描く。
しかし、この比喩はミスリーディングだ。万有引力は、どんな条件でも同様に働くが、旧共 産圏諸国で行なわれた市場経済化の大規模な「実験」は、経済学の「法則」が普遍的なもの ではないことを証明した。市場がなぜ機能するかを理解するには、それを支える制度を理解 する必要がある。
本書は、こうした市場を支えるメカニズムを最近の経済理論を使って解説し、それを利用し て市場を機能させる「制度設計」を考えるものだ。著者は、周波数オークションの設計も行 なった米国の指導的な経済学者である。
市場が機能するうえで、第一に重要なのは情報だ。特に、ある財を誰が最も高く評価してい るかという情報には、その人しか知らない「非対称性」があるので、これを回避する制度設 計として、オークションが開発された。
もう一つ重要なのは、財産権である。ソ連や東欧諸国で社会主義が崩壊した後、市場を導入 して国営企業を一挙に売却する「ショック療法」が取られたが、これはGDP(国内総生 産)が半減するような経済の大混乱を招いた。財産権を保障するには、法律だけでなく、人 びとが互いを信頼できる日常的な規範が必要なのだ。
著者は、市場も財産権も絶対的な価値とは考えない。それは人びとの生活を改善するための 不完全な手段にすぎず、それ自体を目的とすべきではない。情報を「知的財産権」として過 剰に保護すると、特許料が高いために感染症の患者に薬が届かないといった問題が生じる。 こうした問題を解決するにも、政府が特許を買い上げる「見える手」の設計が必要だ。
本書の内容は、ゲーム理論や契約理論の解説だが、記述は具体的にやさしく書かれている。 ただ学問的に新しい発見や深い思想が書かれているわけではないので、専門家にはもの足り ないだろう。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】
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アメリカは巨額経常赤字でもドル暴落はないとする立脚点
アメリカ経済が微妙な局面に入っている。
公式発表では、アメリカ経済は依然緩やかな成長局面にあるというが、成長率の減少自体は 否定しようがない。特に懸念されているのがGDP比六%を超える経常赤字で、これを世界 からの資本流入が支えている。その額はまさしく巨額であって、皮肉というべきかニュー ヨーク株式市場は連日「歴史的な」活況を報じている。
これをアメリカ経済の強さの証しと見るか、弱さの裏面と見るか。エコノミストの論調も真 っ二つである。正統派であれば経常赤字の持続を困難とし、ドルと株価の暴落を恐れるだろ う。ところが本書は、経常赤字は当分持続可能であるという。
本書は単なる楽観論の書ではない。経常赤字・貯蓄不足の国があれば、他方に必ず経常黒 字・貯蓄過剰の国がある。言うまでもなく日本、中国、中東諸国などである。この過剰貯蓄 は、金利が高くリスクプレミアムが小さいアメリカに、今のところ流れざるをえない。
むろん、円からユーロなどへも資金は流れるが、ユーロからさらにドルへ資金が流れるから、 これはターンテーブルに乗せたようなものだと著者は言う。かくして経常赤字があってもド ル高は続き、経常黒字であっても円は下がってゆく。ゆえに為替による不均衡調整はもはや 期待できず、経常収支を変化させるには世界の需給構造が変化するしかない。これは当然ア メリカ一国で動かせるものではないから、ゆえにアメリカの経常赤字は当分持続せざるをえ ないという結論になる。アメリカ経済をアメリカにおいて見るのではなく、世界全体の経済 構造のなかにはめ込んで理解しようとする点に、本書の特徴がある。
多国籍企業が一般的になった現代において、本書のように資本移動を「国」単位で分析する 姿勢には批判もありえよう。とはいえ、個々の経済行動を全体的な構造制約のなかでとらえ ようとする姿勢は、古典的ともいえる一方、グローバリゼーションのなかでかえって現実味 を増しているのかもしれない。そうした点も含め、示唆に富む内容豊かな一書である。【評 者 井上義朗 中央大学商学部教授】
| 日本語は 天才である | |
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天才翻訳家が喜々として語る日本語の底知れぬ奥の深さ
このところ「日本語もの」の出版が多い。それだけ日本の言語状況に関する危機感が強いと いうことだろう。結構なことだ。ただ、それに乗じて、復古調の言論管理の世界に読者を引 き込もうとする下心を感じる面もある。
しかしながら、本書は違う。
天才的な翻訳家が日本語の天才性について語る。じつに相性のいい組み合わせだ。この組み 合わせが繰り出す言葉の綾は、機知と警告に富んでいる。
その機知によって、不可能と思われる表現が可能となる。まさしく、この著者の辞書に不可 能の三文字はない。
言葉の遊びを他の言語に移し替えることは至難だ。それを成し遂げる過程の苦労話と成功物 語を披露するとき、本書の語り口は歓喜に満ちている。
著者と言葉は本当に仲よしだ。仲よしであるだけに、言葉の退化に関する警告は機知に彩ら れた辛らつさがある。
最も目を引くのが次のくだりだ。
「……そもそも本は背伸びして読むものではないでしょうか。……だから本を読むと、使う 言葉も背伸びしたものになる。一段上の言葉を使うようになる。そうして言葉が成長するわ けです」
言葉とともに高みに飛翔する。まさにそうして人間の知性は開花していくのだと思う。とこ ろが、今はむしろ言葉の花の芽を摘もうとする世の中だ。
わかりやすさの恐ろしさが世界中に充満している。言語的背伸びから尻込みし、それをやめ させようとする世の中だ。
圧制者は人びとから言葉を奪う。言語浄化政策は恐怖政治の常套手段だ。
その究極の世界を小説化したのがジョージ・オーウェルである。彼の代表作『1984年』 には、辞書を薄くすることが仕事の官僚集団が登場する。「明るい」の反対が「暗い」であ る必要はない。「明るくない」でいいじゃないかというわけだ。
そんな国では、本書の著者は真っ先に非国民のレッテルを張られてしまうだろう。カタカナ 語好きの某国総理大臣にも、すでに嫌われているかもしれない。【評者 浜矩子 同志社大 学マネージメントスクール教授】
| 渡辺崋山< /a> | |
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肖像画の写実性に触発され西欧に目を開いた“家老画家”
渡辺崋山は、江戸時代末期に肖像画というジャンルを創造し、西欧文明の理解に努め、それ ゆえに幕府の鎖国政策を批判し、罪に問われ、一八四一年、自決という悲劇的な最期を遂げ た。明治維新のわずか二七年前のことである。
崋山が描いた肖像画を見ると、人物の内面までをも映し出す写実性に心を奪われる(本書に は崋山やその弟子の椿椿山の描いた肖像画、崋山が市井の人びとや風景を描いた絵が多数収 録されている)。
日本史の教科書に出てくる源頼朝のような肖像画を見ていた人びとには、崋山の肖像画は衝 撃的だったろう。崋山は、西欧の絵画に触発されて、まったく新しい日本の肖像画というジ ャンルを切り開いたのだ。
西欧の写実に感銘を受けた崋山は、その文明の本質を知りたいと思い、西欧の書物を集めた。 すでに壮年に達し、小藩ではあるが、家老として多忙を極めていたので、自ら語学を学ぶに は至らなかったが、蘭学者に翻訳をさせ、西欧文明を学んだ。その理解には、もちろん限度 もあったが、西欧社会の優れた面を的確に指摘し、日本の改める点を述べていた。
崋山は、知的異端者でも奇矯な改革者でもなく、忠孝を尊ぶ封建道徳のなかに生き、伝統的 教養人であり、家老として仁政を敷き(飢饉において餓死者を出さなかったという)、ゆえ なく問われた罪が主君の迷惑になることを恐れて見事に切腹して果てた。
江戸時代には、すでに知的な人びとのサークルがあり、崋山にとっても、そこでの付き合い は啓発的だった。また、家老であるよりも芸術家になりたいとも思っていた。家老の収入よ りも、画家としての収入のほうが多かったようでもある。その点では、江戸時代には市民社 会が成立していたといってもよい。
完璧に封建道徳をまっとうしながら、それに疑問を抱き、写実画を通して西欧文明の本質を つかんだ。そんな人間の悲劇的な生涯は魅力に溢れてもいる。このような人びとがいたから こそ、日本は明治時代を迎えることができたのではないか。【評者 原田泰 大和総研チー フエコノミスト】
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社会全体をも動かして得たエリート層の役割を考える
ノンフィクション作家である広瀬隆氏が書いた歴史書だ。タイトルの持丸とは、大金持ちを 意味するが、その有力な金持ち=エリート層が、社会の発展のなかで果たした役割と、その 歴史的な系譜を克明につづった書物である。
本書には、大きなインプリケーションが二つある。一つは、歴史の流れのなかで、人のつな がり=血縁の流れを克明に提示していることだ。そのつながりが、あたかも川の流れのよう に、時間の経過とともに緩やかに継続しており、しかも、それが現代にまで続いていること を実感させてくれる。
こうした感覚を与えてくれる背景には、著者自身が、長い時間の流れのなかでの有力血縁同 士の婚姻や養子縁組、幼少期から成人期までの姓名の変遷まで、じつに細かく調査している ことがある。しかも、それを本の中で、わかりやすく図示する努力を行なっている。おそら く、本書の執筆には、多くの時間とエネルギーを要したことだろう。それは、本書の説得力 として結実している。
もう一つのインプリケーションは、資産家が、政治、経済、文化、芸術など社会のあらゆる 局面で、きわめて大きな影響を与えていることだ。資産家である有力者が、社会や自分たち の要請に基づいて政治、経済の方向性を規定することは理解できる。それに加えて、彼らの 存在は、文化や芸術の分野にまで大きなマグニチュードを与えることになる。ルネサンス期 のイタリアに、あれほどきらびやかな文化が集積したことを考えても、その重要性は十分に 理解できる。
エリートという言葉は、わが国ではあまり好ましい語感を持たれていないが、欧米社会では その必要性が当然のように扱われることもある。彼我には、歴史的な認識に違いがあるのか もしれない。ただ、社会がさまざまな方向に進化していくとき、能力と財力、行動力を持ち、 社会のために進むべき方向を明確に提示することのできる人材は、どうしても必要のような 気がする。エリートという言葉が悪ければ、他の呼称をつければよい。本書で扱われている 持丸とは、そうした機能を果たした人たちなのではないだろうか。【評者 真壁昭夫 信州 大学経済学部教授】
| ハイエク の政治思想―市場秩序にひそむ人間の苦境 | |
![]() | 山中 優 勁草書房 2007-03売り上げランキング : 45947 おすすめ平均 ![]() < img src="http://g-images.amazon.com/images/G/01/detail/stars-5-0.gif" alt="star" / >評価は出来るけど Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「市場原理主義」を嫌う心理を五〇年前に予見したハイエク
資本主義と社会主義の対立は前者の勝利に終わり、福祉国家と新自由主義の対立は後者の勝 利に終わったように見える。しかし「市場原理主義」や「格差社会」を批判する人は多い。 自由主義の今後はどうなるのだろうか。
ハイエクは新自由主義の元祖として知られるが、訳本もほとんど絶版になり、過去の人と思 われている節がある。しかし、ハイエクは五〇年以上前から現在の自由主義社会を構想する と同時に、その限界も予見していた。
社会主義との対比では、自由主義の優位性は明確だった。しかし自由主義が勝利し、敵がな くなったとき、人びとは自由主義の欠陥に不満を言い始める。無政府的な市場よりも政府の 介入による秩序ある社会を望むようになるのだ。
初期のハイエクは、自由は功利主義的な相対的価値ではなく、絶対的な道徳的価値だと主張 したが、自由がそれほど道徳的に望ましいものなら、人びとが市場原理主義や利己主義を嫌 うのはなぜか。ハイエクは、それを人間が数十万年のあいだ、狩猟や農耕のために集団で行 動してきた「部族社会」を維持する本能のためだという。
自由は、初期の彼が考えていたように人びとに好まれる自明の価値ではなく、それを維持す る制度的なインフラがなければ壊れてしまう、不自然で脆弱なメカニズムなのだ。したがっ て自由を守る闘いは、国家の介入を排除する積極的な自由主義になる。晩年は、「部族感 情」による国家の介入から市場を守るためのコモンローや議会改革などの制度を考えていた。
部族社会と市場を独特なかたちで組み合わせた「日本型福祉国家」は、今解体の危機に瀕し ている。高度成長期に社会の安定を支えてきた企業や地域社会などの中間集団が崩壊し、個 人が「原子化」しつつある。部族社会を解体する市場の力を肯定したハイエクは、「資本の 文明化作用」を肯定したマルクスと似ているが、それは本当に望ましいのだろうか。
本書は日本語で書かれたハイエク論としては出色で、特にハイエクの自由論における利己主 義と部族感情の葛藤を整理した手際は鮮やかだ。【評者 池田信夫 上武大学大学院教授】
| 東アジア の通貨・金融協力 | |
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| 新自由主 義―その歴史的展開と現在 | |
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font size="-1">デヴィッド・ハーヴェイ 森田 成也 作品社 2007-02 売り上げランキング : 18462 おすすめ平均 ![]()
「新自由主義とは何か」を改めて考えるうえでAmazonで詳 しく見る by G-Tools | |
新自由主義という「現象」を喝破するマルクス主義の視点
昨年、ブッシュ政権から、いわゆるネオコン勢力が総退陣したことが一つの区切り感を与え たのか、このところ、新保守主義や新自由主義への歴史的反省を促す書物が目立って増えて いる。いまや世界中に浸透したこの政治経済思想が、今後数年のうちに大きく後退すること は考えにくいが、ならばなおのこと、現在の反省機運は貴重であろう。特に本書は、類書の なかでもおそらく最もユニークな位置を占める一書になるだろう。
著者ハーヴェイはもともと、計量分析を地理学に導入した経済地理学者で、その業績は地理 学における一つの革命と評されている。しかし彼はその方向での精緻化に満足せず、幾多の 変遷を経て現在ではマルクス主義の立場に立つ、最も活発な論客として広く知られている。 彼の批評は都市論、格差論、ポストモダニズム論と広範囲にわたるが、本書も期待に違わず、 新自由主義という「現象」への、包括的でかつ鋭利な解釈を提示している。
ハーヴェイは二つの視点を強調する。まず米英で起きたことは、金融資本を中心とする資本 家階級の勢力挽回策だったと喝破する。「階級」が時として「胡散(うさん)臭い」概念に なることは彼も認めているが、一九七〇年代のスタグフレーションが資産価値崩壊の危機意 識を醸成したこと、さらに所有と経営の分離を資本家階級の分裂と見たうえで、その再統合 の動きとして、ストックオプションやさまざまな経済学説を解することなど、その着眼はや はり鋭い。
他方でハーヴェイは、経済地理学者ならではの視点で、東アジアやラテンアメリカに新自由 主義が浸透したことの意味を問う。特に中国の分析は、本書の白眉といってよい。中国共産 党が、いくらなんでも資本家階級の育成を国是にはできまいと思うわけだが、だから外資を 活用しているのだと説かれると、なにかゾッとするような説得力を感じる。
新自由主義の本山であるモンペルラン協会を、ワルラス系統の新古典派経済学信奉者とする 点などはやや正確さに欠けるが、実感なき景気回復のゆえんにもかかわる時宜を得た一書で ある。【評者 井上義朗 中央大学商学部教授】





王朝貴族の悪だくみ―清少納言、危機一髪<
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いや、しかし
批判する立場から<
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本書の意義


切れ味のよい論説
論理の刃
グローバル化と国内経済の関係を明快に描き出した好著!


竹中構造改革の虚妄を暴く決定版!


「自由と民主主義」の伝統を尊重するという原則

ワン・ワールド経済体制を解き明かし
た快著
武者陵司が書いた世界経済の見通し




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![持丸長者[幕末・維新篇]―日本を動かした怪物たち](http://ec1.images-amazon.com/images/P/4478920443.01._SCMZZZZZZZ
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