週刊東洋経済掲載の書評『ブックレビュー』(2005年掲載分)の紹介です。

メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) 2007年2月10日

満鉄調査部の軌跡―1907‐1945
満鉄調査部の軌跡―1907‐1945小林 英夫

藤原書店 2006-11
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日本のシンクタンクの原点 満鉄調査部の歴史分析

現在の日本の大企業はほとんどすべてが、調査部とか資料課などという名称の調査部門をもっており、それを独立させてシンクタンクをつくるということも流行したが、その出発点ともいうべきものが満鉄(南満州鉄道株式会社)調査部である。

満鉄調査部ができたのは日露戦争後の1907年であるが、それ以前にあったのは三井物産の調査部だけで、三菱や野村などが調査部をつくるのは満鉄調査部以後である。

満鉄調査部はこうして日本のシンクタンクの出発点であっただけでなく、戦後にできた経済企画庁の研究所など政府系シンクタンクの前身としても、大きな影響力をもっていた。

この満鉄調査部については戦後さまざまな研究がなされ、多くの資料が公開されているが、本書はそれを総合したもので、体系的な満鉄調査部の歴史分析といえる。

満鉄調査部をつくったのは初代満鉄総裁・後藤新平であるが、彼は、当時の日本の学問が現実の分析から遊離した空理空論になっていると批判し、机上の調査でなく、現実に即した調査が必要であるとした。

ところがロシア革命後は満鉄が置かれていた地理的、政治的条件から政治的な立場からの調査が必要とされ、さらに日中戦争が始まると軍との関係が深まり、国策のための調査機関になってしまった。そして個別問題の調査ではなく、総合調査に重点がおかれるようになった。

このあたりの歴史的推移が詳しく書かれているが、実際にどのようにして調査が行われていたのか、という点になると、よくわからない。

調査のためには資料の収集が必要だし、さらにその調査の上に立った研究が行われる。この一連の活動が具体的にどのように行われ、どういう成果を生んだのか、ということを解明することも必要だろう。

満鉄調査部では当時のマルクス主義者の影響が大きく、転向した人たちがたくさんいたが、そのなかで「経調派」と資料課グループが対立し、やがて満鉄調査部事件が起こって憲兵隊に摘発され、満鉄調査部は解体されてしまった。

日本のマルクス主義のあり方が満鉄調査部の活動と、その後の研究活動にどのように作用していたのか、これについての著者の考えを聞きたい。これまで満鉄調査部について書かれた本はたくさんあり、当事者たちの回想録も数多く出されている。

そのなかでも77年に専門誌の記者であった山田豪一氏が書いた『満鉄調査部』(日経新書)は今読み返しても力作であり、本質を突いたものであった。あわせて読むことをお勧めする。【評者 奥村宏 株式会社研究家】

こばやし・ひでお
早稲田大学大学院アジア太平洋学科教授。1943年東京都生まれ、71年東京都立大学大学院社会学研究科博士課程満期退学。戦後の「日本的経営」の思想的・歴史的源泉を探る研究で知られる。

■2007/02/10, 週刊東洋経済

解体―国際協力銀行の政治学
解体―国際協力銀行の政治学草野 厚

東洋経済新報社 2006-12
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おすすめ平均 star
star政策と政治の間がよくわかる

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国際協力銀行の暗部を内部文書を根拠に描く

その一節は、こともなげといった風を装って、「平壌宣言」のなかに挿しこまれていた。2002年秋、小泉首相が平壌を訪れて署名した誓約には、国交を正常化する交渉を早期に再開し、経済協力の規模と内容を協議すると謳っている。核・ミサイル問題には一応触れているが、拉致という言葉は見当たらない。だが、対北援助の道筋だけは明快に示されている。「民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致する」。

日本側は、具体的な金額は示さなかったというが、北朝鮮側は、数年間で一兆円規模を日本から引き出そうとしていた。6000億円前後といわれる北朝鮮のGDPを考えれば、いかに巨額かが分かるだろう。だが、無償資金協力、円借款、技術協力をいくら積みあげても、彼らの要求は満たせない。その果てに持ち出されたのが国際協力銀行という打出の小槌だった。

草野厚は『解体 国際協力銀行の政治学』の筆を執ることで、日本輸出入銀行と海外経済協力基金の政略結婚で誕生した国策銀行の聖域に分け入っていった。その矛盾ゆえに再び解体されていく政治プロセスが克明に描かれている。政府開発援助の情報は一応公開されている。

だが、国際協力銀行は、郵便貯金などを原資としながら、民間への融資であることを理由に内容を公表しようとしない。それが政治の介入を招き、恣意的な融資を生む温床になっている実態が内部文書を根拠に明らかにされる。このような草野の論述がかつて合併に反対した旧基金側に偏していると旧輸銀関係者は反発している。だがこうした批判も、納税者が誰ひとり認めていない「融資が平壌宣言の精神に合致する」という一節の前には虚ろに響くばかりだ。【評者 手嶋龍一 外交ジャナーリスト】

■2007/02/10, 週刊東洋経済

社員力革命―人を創る、人を生かす、人に任す
社員力革命―人を創る、人を生かす、人に任す綱島 邦夫

日本経済新聞社 2006-09
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人材力を基盤に新次元のボトムアップ経営を提唱

最近、日本企業の業績が好調だ。しかしこの業績回復は一時的で、問題の本質はほとんど解決されていない、そしてもはや多くの日本企業に世界の競合に勝てるだけの力は残されていない、という危機感を抱いている人は多いのではないだろうか。

本書は、こうした一見順調そうに見える日本企業が抱えている問題を、人と組織の観点から分析し、日本企業が今後本当の意味で長期的に繁栄していくにはどうしたらよいかについての提言を試みている。

著者は、ここ数年の日本企業の業績回復を牽引した「戦略経営」では短期的な成果しか得られず、長期的な繁栄のためには、経営者が指示を出さなくても社員が協力し、経営者も気づかない機会や問題を発見し、解決し、ボトムアップで利益を生み出していく、そして経営者が抱える経営責任を担ってくれる「人材基盤経営」が不可欠と主張する。

言ってみれば、欧米流のトップダウンマネジメントだけでは限界があり、日本が得意としてきたミドル層を中心としたボトムアップマネジメント、さらには即戦力の名のもとにこのところ疎かにされてきた人材育成についても再考しようというわけだ。

本書によれば、この「人材基盤経営」は、実はIBMやGEといった欧米企業のほうがはるかに進んでいるが、日本企業の中にも、トヨタや松下電器、武田薬品など、熱心に取り組んでいる企業があり、非常に心強い。

本書の後半では、「人材基盤経営」成立のための七つの条件分析と日本企業の取り組み事例を踏まえ、日本企業への七つの具体的な提言が示されている。

日本企業の経営者、人事担当者には、それらの提言を参考に、自社の課題にしっかりと取り組み、「人材基盤経営」の確立を目指してもらいたい。【評者 黒田康史 人事プロフェッショナル】

■2007/02/10, 週刊東洋経済

カモにならない投資術―人生後半からの負けないお金哲学
カモにならない投資術―人生後半からの負けないお金哲学榊原 節子

太陽企画出版 2006-12
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おすすめ平均 star
star投資初心者にやる気を起こさせる
star話題の豊富な本

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団塊世代の退職金に照準を定めた内外の金融機関の営業強化もこれからが本番。甘い言葉で誘う金融商品「販売」のプロたちのカモになることなく、いかにしてトラの子の個人資産を守り、増やし、活かすかを説くのが本書である。

著者は資産家向け資産運用・継承などの分野で実績を持つ、知る人ぞ知る資産運用コンサルタント。ジョージ・ソロスら「巨匠」が現役だったころからヘッジファンドに通じるなど、海外の運用状況にも詳しい。

投資手法の向き不向きは人それぞれだが、「小心者」を自称する著者は「分散投資」派。特定の商品には詳しくてもそれ以外の知識は薄い「プロ」たちの売り文句は参考情報にとどめ、自分の資産は自分で管理する心構えが必要と説く。

本書の語り口は平易かつ実践的。株式と債券の総額を時価ベースでほぼ等しく保つのが大原則という英国王室直伝の運用法など、初心者にも使える運用のヒントもちりばめられている。

■2007/02/10, 週刊東洋経済

ニュー・リッチの世界 The New Rich World
ニュー・リッチの世界 The New Rich World臼井 宥文

光文社 2006-11-21
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おすすめ平均 star
star発想に魅かれるものが多々あり
star焦点があいまい
star情報満載

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メリルリンチの調査では世界の富裕層の17%は日本人だ。資産家の子孫など、古いタイプの富裕層は昔から日本にも存在した。しかし、最近はストックオプションや起業の成功で資産を築く人が増えているという。これらの人々は年収5000万円以上、金融資産1億円以上を持ち、「ニューリッチ」と呼ばれる。

著者はおカネのない人向けに安いものを大量販売するよりも、ニューリッチを対象にしたビジネスこそが有望と説く。彼らは最近になって急に富を手にしたために、それをどのように使えばいいのかわからない。そこで、彼らに合った商品やサービスを提供することにビジネスチャンスがあるというのだ。

日本では金持ちに対して否定的なイメージがあるが、これは改める必要があるだろう。そもそも金持ちがおカネを使わなければ経済は活性化しない。著者はニューリッチが喜んでおカネを使いたくなる環境を整えることが重要と説く。

■2007/02/10, 週刊東洋経済

「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポート
「ニッポン社会」入門―英国人記者の抱腹レポートコリン ジョイス Colin Joyce 谷岡 健彦

日本放送出版協会 2006-12
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おすすめ平均 star
star大変面白く読めるエッセイですが、どうしても受け入れられない章がひとつある
starすばらしい「立ち位置」
star東京呪縛

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外国人ジャーナリストが書いた「日本論」の本は多いが、本書はその中でも「上質」な内容の本である。

著者はイギリスの高級紙『デイリーテレグラフ』の東京特派員。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻、1992年来日した。要所要所で日本とイギリスの比較をしている点が興味深い。

著者によると、イギリスは紳士の国と日本人に思われているが、少数の本当の「紳士」を除くと、多くのイギリス人は気が荒く、行動も荒いという。

著者が会った本当の紳士は、著者の自転車のサドルをニコニコしながら、丁重に、しかも無料で直してくれた日本人の自転車屋さんだった。

過剰なまでに礼儀正しく親切な日本人。思ったより簡単で奥深い日本語、外国人向けガイドブックには載っていない名所の数々を著者は紹介する。以前に比べると、国際的地位が低下してしまったニッポンを温かく描いている。

■2007/02/10, 週刊東洋経済

生涯現役エンジニア―実例にみるその必要性と提案
生涯現役エンジニア―実例にみるその必要性と提案田邉 康雄

丸善プラネット 2007-01
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少子高齢化、年金不安等の問題が進行する昨今、「生涯現役」は時代のキーワードの一つになっている。エンジニアを、医師のように生涯続けることは可能だろうか。両者は扱う対象は異なるものの、等しく科学・技術を基盤とした職業である。

技術立国日本にとって、エンジニアの定年退職は国家的喪失ではないか。これらの問題意識を核に、齢70にして生涯現役エンジニアを実践している筆者が、自らの事例を紹介し、提案する。

第一章では、わが国エンジニアの歴史と現状の概要を著し、第二章では本題である、生涯現役エンジニアの必要性を説く。第三章では、そのための具体的な新資格を提案し、第四章では、著者の今までの経歴を実例として紹介している。

巻末の「付録・定年退職後の収入開示」は元気づけられる。いわゆる2007年問題がクローズアップされている本年、勤労者必読の書。

■2007/02/10, 週刊東洋経済

イギリスだより
イギリスだよりカレル・チャペック 飯島 周

筑摩書房 2007-01
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イギリス紳士のユーモア
イギリス紳士のユーモア小林 章夫

講談社 2003-07
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おすすめ平均 star
starイギリス紳士のユーモア
starイギリス紳士とは!!

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イギリスは、時として、外側から見るとさっぱり分からない不可解な国である。

例えば、コロンブスが新大陸を「発見」したころ、隣国のアイルランドを占領したイギリスは、彼らの母語であるゲール語を剥奪するほど完全に制圧した。わが国は日韓併合では、イギリスの植民地政策を大いに研究したという。

現在でもイギリスは、北アイルランド問題を引きずっている。ちなみに東南アジアの植民地に第2次大戦直後に独立を許している。これが、イギリスのV―Jディ(対日戦勝記念日)と関係があるのかもしれない。

あるいは亡命中のマルクスが大英博物館付属図書館で『資本論』を書きあげ、また亡命中のレーニンが、『イズヴェスチヤ』を発行し、第2次大戦期にポーランドなどヨーロッパの数カ国がロンドンで亡命政権を樹立した。

これらは「パックス・ブリタニカ」を標榜する世界戦略の一環なのか、それとも超大国の「懐の深さ」なのだろうか。

それにしても、イギリス人とは、どんな国民だろうか。

一概に断言できないが、興味深い例を挙げてみたい。

チェコの作家カレル・チャペックの『イギリスだより』(ちくま文庫)では、「イギリス人はどこへ行っても慣習や考え方の中にイギリスの一部を身につけてもまわり、それからとび出せないのです。このやり方から大英帝国が生じたのだろうとさえ、疑いたくなります」と冷ややかに語っている。

また小林章夫の『イギリス紳士のユーモア』(講談社学術文庫)は、イギリス紳士(この「紳士」という言葉は、実に曖昧である。ことに第2次大戦以降、階級社会が変貌してしまい、したがって平均的な成人男性くらい、と思えばいい)について「余裕と、深刻な事態に瀕しても失われることのない冷静さの中から、あの独特のユーモア感覚も生まれてくる」と述べている。一斑を見て全豹をトするつもりはないもの、私としても、頷きたい指摘だと思う。【評者  文芸評論家 阿久根利具】

■2007/02/10, 週刊東洋経済

メイン > 週刊東洋経済書評『ブックレビュー』(2005年) 2005年12月17日~12月31日

資本主義国家の未来
ボブ ジェソップ (著), Bob Jessop (原著), 中谷 義和 (翻訳)

第2次世界大戦後の資本主義は、大量生産による「規模の経済」、そして大量消費を基礎にしたフォーディズム的成長様式とその上に立った蓄積戦略から、フレキシブルな生産、イノベーション、「範囲の経済」、技術革新による超過利潤、消費パターンの急速な変化と分化などを志向するポスト・フォーディズムに転換した。この転換は1970年代の石油危機ごろに起こった、というのがポスト・フォーディズム論であるが、そういう前提に立って、著者は資本主義国家はどう変わったのかということを論じる。

それは完全雇用、団体交渉による大量消費、福祉型、国民的規模での市場と国家の混合経済を柱とするケインズ主義的福祉型国民国家から、国民経済の相対的開放、イノベーションと企業家精神の重視、知識基盤型経済などを原理とするシュンペーター主義的競争国家への転換である。このように、資本主義国は、ケインズ主義的福祉国家から70年代以降、シュンペーター主義的競争国家に転換し、これがグローバリゼーションや新自由主義、知識集約化の動きとなって表れているのだという。

著者は、イギリスのマルクス主義政治学者として有名で、著書は何冊も日本語に翻訳されているが、本書は彼のこれまでの国家論を体系化したもの。

しかし、題名が示すように、資本主義国家の未来について論じたものというより、アメリカやヨーロッパなどで出された国家論を批判的に取り上げた本であり、資本主義国家の実態を解明したものとはいえない。

ケインズ主義的国家はともあれ、シュンペーター主義的国家という概念に対しては違和感を覚える人も多いだろう。著者も言っているように、シュンペーターがこのような国家論を唱えたのではなく、あくまでも著者独自の概念である。

70年代以降の資本主義国家が著者の言うようにシュンペータ主義的競争国家であったとして、では、それは21世紀にはどうなっていくのか、「資本主義国家の未来」という題名から誰もが期待するのはこのことであるが、いくらこの本を読んでもそれは明確ではない、というよりもそれについては本格的に論じられていない。

また、同じシュンペーター主義的国家といっても、アメリカの国家とイギリス、フランス、ドイツの国家ではかなり相違があるし、日本や韓国などアジア諸国では国家のあり方に大きな違いがある。これを一律に論じてよいのか。さらに最近の動きは競争主義的国家というよりもアメリカ一国支配になっているのではないかという疑問にどう答えるのか。問題は多い。【評者 奥村宏 株式会社研究家】

■2005/12/31, 週刊東洋経済

静かな暴走 独立行政法人
静かな暴走 独立行政法人北沢 栄

日本評論社 2005-09
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star小泉改革について考える参考書

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小泉首相は郵政民営化決着後の「最後の1年」で取り組む改革メニューとして、三位一体改革、公務員改革などと合わせて政府系金融機関の統廃合・民営化を取り上げた。そこで思い浮かぶのは、8年前の橋本改革で「小さな政府」「行政のスリム化」を旗印に特殊法人改革の一環として導入された独立行政法人制度である。

イギリスのサッチャー改革のエージェンシー制度を手本にする案が急浮上し、省庁再編の陰で大した議論もなく、あっという間に実現した。独立行政法人の総数は現在、国立大学や国立病院を含め、200を超える。

問題はその後だ。行政のスリム化、行政サービスの効率化という目的に沿った実態となっているのかどうか。新聞記者出身の練達のジャーナリストが本書で詳細に点検・検証した。

一言でいえば、現状は「静かな暴走」と著者は断じる。官僚機構の統制という特殊法人の欠陥是正のために独立行政法人で「業務の自律性」を認めたら、幅広い自由裁量権を逆手に取ってやりたい放題(第2章)、存在意義を失って廃止・民営化すべきなのにあの手この手で延命(第4章)、評価委員会の監視機能が働かない(第5章)。

国民や政治の目が届かないところで、官が独立王国をつくり上げる。今さらながら官の本能である保身や自己増殖への執着心と手口には驚かされる。

「改革のマスターキー」として、著者は情報公開の徹底、天下り装置の解体、特別会計の廃止などを提案する。制度改革も必要だが、組織や業務の中身にメスを入れる闘いを粘り強く続けるしか官の本能を根絶やしにする方法はない。本書は進行中の道路公団や郵政の民営化、政府系金融機関の改革を官の「静かな暴走」にさせないための貴重な参考書でもある。【評者 塩田潮 ノンフィクション作家】

■2005/12/31, 週刊東洋経済

森鴎外―文化の翻訳者
森鴎外―文化の翻訳者長島 要一

岩波書店 2005-10
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star外国文化を、さすらった人の本当の自己は何処に?

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翻訳は“選択”であるという。どういう言葉を選ぶかはもちろんだが、どこを訳してどこを訳さないかという“省略”も選択の一つである。

森おう外は、代表作の『即興詩人』の翻訳で、キリスト教の愛や至福という概念をまったく訳さなかった。それは日本の風土には合わないからと考えたからだが、そのため、アンデルセンの原作からはかけ離れてしまったという。イプセンの戯曲『人形の家』の鴎外訳『ノラ』も同じように換骨奪胎されて別物になった。翻訳というより原作の再編集であり、創造的な誤訳というべきものであった。

では、おう外にとって「翻訳」とは何か? それは、西洋文学を日本語に訳すというだけではなく、西洋文化をどう取り入れるかということであった。そのためには何を捨てるかも大事だった。おう外にとって、翻訳はなにより「文化の翻訳」だったのである。

おう外は、明治17(1884)年、22歳で陸軍省の留学生としてドイツに渡った。好奇心の塊だった青年おう外は、自由と解放感を味わって西洋文化にたっぷりとひたり、四年後帰国。その体験を基に『舞姫』などドイツ3部作といわれる小説を書き、翻訳も始めた。

翻訳には原作が必要なように、おう外にもいつも“原作”があった。そういうと衝撃的だが、おう外は体験や見聞した事実、事件や歴史的なことがらを原作とし、それを翻案する形で創作したという意味である。そのように“原作”を“創作”に転換する過程を「翻訳」ととらえ、その意味でおう外の創作は「文化の翻訳」だったと著者は言う。

おう外の文業をそうした観点でとらえようというのはとても面白い。近代の揺籃期にあって、文豪がいかに苦労していたかがよく伝わってくる。【評者 仲倉重郎 映画監督】

■2005/12/31, 週刊東洋経済

シニアが利益を創造する
シニアが利益を創造するダイヤモンド社

ダイヤモンド社 2005-10-15
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starNTT西日本の成功物語?

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51歳から子会社に転籍。給料3割減。逆境である。本書の主人公はNTTネオメイトの社員。同社の平均年齢は52歳だ。

NTT西日本の退職再雇用制度の受け皿として誕生させた。あえて雇用調整の方法を避け、賃金を分かち合う「ウェッジシェアリング」という考え方を導入。雇用を守りつつ、利益を出していくという難しい課題への挑戦である。

これまでもらっていた給与を3割カットされた社員たちは、「仕事は3割カットするわけにはいかない」「見返してやろう」と頑張った。

中高年社員の意欲や努力、工夫がグループ全体の利益を創造した。彼らは、新技術やニュービジネスにも挑戦した。中高年社員だって、決して捨てたものではないことを自ら実証したわけである。NTT西日本は人員構成も経営環境も高齢化社会ニッポンの縮図。日本の社会も未来の可能性を秘めているということだ。元気の出る一冊。

■2005/12/31, 週刊東洋経済

大正時代―現代を読みとく大正の事件簿
大正時代―現代を読みとく大正の事件簿永沢 道雄

光人社 2005-10
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朝野こぞって“坂の上の雲”を仰ぎ、汗と涙で突き進んだ明治。そこから“大東亜”の妄想に邁進し、奈落の底に急転落した昭和戦前期。その両時代に挟まれた大正時代とはどんな時代だったのか。明治との断絶を謳った大正デモクラシーや大正モダニズムという華やかな用語が今なお余韻を残している。

時系列的に並べると、護憲運動、シーメンス事件、『スバル』のロマン主義、『アララギ』の写実主義、第1次大戦、対華21カ条要求、シベリア出兵、独占資本主義の確立、民本主義思想、白樺派、米騒動、普選運動、小作争議、新婦人協会、政党内閣制、治安維持法などである。

こうした大正時代に通底する大衆文化、政治、思想の大部分は日本人が自らの頭で考え、感性で創出したより民衆に身近なものであった。それ故に、敗戦後マッカーサーに唯々諾々と従った「戦後民主主義」の皮相さや脆弱さとは異なる芯を持っていた。

■2005/12/31, 週刊東洋経済

下流社会 新たな階層集団の出現
下流社会 新たな階層集団の出現三浦 展

光文社 2005-09-20
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おすすめ平均 star
star分析に疑問
starこれがベストセラーになるというのがすでに…
star作者は統計学、社会学を勉強した方がいい

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誰でも就職ができ、安定した生活と将来の希望を持てた時代、日本人の多くは自らを「中流」と位置づけることができた。だが、バブル経済崩壊後、山一証券の破綻から始まった金融危機とデフレ経済は雇用環境を悪化させた。

本書の副題は「新たな階層集団の出現」であり、米国型の階層社会に移行しつつある(?)日本の現状を団塊ジュニア世代と30歳代女性への豊富な意識調査を基に分析している。

著者は、旧セゾングループのパルコが発行していたマーケティング情報誌『アクロス』の元編集長。データの処理や分析に、「アクロス」のにおいを感じることもできる。第8章「階層による居住地の固定化が起きている?」は興味深い分析が続く。

たとえば、団塊ジュニアの出身地別階層意識調査によると、東京多摩地区の男性の約8割が自らを「下流」と答えている。都心回帰と郊外定住が同時に始まるとも分析する。

■2005/12/31, 週刊東洋経済

ITSの思想―持続可能なモビリティ社会を目指して
ITSの思想―持続可能なモビリティ社会を目指して清水 和夫

日本放送出版協会 2005-10
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渋滞、交通事故、大気汚染などさまざまな問題がクルマを取り巻いている。その状況下で静かに進行しているのがITS革命だ。

ITSとは、ITなどの最先端技術を活用し、クルマと道路と人をネットワークでつなぐ高度道路交通システムのこと。「ITSにどのような可能性が秘められているのか」を探るのが本書の狙いである。

本書ではカーナビやETCを利用した「スマートウェイ構想」など、近未来像が具体的に描かれている。交通安全や環境問題など広い視点からの分析も読ませる。ディーゼルエンジンなど環境技術について述べた第8章だけでも読み応え十分である。

著者は一方で、「いきなりハイテクに身をゆだねることが、人間にとって幸福なのか」と、自動運転などIT化を絶対視する考えに疑問を呈する。レースドライバーやモータージャーナリストとして活躍し、クルマを愛する著者ならではこその言葉は、心に響く。

■2005/12/31, 週刊東洋経済

ポスト平成不況の日本経済―政策志向アプローチによる分析
4532132991伊藤 隆敏 デビッド ワインシュタイン ヒュー パトリック

日本経済新聞社 2005-09
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starやはり日銀かぁ~

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日本経済は、経済構造、人口構成、社会、政治の面で移行期にあり、これらの要因の大転換は、バブル崩壊後の長期停滞とも密接に関わっているという。本書はこのような観点から、日本経済の長期停滞という謎に挑み、再生への筋道を示そうとした論文集である。全体の問題意識と要約からなる第1章の後に10本の論文が並ぶ大著である。

紙幅の制約から評者の関心によって強弱をつけた紹介をするしかないが、財政問題を分析した論文は極めて重要であると思う。この論文は、過去の債務残高よりも将来費用の方が遥かに重要だと指摘する。1人当たりの公的給付額が、就労者1人当たりのGDPではなく、GDPに比例するようにすれば、ほんのわずかな増税で財政の健全性は維持できる。生産性の上昇があるので、人口減少社会では、1人当たりGDPの増加率は、GDPの増加率よりも高くなるからだ。過去よりも、将来を見据えるべきだということだ。

金融政策に関する論文は、デフレと経済停滞を長期化させた金融政策の失敗を明らかにし、デフレと長期停滞から脱却するための金融政策を提言している。1990年代以降の停滞では、金融システム問題、構造問題も重要である。金融システム問題については、銀行、公的金融、生保、社債市場の信用リスク評価について議論されている。銀行には、過小資本、追い貸し、オーバーバンキング、時代遅れのビジネスモデルという問題があるという。これほど沢山の問題があれば、確かに大変だ。生保の経営健全化には、デフレを終わらせて名目金利を上昇させる必要があるという。しかし、生保に雇われているエコノミストがデフレに賛同している場合が多いことを考えると、何か見逃されている生保の経営問題があるような気がする。

90年代の停滞期にも日本の民間設備投資がアメリカに比べて高水準であったことは、投資の減少ではなく、その中身が停滞の原因だという論文は興味深いが、需要減少を強調する他の論文の主張とは異なっている。本書の中で、その違いがもっと議論されていれば、さらに有益だったと思う。また、それが停滞の原因だと特定するためには、その大きさが明らかになっている必要があるが、その議論はなされていない。

90年代は雇用も停滞した。問題の指摘は重要だが、それが何故かという議論は弱いように思う。自由貿易協定についての論文は、日本にとってFTAの必要性と国内構造調整を乗り越えるための方策を提言している。

日米の精鋭による日本経済の分析は読み応えがあり、政策提言は真剣な検討に値する。【評者 原田泰 大和総研チーフエコノミスト】

■2005/12/17, 週刊東洋経済

アメリカ財政の構造転換~連邦・州・地方財政関係の再編
4492620605片桐 正俊

東洋経済新報社 2005-08-25
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日本財政の再建は、ポスト小泉の焦眉の課題となっている。膨れあがる社会・医療保障費への対応や1000兆円に達した国の借金など、厳しい現実が待ち受けている。

本書は重厚かつ綿密を極めた研究書であり、対象がアメリカ財政であることから、一見すると日本財政とは無縁と思いがちである。しかし、本書を読み進むにつれ、アメリカ財政の構造変化の子細な研究に圧倒されると同時に、日本財政への指針を見いだして知的興奮を覚える。

日本に先行して“赤字財政先進国”となったアメリカは、赤字の原因として膨大な軍拡や大幅減税が取り沙汰されることが多い。しかし本書によると、赤字の真の原因は、社会保障と医療保障(メディケアやメディケイドなど)の負担が累増していることにあることがわかる。

しかも、増大する福祉国家アメリカの負担を連邦政府と州、地方政府の間でいかに背負っていくか、長い年月の試行錯誤の闘争史を抱えている。

日本でも“三位一体改革”で中央政府と地方政府の関係がにわかに緊張の度を増してきている。そこでの焦点は社会・医療保障や教育費の財源問題だが、それこそアメリカ財政部門内部の調整・闘争の焦点である。

他国に範を求める日本的志向も、財政に関するかぎりアメリカを顧慮することはなかった。だが、本書を読むにしたがい、問題の本質は日米ともに同じであることがわかる。地方分権、というより地方の自主をいかに確保し維持するかである。

日米財政の共通性の卑近例では、先進国の中で両国だけが道路財源を“特定財源”に求めていることがある。アメリカでも一般財源化が進んだが、最近、特定財源に逆戻りした。それはなぜか……。財政赤字先輩国に習うことは予想以上に多い。【評者 熊野政晴】

■2005/12/17, 週刊東洋経済

いまどきの「常識」
4004309697香山 リカ

岩波書店 2005-09
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おすすめ平均 star
starワイドショーコメント。
starいささかすっきりしない
starあまりにも単純化されたマスメディアの議論への警鐘という意味では参考になる

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なんだかイヤな時代になったと感じている人は多いだろう。メディアには、一昔前ならまともに人前に出せなかった低劣で悪質な言論が堂々と登場している。

弱者へのイジメ、あられもないカネ儲け万能主義、反人権思想、排外主義、国家主義、差別主義、時代錯誤的男女観・家族観など、まるで日本が“天皇を中心とする神の国”にでもなってしまったかのような状況だ。本書にはこうしたイヤな現象がたくさん出てくる。

たとえば著者がある公開討論会で「平和」という言葉を口にしたら、周りの空気が凍りついたという話。想像を絶する事態だが、現在、反戦、理想、人権、平等などの言葉も同様な状況を引き起こすという。

また精神に障害を持つ人を社会を“防衛”するために隔離しようとする話。しかも“隔離施設”を自分の近くに作るのには絶対反対だというのだからあきれる。

読めば暗澹たる気持ちになるが、今の日本を見据えるためにぜひ読むべき本。

■2005/12/17, 週刊東洋経済

江戸を歩く
4087203166田中 優子

集英社 2005-11
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本書は、新書版ながら、“江戸散歩”本の白眉だ。このところ類書は数多く出版されているが、お手軽な散歩ガイドに堕している場合が少なくない。しかし、本書は文章に格調があり、神経が行き届いている。

愛読者としてよい散歩本の条件を挙げてみると、〔1〕歴史的な挿話がたっぷりあること、〔2〕うんちくを傾けていること、〔3〕文学的香りがあること、〔4〕実際に散歩しているような臨場感があること――などだが、本書はこれらを満たしている。

冒頭の「鎮魂の旅へ」の章の千住小塚原の紹介には惹かれた。「日本が伝統を重んじる国であるなら、御霊の鎮魂と慰撫を大切にし続けただろう。敵を無視し味方の軍人だけを『英霊』と呼んで特別に祀ったりはしないであろう。(中略)明らかに御霊とみなされる者たちを、線路で分断しその下に踏みつけにしたりもしない」。同感である。

前書きで本書は「写真集である」と謳っているが、期待に違わず写真もいい。

■2005/12/17, 週刊東洋経済

マッカーサーが来た日―8月15日からの20日間 光人社NF文庫
河原 匡喜

昭和20年8月15日以降の晩夏は、混迷と彷徨、そして挫折と虚無の交錯する日々であった。本書は、副題に「8月15日から20日間」とあるように、この時期を扱っている。太平洋戦争勃発後1カ月もたたない昭和17年1月、「アイ・シャル・リターン」という屈辱的な名言を吐いて、闇夜に小型船でマニラを脱出したマッカーサー元帥は、日本占領に際し、異常なほど神経を尖らせていた。

一方、連合国軍が指定した厚木基地の第302航空隊では小園司令が「神州不滅」を信じ、「国体護持」のため抗戦継続と全海軍の決起を呼びかけた。海軍「中央」の説得工作も不調に終わり、鎮圧軍の投入も図られる一触即発の状況になるが、高松宮の電話による叱責と説得も加わり、結局小園指令は海軍最後の軍法会議へと送致された。

8月30日、サングラスにコーンパイプの連合軍最高司令官マッカーサー元帥が堂々と厚木基地に降り立ったのだった。

■2005/12/17, 週刊東洋経済

人は見た目が9割
4106101378竹内 一郎

新潮社 2005-10
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「理屈はルックスに勝てない」。この衝撃的なオビに、やっぱりお笑いはジャニーズに勝てないのか、などと見当はずれな想像をしたが、内容は至極まっとうだ。著者の言う「見た目」とは「顔立ち」や「スタイル」ではない。

言語によるコミュニケーションの研究は多いが、実は言語によって伝達されるものは、伝達される内容のたった7%にすぎないのだそうだ。残る93%は、しぐさや表情、姿勢、マナーなどといった、外見的な要素に占められているという。

人と接する営業のような仕事や演劇の指導を受けないかぎり、日本ではそういった言語外の伝達に関する教育はされないし、就職学生や女性向けにマナーを教えるレベル以上に、それを解明した書物はなかった。

戯作や舞台演出、漫画の原作を生業としている著者の細やかな人間観察やユーモアも織り交ぜ、楽しく読ませながら、ふと自分自身の「見た目」にも思いをはせさせられる。

■2005/12/17, 週刊東洋経済
 
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